自殺未遂、年金3万円…どん底人生から80代でやっと見つけた“生きる幸せ”

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 赤い椿の柄が目を引く、ちょっとレトロながま口バッグ。作ったのは現在84歳のおじいちゃん。『あちこちガタが来てるけど心は元気!80代で見つけた生きる幸せ』(KADOKAWA)の主人公です。

 G3sewing(じーさんソーイング)は、84歳の父(じーさん=G3)、80歳の母(ばーさん=B3)、50歳の三女(=kiki)の家族3人で構成されたソーイングチーム。名前からわかるとおり、中心人物は84歳のG3です。

◆年金3万円、でも生きがいを見つけた

 現役の頃のG3は電気工事士として働いていました。腕はいいけれど頑固で短気、仕事が続かないこともあり、家族は苦労したそうです。やがて年を重ねたG3は病気にかかり、入退院を繰り返します。鬱病を併発し、自殺未遂をしたことも。しかも年金は月に3万円ほど。暗く寂しい末路になりそうなところを救ったのは、一台のミシンでした。

◆忘れていた熱意を思い出し、気力が爆発

 2019年、kikiさんはG3に壊れたミシンを託します。ミシンの修理をきっかけにG3の職人魂が復活すればいい、そんな望みをかけたのです。Kikiさんの思惑は大成功。G3はミシンの魅力にハマり、聖書カバーを一気に18枚も縫い上げました。

 高齢になった親が何かに没頭してくれると、子としてはうれしいし、気持ち的にも楽になります。お世話をする手間も減り、こちらのペースが保てますから。とはいえ物作りには材料が必要。G3に芽生えた「もっと作りたい」熱にこたえるために、材料を買いそろえなくてはなりません。それも間に合わなくなると、G3は家の中の使っていない布をリメイク。ついに家族会議で、「新型コロナウイルスの特別定額給付金で新品の生地をどさっと買う」という結論が出されました。

 ひとりあたり10万円の給付金を、家族全員がG3の材料費にと差し出したのです。これって、なかなかできることではありませんよね。家族経営のG3sewing(じーさんソーイング)ですが、最初から円満だったのではないといいます。仲が良いのはここ2~3年で、以前は真逆だったのだとか。でも一台のミシンからG3の熱意がよみがえり、G3の思いにこたえたいと家族が奮闘しはじめたのです。

◆がま口バッグが話題に! 看板商品になる

 ミシンを使いこなし、様々なアイテムがG3の手から生まれます。やがてkikiさんのリクエストで、G3はがま口バッグに挑戦。商品自体はレベルアップしていますが、すぐに売れるわけではありません。そんな時、留学中だったkikiさんの息子さんが帰国しました。G3sewing(じーさんソーイング)に18歳のフレッシュな知恵と知識が加わったのです。息子さんはさっそくツイッターページを開設。同時期に完成したのが、椿の柄のがま口バッグです。

 今やG3sewing(じーさんソーイング)の看板商品となったがま口バッグを持つG3の画像をツイッターにアップすると、次から次へとDMが! G3いわくの「アメリカンドリームみたいや」。G3の熱意と技術、ご家族の支えと努力が結実した瞬間でした。

◆80代、まだまだこれから

 世の中の不景気も手伝って、50代の私も年々先行きが不安になっています。年金はもらえるのか、仕事は続けられるのか、健康は維持できるのか等々。30代、40代の方も不安に苛まれているかもしれません。でも、G3のように過去に修得した技術を生かし、第2、第3の人生を切りひらくことができたら、どんなに素敵でしょう。

 G3も、最初は商品として考えなかっただろうし、売るつもりも毛頭なかったと思うのです。ただ夢中になって取り組むうちに、周囲もその姿に胸打たれ、皆が一緒に心豊かになったのではないでしょうか。そうして、商品そのものはもちろん、商品に込められたG3とご家族のあたたかさにふれ、大切に使っているに違いありません。

 G3sewing(じーさんソーイング)をはじめた頃は、kikiさんが年をとったG3とB3を引っ張っていくという、どちらかというと上から目線だったそうです。なんせ80代、体力や気力が衰えていくのは当然です。しかし培ってきた知恵や技術はなくならないもの。さらに「ていねいな仕事ぶり、あきらめない心の強さ」も見習いたいとkikiさん。G3の生き方や、G3の仕事から健康までを支えるご家族の暮らしは、私自身も学びになりました。

◆すべての年代に通じる人生譚

楽しく仕事をしないと、いいものが作れない」というのがG3sewing(じーさんソーイング)の共通意見。「持って出かけたくなるような、ワクワクするバッグは、制作する側の楽しい気持ちが表現されているはず」。これって、老若男女関係なく、生き方につうじる心意気だと思うのです。

<文/森美樹>

【森美樹】
1970年生まれ。少女小説を7冊刊行したのち休筆。2013年、「朝凪」(改題「まばたきがスイッチ」)で第12回「R-18文学賞」読者賞受賞。同作を含む『主婦病』(新潮社)、『母親病』(新潮社)、『神様たち』(光文社)を上梓。Twitter:@morimikixxx

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