井上小百合、芸能活動の原点は母の教え「今の自分は今しかない」
女優の井上小百合が、地元・埼玉を舞台に描かれる映画『ラストサマーウォーズ』に出演している。
7月1日より全国順次公開される同作は、内気な小学6年生の男の子が好きな女の子のため、仲間を集めて自主映画を撮り始める青春物語。
子どもたちを見守る担任教師・土方先生を演じる井上に同作の見どころを語ってもらう共に、彼女の“やり残したこと”を尋ねると、芸能活動の原点となった母親との思い出を聞くことができた。
大人たちを通して「“自分の在り方”を教えられた」
──今回が初の映画ということですが、出演が決まった時の感想をお聞かせください。
素直にうれしかったです。地元の埼玉で撮影できるということも、私にとってすごく思い入れが強くなる映画になりそうだなと感じました。
──脚本を読んだときの印象はいかがでしたか?
コロナ禍で自分のやりたいことや夢を諦めざるを得なくなった人たちがたくさんいらっしゃった中で、自分の中の「好き」を大事にする気持ちの重要性をすごく感じた作品で、そこに感銘を受けました。
──作品を通して、井上さんにとってどんな学びがありましたか?
夢や憧れに対して、まっすぐに突き進む子どもたちの姿がとてもキラキラしている素敵な作品です。そして、その周りにいる大人たちの在り方というものも教えてくれる作品だと思いました。
私がこの世界を目指そうとした当初は、反対する大人たちが多かったんです。もちろん今は「私のことを思って言ってくれていたんだ」と理解できるようになりましたが、ただその一方で、大人たちが子どもを信じて自由にさせていたら、もしかしたら当時の自分も、もう少し違う行動ができたかもしれない、と思うこともあります。この作品は、楽しめる作品というだけではなく、“大人の在り方”を教えてくれる、深みのある作品だとも感じています。
──教師という役どころは演じてみていかがでしたか?
最初は子どもたちとの距離感をどうつかんでいくか戸惑いもありました。でも、子どもたちも緊張していたので、まずは好きなテレビ番組など身近な会話から始めていきました。
監督は以前、塾講師をしていた経験があるそうなんです。どういうふうに子どもと接したら距離が縮まるかを一緒に考えながら、アドバイスをくださったので、撮影を終える頃には子どもたちととても仲良くなることができました。役としてだけでなく、本当に先生と生徒のような関係を築けたような気がして、とても楽しかったですね。
──演じる上で、特に意識したのはどんなことですか?
自然体でいることを心掛けました。私の演じた役柄はまだ2年目で若手の教師ということもあって、仕事に馴染めてない感じやドジなところがあったので「先生だから」とカッチリしすぎず、作り込まないようにしていました。
「舞台をやりたくてこの世界に入った」
──井上さんは舞台に出演していることが多いと思うのですが、今回は映像作品。違いを感じたり、勉強になったりしたことがあれば教えてください。
たくさんありました。舞台の場合は、「後ろの席の方までどう伝えるか」ということで身体表現を重視してしまいがちなんですが、映像で同じことをすると表現が過剰になってしまうので、そぎ落とす作業を心がけた場面もありました。
たとえば土方先生が寝坊して遅刻するシーンでは、自分が普段やりがちな仕草を入れてみたり。舞台では細かく演じるというよりもわかりやすくリアクションをつけることも多いんですが、映像だったのでまばたきの回数を増やしたり、髪をぐしゃぐしゃとかき乱して、焦っている感情を表現してみました。細かい仕草を自然な感じで入れてみたことで、監督からも「すごく良かったよ」と言ってもらえたので良かったです。
──井上さんは、活動の主軸は舞台に置いているのですか?
舞台をやりたくてこの世界に入ったので、やはり舞台が好きなんです。でも、活動を舞台だけに絞ってしまうと枠が狭まってしまうとも感じています。今は、映像で得たものを自分の中に取り入れたり試したりしながら、そこで得たものをまた舞台に持ち帰ることができたらいいな、と自分の中では思っています。
小学生の頃は“野生児” 大量のセミの抜け殻に先生がドン引き
──今作は小学生の夏休みが描かれていますが、井上さんはなにか印象的な夏休みの思い出はありますか?
私は田舎育ちなので、小学生の頃はとにかく野生児のようだったんです。1歳上のお兄ちゃんと一緒に、いつも外に行ってセミを捕まえたりしていて。夏休みの宿題にセミの抜け殻を大量に集めた作品を提出したら、先生にドン引きされたことがあります(笑)。国語とか算数とかの宿題は全然やらないのに、自由研究だけめちゃくちゃ熱心に取り組むような子どもでしたね。川で魚やサワガニを捕まえたり、野鳥を見に行ったりと、ずっと外にいました。
──撮影現場で印象に残っているエピソードを教えてください。
子どもたちがとにかく可愛すぎて、毎日癒されていました。でも、子どもたちに対して、「やっぱりプロだな」と思うところもいっぱいありましたね。子どもたちは、助監督・カメラマンといった役の中の仕事の役割を脚本から読み込んできていて、最初のリハーサルの段階ですでにカメラマンや照明さんの仕草を熟知していました。つまり、子どもたちは普段から周りのスタッフさんのことをよく見ているんだな、これはプロの目線だな、、、と思ったんですよね。同じように私のことも見ているかもしれないと思うと、頑張らなきゃなと思いました。
母の教え「今の自分は今しかない」
──今作では「やり残したことがないように過ごしなさい」というところから子どもたちの映画撮影が始まりますが、井上さんご自身はやり残したこと、後悔していることはありますか?
自分が芸能活動を始めたいと言った時、唯一賛成してくれたのが母親でした。母が応援してくれたから今の自分があると思っています。高校卒業のタイミングで「大学に進学して就職する」か「先は見えないけど芸能界でやっていく」か、すごく悩んだ時期があったんです。私は福祉のお仕事に就きたいと思って、大学の見学に行ったりもしていたんですが、母親に相談したら「今しかできないことをやったほうがいいよ、今の自分は今しかないから」と言われて。それで芸能界を続けることが出来ました。その選択は今も後悔していないです。
後悔といえば、学校生活はちゃんと送っておけばよかった。修学旅行とか文化祭とか運動会とか、今思えば「その時にしかできないこと」だったので、ちゃんと行っておけばよかったです。体が弱かったということもあったけど、ほとんどは芸能活動で仕事と被ってしまってどうしても行けなくて。その時は仕事がやりたかったから楽しいと思っていたんですけど、「両方頑張る方法はなかったのか」とあの時の自分に言いたいと思うことはあります。
──ありがとうございました。最後に作品を楽しみにしている方にメッセージをお願いします。
埼玉が舞台になっている作品なので、埼玉の魅力を全国に発信できたらと思っています。出演者の皆さんも埼玉出身の方が多くて、同じ地域で育ってきた人たちが東京で再会してまた地元で仕事ができるという感覚がとてもうれしかったので、自分にとっても大事な方々との出会い、作品との出会いになりました。
コロナ禍を通して次の時代を作っていくはずの若い世代の人たちが、今かなり生きづらくなっているように感じて、胸が痛くなることが度々ありました。そんな若い世代の人たちにこの作品を見ていただき、自分の好きなものや憧れているものを大事にする気持ちをしっかりと持っていてほしい、、、、。そんなメッセージも含まれていると思っています。
夢を諦めてしまいそうな大人たちや、壁にぶつかっている大人たちが見て心に響く作品です。子どもを持つ親の皆さんにとっても、子どもへの接し方が学べるような物語になっていると思います。本当に老若男女問わず胸に刺さる作品になっていますので、ぜひ多くの皆さんにご覧いただきたいです。
取材・文・撮影:山田健史