『暴太郎戦隊ドンブラザーズ』脚本家・井上敏樹が語る、“常識をぶち壊す”物語の秘密

◆祭りだ、祭りだ! 常識をぶち壊す脚本で大暴れ!

 子供たちを熱狂させるスーパー戦隊シリーズが、今、大人たちをも魅了している。『暴太郎戦隊ドンブラザーズ』。「暴太郎」(あばたろう)という奇抜なネーミング、変身後のメンバーのうち2人がCG、敵役との共闘!? 個性的な登場人物に複雑に絡み合うストーリーで視聴者の心を掴み、SNSでは毎週のようにトレンド入りを果たしている。

 そんな魅力溢れる世界を描くのは脚本家・井上敏樹氏だ。番組スタッフからは“大先生”と呼ばれる井上氏がなぜ、31年ぶりに再抜擢されたのか。その魅力の裏側を語ってもらった。

◆60代の貴重な1年間を捧げるんだ。気合が入るよ

──’91年の『鳥人戦隊ジェットマン』放送終了後は数々のアニメ作品や平成仮面ライダーシリーズなどを担当され、今回のドンブラザーズは31年ぶりのスーパー戦隊シリーズのメインライターになります。依頼がきたときのお気持ちは?

井上:もちろん嬉しかったよ。映像業界でも1年間、脚本を書き続ける番組ってあんまりないからね。60代の俺の残り少ない人生の貴重な1年間を捧げてるわけだから気合が入るよ。

──ドンブラザーズは、主人公たちが変身前の互いの正体を知らないまま話が進んでいくなど、革新的な脚本が世間を騒がせています。

井上:『里見八犬伝』もそうなんだけど、ああいう作品は味方が集まるまでが面白い。集まっちゃうと……同じような話が続いてつまらない。あとはボスを倒すだけのストーリーになる。だからドンブラザーズは、味方がなかなかそろわない。そろいそうになった瞬間に、また誰かがいなくなる。そういう不安定な戦隊が面白いんじゃないかな?と思ってるんだよ。プロデューサーの白倉伸一郎とは、撮る前から「新しいものを作りたいね」と話していた。でもそれって、結局は陳腐ではない“面白い本”を書けば、自然と戦隊シリーズの枠から外れたものになるとも思う。

◆弱点があるほうが、魅力的な人物になる

──第1話から主役の桃井タロウではなく、ヒロインの女子高生・鬼頭はるかが話のメインだったのも斬新でした。

井上:実は……最初、周りのスタッフも抵抗があったみたいだね(笑)。スーパー戦隊シリーズって男児が観る番組だろ? 序盤は男性視点から入るのが常識。でも、俺は女性視点から入ったほうが新鮮で面白いと思ったんだよ。女性が苦労して苦労して、一歩を踏み出す。そこに仲間がついてくるほうが、共感があるだろうって。だからドンブラザーズの第1話は、はるかがメインで、主人公の桃井タロウは変身すらしない、ってやろうとしたら、スタッフから止められたよ。「さすがに第1話には赤を出してください!」って(笑)。

──ドンブラザーズの一癖も二癖もある登場人物に魅了される大人が続出しています。

井上:今回のジャンルはコメディだけど、視聴者にはドンブラザーズの主要キャラの誰かに「来週も会いたい!」と思わせたい。そのためには登場人物たちに少し弱点をもたせてやる。例えば主人公のタロウは完璧な男だけど、嘘をつくと死んじゃうくらいのバカ正直。そういう“かわいらしさ”みたいなものがあったほうが、人間くさくて人の心を掴むんだよ。強烈なキャラがあれば子供でもわかりやすいし、大人でも楽しめる。

◆規制を逆手に取って面白くする

──脚本家デビューから40年以上、子供たちを熱狂させるキャラクターを生み出し続けているわけですが、求められるものに変化は感じていますか。

井上:時代は変わっても人間の本質は変わらないから、結局は面白いものが求められる。これは、半ば願望でもある。変わらないでいてほしい。そうでなきゃ、世の中どんどんつまらなくなっていく。時代に合わせたといえば、規制を逆手に取って面白くしてるところかな。今は劇中で酒もたばこもダメ。だから苦肉の策で“空想の酒”というのを出した。猿原って男が存在しない酒を、あるかのように飲み続けるという……、でもそれが結果的にキャラを強くした。マイナスをプラスに変えるのも脚本家の腕の見せどころかな。

──長く第一線で活躍するために、気力や体力をどうコントロールしているのでしょうか。

井上:意地だよ。「俺はまだまだ面白いものが書けるんだ」という意地。男はね、意地で生きるものなんだ。まぁ、若い頃は仕事よりも遊びを優先してヘラヘラしてたね。でも、今は遊び飽きちゃったのかな。若いときより今のほうが真面目に働いてる。30代でジェットマンを書いたけど、今はその3倍くらいのエネルギーを注いでるし、仕事をしてることが幸せだね。

──そう胸を張って言える人は少ない気がします。

井上:最近は「仕事は仕事」と割り切ってる人が多いよね。例えば脚本でも欠点のないものが通りやすいから、みんな無難なものを書いてしまう。でも、多少は欠点があっても面白いほうがいいに決まってるんだよ。構成が多少破綻していても、ストーリーが奇想天外だったり、セリフが抜群に魅力的だったり。自分が面白い!と思ったセリフやアイデアはとりあえず出す。ダメだったとしても、「今回はやりすぎたかな!?」と笑っていればいい。仕事でどれだけ遊べるかが、幸せになるコツかな。

◆海の底で美しいものを拾うように物語を探す

──脚本から小説や舞台まで含め、軽く3桁を超える作品に関わっていますが、0から1を生み出す秘訣とは?

井上:俺の場合、書き始めるまでは、ねちゃねちゃず~っと考えてる。そうすると次第に作品のなかに入っていける。潜る感覚に近く、ひたすら潜り続けて、深い海の底から“美しいもの”を見つけて、拾って帰ってくる。それが素晴らしい物語のもとになる。物語は思いつくものじゃなく、自分のなかから“見つける”感覚なんだよ。

◆“予感”が大事なんだ。物書きは勘で生きなきゃダメなんだよ

──ドンブラザーズも一話一話が面白く完成されていて、まさに宝物のようです。

井上:まぁ、俺はプロの脚本家だからな。さっきも言ったけど、俺は意地でも面白いものを書かなきゃいけない。あと、物語で言うと「謎」ってあるだろ? 普通のドラマだと謎はやがて解明される。でも俺は最近それ以外の道があるんじゃないか?と勘繰っている。すごく抽象的だけど、そこに美しいものが埋まってる予感がする。この“予感”が大事なんだ。物書きは勘で生きなきゃダメなんだよ。そういう意味でも、ドンブラザーズの物語はこれからもっと面白くなる予感がするね。

https://youtu.be/H9xizMQlTX0?list=PLtXzOaI-1_atE1cc7kgAXdaTzxteTxmuc

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 まだ誰にも見つかっていない美しいものを見つけに、今日も脚本家・井上敏樹は深く深く思索の海へと潜り続ける。

 時代が変わっても、「人間が求め続ける変わらぬ面白さ」を探すために。それがプロの脚本家として、彼が示し続ける“意地”なのだ。

https://youtu.be/FA-5pcgYyN4

【Toshiki Inoue】

’59年、埼玉県生まれ。大学在学中にテレビアニメの脚本家としてキャリアをスタート。その後、アニメや特撮で数々の作品を執筆。『鳥人戦隊ジェットマン』のほか、『仮面ライダーアギト』『仮面ライダー555』など、平成仮面ライダーシリーズでも活躍

取材・文/南ハトバ 撮影/水野谷維城

―[インタビュー連載『エッジな人々』]―

2022/7/28 15:53

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