ガールズ選手の救護はセクハラにならないように…。競輪場のバンク内にいる審判補助員の仕事

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◆落車発生で現場に急行!! 七人の侍ならぬ7人の補助員

 激しい競り合いが繰り広げられる競輪では、レース中に落車が発生することもしばしば。そんな時、瞬時に駆けつけ選手の救護にあたるのが、バンクのコーナーやセンターに計7人が配備されている審判補助員である。レースの主役は選手たちであって、決して注目される存在ではないが、彼らのおかげで安全且つ円滑にレースが進行していくのだ。

 果たして彼らはどういった仕事をしているのだろうか。給料や待遇など、競輪ファンなら気になることが多くある……。

 そこで今回は、元競輪選手で現在は東京のレース場を中心に審判補助員として活動している遠藤隆史さんに話を聞いた。

◆一番重要な仕事は落車時の救護

――まずは基本的な仕事内容を教えてください

遠藤:主に「走路の安全確認」と「落車時の救護」の2つですね。まあ、なんと言っても一番重要なのが救護の方。早期周回で発生すると1周まわってまた選手たちが走って来るじゃないですか。とにかく2次被害を防ぐために、どんなに傷だらけになっていても「すみません、すみません」って言いながらバンクの下の方まで引っ張ってます。

 走路の安全確認は、まず発走5分前点検でバンクを1周して異常がないかを確認。あと、落車時にアスファルトが削れたらその場で修繕もします。結構、べダルで削れちゃって走路がボコっちゃうんですよね。そうなると、次のレースが危険だから。アスファルトを持ってきてボコった部分に塗ってバーナーであぶりつつ金槌で平らにします。

――早期周回での落車は、いかに素早く避難させるかが重要となると、一周が333mのバンクでは特に大変そうですね?

遠藤:たしかに33バンクだとすぐに他の選手がまわってきちゃうんだけど、33バンクって角度がキツいから意外と勝手に下まで滑り落ちてくるんですよ(笑)。それよりも、平べったい500バンクの上の方で転倒した時の方が大変ですね。

◆落車した選手には3回問いかけなければいけない

 メインとなる落車時の救護。緊急を要する場合は、その後のレースに支障をきたさないよう有無を言わさずバンクから避難させるわけだが、軽傷だった場合、選手は再び自転車に乗りゴールを目指すこともある。この際、棄権するか再乗するかの確認をするのも補助員の仕事。ちなみに、棄権時の賞金は末着(9車立なら9着)の80%が支払われる。ケースによっては落車したからといって必ずしも末着になるとは限らないわけで……。

――落車時に棄権するか再乗するかは誰が判断するんですか?

遠藤:まず、早期周回での落車や選手に意識がない場合など、ホントに急を要する時はすぐに引っ張っちゃいます。でも、ラスト周回とかゴール前とか、その後、走って来る選手がいない場合は「乗りますか? 乗りますか? 乗りますか?」と、必ず3回聞いて、それで選手が棄権するか再乗するか決めるんですよ。

 選手によっては、大量落車に巻き込まれつつも軽傷だった時、バンクに横たわりながら落車した人数を数えて「え~っと1、2、3…あっ、これ再乗すれば1つ上のレースにいけるな」って瞬時に計算して「乗ります!!」って人もいて。競輪選手ってそういう時の計算だけは異常に早いんですよね(笑)。あと、逆に競走得点の兼ね合いで「この着になるくらいなら再乗しない方がいいな」ってことで棄権する人もいます。

◆ガールズ選手の落車時はセクハラにならないように…

ちなみに落車した時の対処法で、男子選手と女子選手で何か違うことはありますか?

遠藤:女子の落車の場合、男子よりも気を遣いますね。早期周回以外で選手も意識がしっかりとあって冷静だったりすると、肩とか腰とか持っちゃって大丈夫かな? って。とはいえ、気にしてたらレースが進行しないので持っちゃいますけどね。さすがに、それで「セクハラだ」って思う人はいないと信じたいです(笑)。そんなことよりも痛さの方が上回ってるから「さっさと連れて帰って」って感じじゃないですかね。

 あと、やっぱり女子の落車はできれば見たいくないですね。男子なら傷だらけでもそんなに気にならないけど、女子の肘とかがズル剥けになってたり、レーサーパンツが破けてお尻が丸出しになっちゃったりとか、もう見ていて辛くて……。ガールズのレースは落車しないように祈りながら見守っています。

◆普段は何をしている人たちなのか

 遠藤さんが補助員を始めたのは元選手仲間からの紹介がきっかけ。立川で仕事をもらうようになり、現在は立川・京王閣をメインに補助員として活躍するようになったとのこと。やはり、このような仕事は元選手や競輪関係者がほとんどなのかと思いきや……。

――遠藤さんは元競輪選手ですが他の補助員も元選手の方が多いんですか?

遠藤:いや、いまの職場で元選手だったの僕だけですね。補助員は審判員と違ってアルバイトだからいろんな人がいるんだけど、大学生の自転車部が多いかな。自転車繋がりで声をかけて集めてるみたいです。あと、競輪や自転車競技とは全く関係ない人もいるんですが、大抵は何かしらで競輪と繋がっていますね。先日、一緒に働いていたのは、もともと選手を目指していた焼き鳥屋さんに、選手に知り合いがいた釣り雑誌のライターとミュージシャン2人。

――いろんな目標を持っている人が一時的な仕事としてやっているんですね。

遠藤:競輪関係者以外だと、他にボクサーなんかもいましたけど、まだそれだけで食えない人たちが掛け持ちでやっている。そういうスタイルの人が多いですね。

◆気になるお給料や待遇面は? デイ開催以外は特別手当もあり!!

 審判員や打鐘員(ジャンを鳴らす)、周回員(周回版を表示)などルールに関わる仕事は社員が行っているのだが、補助員はルールや違反などに関してはノータッチ。あくまで、安全にレースを進行させるのが最大の役割。それゆえ、特にルールを覚える必要もないので採用試験や難しい研修などはなく、競輪関係者との繋がりがあれば意外と簡単になれるそうだ。そう言われると気になるのが給料や待遇面ではないだろうか。

――アルバイトということですが給料や待遇面はどんな感じですか?

遠藤:僕の場合、メインが立川と京王閣でたまに西武園に呼ばれる感じなんですが、東京は日当9000円、埼玉は東京より少し安かったと思います。デイ開催以外のモーニングとかナイター、ミッドナイトの場合、それに手当てが上乗せされて1万円前後になりますね。

 デイ開催の立川の場合、10時くらいに集合して、なにもトラブルがなければ17時くらいに解散。なにかトラブルがあると30分くらい押しますね。

――お昼休憩やお弁当の支給などはあるんですか?

遠藤:僕も最初は弁当くらい出るのかなと思ってたけど出ないですね。あっ、でも暑い日は水が支給されます(笑)。まあ、仕方がないですよ、大した仕事してるわけじゃないから。休憩時間も特に決まっていなくて、みんなレースの合間の10分、15分くらいで自分で用意した弁当を食べています。

◆マルチに自転車と関わる遠藤氏から見た競輪の魅力とは?

 遠藤さんは現在、恵比寿で自転車屋を営みつつ要請があれば補助員としてレース場へ。また、自転車強化訓練にも参加し、より効率良く身になる練習方法はないか、どうすれば若手選手がもっと強くなれるか、といったことを考える指導者的立場でも活動している。そんな3つの顔を持つ遠藤氏から見た競輪の魅力とは?

――元選手、補助員そして指導者として「ココに注目するともっと競輪が面白くなる」といったポイントはありますか?

遠藤:見ていて美しいなって思う競走もあるし、何やってんだよって競走もあったり、いろいろですが、やっぱりラインをきっちりまとめる、追い込み、マーカーの人は素晴らしいって思いますね。あと、行くべき時にちゃんと行く先行屋。行けるかわかんないけど絶対にいく。そういう先行屋は綺麗だなって思います。

 いまブーメラン作戦ってのがあるんですが、切るだけ切って誘導員を退避させる。それで、自分は戻って先行屋に風を当てさせ弱らせてから捲るっていう作戦。まあ、そんなことやってるヤツは大抵捲れないんだけどね(笑)。

 あと、良い先行屋は決して内を空けない。しっかりと内を締めて番手に仕事させればいいのに、内を空ける選手がたまにいるんですよね。それで、別のラインに内を突っ込まれちゃって番手を取られちゃう。こういうのは美しくないです。

 そういうとこに注目してみると、選手の性格が分かるようになるんですよ。こいつは綺麗な先行屋だなとか、気持ちの良いマーカーだなって。ファンからすると車券の当たりハズレが一番重要だとは思うけど、こういった点にも注目してみると、レースがより面白くなるんじゃないかな。

◆補助員がいるからこそ白熱したレースが楽しめる

 遠藤さん曰く、補助員を始めたことで現役時代には全く考えもしなかったことに気づくことも多いという。

 バンクの内側でレースを見ていると、「なんであそこで突っ込んでいくのかな」、「そこで持っていったら落ちるだろう」と思うものの、選手だった時は「自分も平気でやって落車し、たびたび補助員に電動カートで運んでもらったな、いろいろ迷惑かけていたな」と、過去の自分の走りを振り返るとのこと。

 もちろん、選手たちは常に1つでも上の着を取ることを一番に考えているだけに、危険を承知の上で強引な走りをすることもあるだろう。だが、それも安全を見守る補助員がいるからこそできるわけだ。

 選手たちが全力でレースに挑み、より白熱したレースを競輪ファンに楽しんでもらう上で絶対に欠かせない存在である審判補助員。彼らの仕事に注目してみると、また一つ競輪の面白い世界が垣間見ることができた。

取材・文/仲井大和

【仲井大和】
現役競輪選手と親交がある、競輪界の事情通ライター。学生時代に始めたパチンコをきっかけに、ありとあらゆる賭け事を渡り歩き、現在は競輪やパチンコの記事を執筆している

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この記事のみんなのコメント

1
  • ***

    10/6 13:15

    救助するのに体に触れて何がセクハラじゃ!気にすんなよ!救助とそのあとの二次事故防止がメインやろ!

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