尾形藤吉展を見て/島田明宏

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【島田明宏(作家)=コラム『熱視点』】

 東京競馬場内のJRA競馬博物館で開催されている尾形藤吉展を、先週ようやく見ることができた。正式名称は、特別展「生誕130年記念 尾形藤吉 〜“大尾形”の系譜〜」である。

 尾形藤吉(1892-1981)がどんな人物だったかを端的に言うと、「多くの優れた人馬を育て、日本の近代競馬の発展に大きく貢献したホースマン」である。

 調教師として歴代トップのJRA通算1670勝。2位は藤沢和雄氏の1570勝。

 定年がない時代だったので、無条件に比較することはできないが、1954(昭和29)年9月にJRAが創設されたとき、尾形は62歳だった。つまり、62歳から89歳までの27年で1670勝もしたのである。通算勝利数は、その前国営競馬時代、日本競馬会時代、倶楽部時代の勝ち鞍を加えると、さらに増える。資料が不十分なので正確な数字はわからないが、1100勝以上は確実に挙げていたので、通算2770勝以上だったことは間違いない。

 八大競走39勝も、クラシック26勝も、そして日本ダービー8勝も、もちろん史上最多である。

 そんな歴史的伯楽として名を馳せた尾形が、どんな時間を過ごしながらどんな馬と人を育て、どんなレースを勝ち、「大尾形」と呼ばれるようになったのかがわかる展示になっている。

 1階から順路に従って、少年時代、騎手デビュー、厩舎開業……と、この特別展のためにつくられたパネルや写真、トロフィーなどを見ていくことになる。左奥の別室は、関係者による証言のパネルと映像コーナーになっている。そこに入って、尾形の孫で元調教師の尾形充弘氏や松山康久氏らのパネルを読んでいると、聞き覚えのある声が耳に飛び込んできてギョッとした。私の声だ。

 設置されたモニターで、2012年に私が番組ナビゲーターをつとめたグリーンチャンネル特番「日本競馬の夜明け 名門・尾形藤吉厩舎」が流されているのだ。

 展示は1階だけではなく、2階でも行われている。

 階段(エスカレーター)を上がってすぐのところに「尾形藤吉一門」の系譜がある。今は数年でフリーになる騎手が多く、昔より師弟関係が希薄になったとはいえ、デビュー当初に所属した厩舎の長である調教師が「師匠」で、騎手が「弟子」であることには変わりない。尾形の孫弟子や曾孫弟子などには、「この人も尾形一門なのか」と意外に思われる騎手や調教師もいて、面白い。

 そのすぐ近くに、尾形の弟子だった最年少ダービージョッキー・前田長吉の鞭と長靴が展示されている。

 かつて、尾形厩舎が東京競馬場の敷地内にあったとき、ちょうどそこは現在、競馬博物館が建っているあたりだったという。

 前田長吉の兄の孫で、八戸在住の前田貞直さんは、今回の特別展があることにより、前田の遺品が「帰京」できることを、とても喜んでいた。

 この奥の、大きなガラス張りの展示スペースに、前田のパネルと、この鞭や長靴、斤量を調節するためのベストである「鉛チョッキ」など前田が愛用した馬具が入っていた木製の道具箱が展示されている。

 このパネルは「主な門下生」というタイトルで展示されているもので、美馬信治、大久保亀治、岩佐宗五郎、古賀嘉蔵、伊藤正四郎、伊藤雄二、松山吉三郎、松山康久、内藤潔、保田隆芳、八木沢勝美、前田長吉、野平祐二、工藤嘉見、伊藤修司、森安弘昭、森安重勝、田中和夫、伊藤正徳、尾形盛次、尾形充弘と、ビッグネームがズラリと並んでいる。

 尾形藤吉自身の功績もさることながら、門下生や馬主、生産者など、多くの人々と心と力をひとつにして、日本の近代競馬を支えてきたことがわかる、素晴らしい特別展だ。

 1時間かけても「駆足でサッと見た」となってしまうほどの質と量なので、時間に余裕を持って来るか、あるいは、2、3回に分けて見てもいいのかもしれない。

 今週の土曜日、11月26日の午後2時から、競馬博物館のミュージアム・ホールで、この特別展の開催を記念して、尾形充弘氏と、保田隆芳の孫で、声優の河合紗希子さんによるスペシャルトークショーが行われる。定員があるので、当日整理券を配布するとのこと。そちらも楽しみだ。

 今回も、情報の性質上、一部敬称略とした。

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  • 11/24 21:00
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