既存政党がキワモノ政党から学ぶべきこと<著述家・菅野完氏>

◆参政党の躍進

 参政党なる新しい政治集団の躍進が目覚ましい。

 5月某日。参政党は「イシキカイカクサミット」と称する政治資金パーティーを行い、広く一般からの参加を募り、5000人以上の参加者を集めた。

 驚くべきはそのパーティー券の高額さだ。SS席10万円、S席5万円ときわめて強気の値付け。しかしこれが飛ぶように売れ即日完売したというのだから驚く。参政党はこの日のパーティーだけで、パーティー券収入や会場でのグッズ販売で、2億円前後の政治資金を積み上げたという。

 街頭演説の勢いも凄まじい。新橋や新宿などの都内ターミナル駅前のみならず、全国各地の県庁所在地でも軒並み1000人前後の聴衆を集め、どの会場も大盛況だ。自民、立憲、公明、共産などの老舗政党でさえ、動員なしでこの人数を街頭に集めることは不可能にちがいない。

 この勢いはすでに情勢調査にも反映されつつある。参院選が近づき実施頻度が高まってきた各社の世論調査では、次の参院選での投票先として「その他の政党」(参政党は政党要件を満たしていないため情勢調査では団体名ではなくこの選択肢に含まれる)を選ぶ人の割合が、ここ最近(5月下旬から6月上旬実施分)では常に2パーセント台を推移するようになっている。これは前回2019年参院選におけるれいわ新選組とNHKから国民を守る党の事前情勢調査数値を合計したものより大きい数値だ。来たる参院選で参政党が、2019年参院選でのれいわ新選組とNHKから国民を守る党の獲得議席合計=3議席を凌駕することも十分にありうる数値と言っていいだろう。

◆れいわ・NHK旋風と同種

 こうした参政党の人気は、主にネット、とりわけYouTubeを中心に形成されたものだ。参政党の街頭演説の様子をダイジェストにまとめた動画は、今年春ごろからYouTubeに大量に投稿されるようになった。そして動画が大量に投稿されることで、視聴者の目に止まるようになり、ある一定の再生回数を稼ぐようになった。

 ここまでくるとあとはYouTube独特のメカニズムが自動的に動き出す。YouTubeには広告収入を当て込んだ弱小動画配信者が無数に巣食っている。この種の小金を獲得することを狙う連中は、常に「話題」を探しており、少しでも話題を集められる素材を見つけると、それを勝手に編集し、自分の動画としてYouTubeに投稿する。そうすることでその特定の話題はさらに大きな話題となり、さらなる広告収入狙いの動画配信者を呼び込んでいく……。

 こうして参政党は雪だるま式にYouTubeでの話題となった。現時点では参政党の各種動画は、YouTubeの政治コンテンツの中で最も再生回数と視聴者数を稼ぐ最強の存在と言っていい状況だ。

 また彼らの主張が、YouTubeを政治の入り口としてしまうような層にうまく適合していることも事実である。参政党の主張の内容は、反ワクチンや反マスクなどを織り交ぜた愚にもつかない陰謀論もどきのものでしかない。「世の中で常識だ定説だとされているものに、挑戦している自分」を演出して見せるだけで、一定の人気が生まれてしまうのがネットの特徴。参政党はこのネットの風潮をよく理解しており、あらゆる主義主張に、既存の価値観・既存の政治秩序に対する対抗言論を混ぜ込んでいる。その内容は「反対のための反対」でしかなく、既存の価値観を否定することに専念するあまり、前述のように勢いあまって陰謀論にさえ足を踏み込んでしまっている。まともな知性のある人物なら一瞬で取るに足らない物と吐き捨てるに過ぎない代物だが、こうも勢いづくと、ネットの中では「既得権益に争う挑戦者」との称号を冠してしまうのが現実なのだ。

 その意味では、2019年参院選における、れいわ・NHK旋風と同種と言える。あの両党も「常識に疑義を挟む」「既存の価値観を否定する」で人気を博した。そして議席獲得後、そのままの路線で突き進み、あれから3年、れいわは凋落しNHK党は実質的に壊滅した。

◆〝キワモノ〟たちが既存政治勢力を凌駕する

 もっとも参院選とは常にこういう選挙であったと言えなくもない。昭和の昔の全国区選挙時代も、非拘束名簿方式の比例代表制となった平成以降も、選挙区以外の参院選は、「目立ったもの勝ち」「極端なことを言ったもの勝ち」といった側面が常につきまとってきた

 そうして当選した〝キワモノ〟候補者たちはやがて国会に登場し、明治以来の国会の伝統や政治手続きの堅牢さに直面することになる。あるものは〝キワモノ〟であり続けようとし無謀にも議会の伝統や手続きに挑戦することで、無様な討死の姿を晒す。そしてあるものは、順応しきってしまい〝キワモノ〟であることを捨ててしまう。いずれにせよ行き着く先は、〝キワモノ〟だからこそ投票してくれた支持者・有権者に愛想を尽かされるという結末だ。

 そして前回の選挙で〝キワモノ〟を支持した有権者は、次の選挙で違う〝キワモノ〟を支持し、うつろい続ける。現に、2019年の参院選でれいわを必死に応援したボランティアが、今回の選挙では参政党に夢中になっている姿は、随所で目撃されている。選挙区以外の参院選の選挙制度が歪であり、「キワモノが勝つ」風潮がある以上、こうした光景は、これまで何十年も繰り返されてきたし、今後も繰り返されるだろう。

 しかし問題は、こうした〝キワモノ〟候補者とそれを支持する有権者が、近年とみに増えてきたという現実だ。前述のように今回の参議院選挙では、参政党は比例で3議席を獲得することさえ視野に入っている。前回参院選から凋落したとはいえ、れいわ新選組も比例1議席は固い。NHK党はもはや崩壊したに等しく議席確保はかなわないだろうが、それでも、れいわと参政党の〝キワモノ〟2党で計4議席獲得さえありうる情勢だ。前回参院選における国民民主党や共産党の獲得議席と何ら遜色のない数字である。とうとう〝キワモノ〟政治勢力が、老舗既存政党を凌駕する時代がやってきたのだ。

 この現実を、嘆かわしい風潮と処理してしまうことは厳に慎むべきことだろう。いかに〝キワモノ〟と言えどもそれは厳粛なる有権者の審判だ。それに、〝キワモノ〟たちが既存政治勢力を凌駕するのは、それだけ既存の政治のありかたが、多数の有権者に愛想を尽かされている証左に他ならない。

 言い換えれば、〝キワモノ〟ずきの有権者からしても、既存の政治勢力は、旬の過ぎた(当世風に言えば「オワコン」の)〝古臭いキワモノ〟とみなされているということだ。

◆投票したい政党がない

 前述のように参政党の主義主張は、陰謀論を含んだ荒唐無稽なものが多い。さらに言えば、論評に値いするような個別具体的な政策など無いに等しい。どう考えても議席獲得後、参政党が、国会議論についてこれるだけの素養があるとは思えない。おそらく国会でケレンみの多い動きをして鼻を膨らませるのが関の山だろう。それを支持してしまう有権者も同様。確かに、参政党もその支持者も、知識もなく、日本の議会制度が明治以降曲がりなりにも100年以上の歳月をかけて磨き上げてきた、議会の伝統や政治手続きの堅牢さになど何の理解もないであろう。

 しかしこういう人たちも有権者なのである。いや、こういう人たちこそ、他のどんな有権者よりも大切な有権者だと言うべきだろう。政権選択選挙でもない参院選で、しかもあまりにも巨大な与党を戴きながら迎える無風の参院選で、熱心に政治活動を行い、街頭演説に足繁く通う有権者たちだ。

 そう考えると、この種の人々は、決して掃いて捨てる存在ではなく、極めて貴重な有権者層であることがわかるだろう。こうした層が、参政党やれいわやNHK党などの〝キワモノ〟政治集団に吸い寄せられていくのは、〝キワモノ〟の方が詐術を使うからではない。何か機会さえあればここまで熱心に政治参画する人々を、既存政党の方が掬い上げられていないのだ。

 参政党の街頭演説は極めてシステマティックに行われるのが特徴だ。街頭演説の裏方として働くスタッフ各位の勤勉さと有能さには舌を巻くものがある。荒唐無稽な主張を詐欺師めいた話術でまくしたてる下品な候補者たちにくらべると、裏方のスタッフのほうがその誠実さといい有能さといい政治家にふさわしいのではないかと思えるほどだ。

 そのスタッフ各位はみな、参政党のシンボルカラーであるオレンジ色のTシャツを着用している。そのTシャツの背中にはこう書かれている。

「投票したい政党がないから、自分たちでゼロからつくる」

 既存政党各位が、参政党のような政治集団を見下すのは無理からぬことであろうし、正しくもあろう。しかし足蹴にするまえに、まずはあのTシャツの文言を、いちど噛み締めてみるべきではないか。

<文/菅野完 初出:月刊日本7月号>)

―[月刊日本]―

2022/7/1 8:50

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