コロナ禍の東京2020大会で新たに生まれたボランティアの役割って?

「マスク越しでも笑顔が感じられた」と海外選手から感謝の声が上がった東京2020大会のボランティア。新型コロナウイルス感染症の拡大により、大きな影響を受けたのは言うまでもないが、一部無観客の大会でボランティアはどんな役割を見出したのか。大会組織委員会でボランティアのコンセプトや教材づくりに取り組んだ文教大学人間科学部・二宮雅也教授(日本財団ボランティアセンター参与)のコメントを交えて振り返りたい。

無観客開催により役割を失ったボランティアも

東京2020大会が新型コロナ流行の影響で1年延期になり、参加を辞退したボランティアが続出しただけでなく、多くのボランティアがいろんな形で活動の変更を余儀なくされた。

「海外から日本に来て参加する予定だったボランティアは入国がかなわず、ボランティア応募時の海外籍の希望者は約3割いたため、そこから計算すると約1万人が参加を見送ったことになります。これは非常に残念なことでした」(二宮氏)

もちろん国内にも参加を見送った人は少なくない。昨年末、日本財団ボランティアサポートセンター(現:日本財団ボランティアセンター、日本財団ボラセン)が発表した「東京2020大会 大会ボランティア、 都市ボランティアに関するアンケート調査結果」によると、ボランティアに参加しなかった人の中には「活動自体がなくなった」「役割や会場が変更になった後、活動日についての連絡がなかった」と回答する人もいた。これも残念だったと言わざるを得ない。

また、調査結果からも新型コロナによる混乱が読み取れる。大会ボランティア(※)は「案内」「式典」「運転など移動サポート」などの部門にわけられるが、とくに観客や選手がケガなどをした場合に搬送サポートをする「ヘルスケア」について、アンケートでの満足度も低かったという。配置転換により、実際には別の役割を担当したボランティアが多かったからだ。

※東京2020大会のボランティアは、大会組織委員会が運営主体である「大会ボランティア」、関係自治体が運営する「都市ボランティア」に分けられた。

「無観客の影響で『案内』や『ヘルスケア』といった役割に大きく影響しました。振り返ってみると、無観客開催が決定してから大会までの期間が非常に短かったので、会場ごとで配置替えを行うプロセスも非常に難しかったんです。新たな活動内容もしっかり構築していかなくてはならないので、大会組織委員会をはじめとするマネージャーの皆さんが苦労されたポイントだったのかなと思っています」

さらに、大会直前の2021年7月に行ったアンケートでは、ボランティアの6割程度が活動することを不安に思っていることがわかった。背景には、当時のメディアからの批判などもあった。

「昨年7月の時点では、大会が開催できるのか、観客をどうするのか、こんな時期に本当にやっていいのかなど様々な意見が報道されていたタイミングでした。アンケートを見ると、実際にボランティアに応募された方も活動に不安を抱えていたということがわかります」

そんななかで開幕を迎えた東京大会。オリンピックもパラリンピックも日本代表選手団が大活躍したこともあり、大会は盛り上がりを見せていく。

ここでは、各都市、各会場で存在感を見せたボランティアの活動のうち、コロナ禍ならではの取り組みを紹介したい。

小学生が育てたアサガオのケア

パラサポWEB取材班も会場で見かけたのが、アサガオの水やりをしているボランティアだ。すべての競技会場をアサガオで彩るフラワーレーンプロジェクトには約300校の小学生が参加。その一つひとつに添えられたメッセージカードが大会中、選手や関係者を元気づけた。ボランティアは、そのアサガオが太陽の光を浴びられるよう、小まめに鉢の場所を入れ替えたり、雨風をしのげる場所に鉢を非難させたりしていたという。

「全国の小学生がアサガオにメッセージを書いてくれたんですが、『やっぱりこの子どもたちのメッセージに何もレスポンスをせずに、また学校にアサガオを返してしまうのはいかがなものか』という意見が多数出ました。それで、メッセージカードにお返事を書き、更に貼りつけるという活動が始まったんです。こういった発想はボランティアだからこそ生まれたのではないかと思っています」

「非常に何か手の込んだアンサーが入っている会場もありましたし、またボランティアさんがアンサーを書くんじゃなくて、大会関係者の方々やメディアも含めた海外の方にも『ちょっとメッセージを書いてくれないか』とお願いをして書いてもらうような会場もあった。このアサガオを通じたコミュニケーションっていうのは面白かったですね」

コロナ対策に欠かせなかったボールの消毒

東京大会では新型コロナ対策として、ゴールボールなどの球技では試合前後や試合中にコート外に出たボールを消毒する必要もあった。ボランティア自身も感染しないように手袋をするなど工夫しながら進められた。

「ブラインドサッカー(5人制サッカー)では、ボールがゴールの後ろに転がることが良くあります。ボールの出し入れをボランティアさんに担っていただきました」

空港で選手をお出迎え! 遠隔ボランティア

来日した選手たちを空港でもてなす――過去のオリンピック・パラリンピックでよく目にした光景だ。しかし、これまで当たり前だったことも、コロナ禍では難しかった。そこで、海外選手が来日したり出国したりする際、画面の中にボランティアに入ってもらい、選手たちと遠隔で交流するという取り組みが生まれた。

「この活動は本当に画期的だと感じました。入国したばかりの選手、あるいは試合を終え、帰国する直前の選手とボランティアの新しいコミュニケーションの方法は、今後もいろんな形で運用できます。東京大会の一つのレガシーだと考えられるんじゃないかと思っています」

写真のような遠隔で操作できるロボット2体を成田空港に配置し、ロボットの顔の上にあるカメラが選手を認識。その後、オンライン会議システム(zoom)でつないだ画面の中にいるボランティアと交流するという仕組みだ。

約70,000 人(うちパラリンピックは24,514人)の大会ボランティア、約12,000人の都市ボランティアが参加した東京大会。

コロナ禍で限定的にならざるを得なかった活動があった中、振り返れば様々な交流があった。

一方、ボランティアからは役割や待遇について不満の声も挙がり、満足感の得られる活動内容を構築できなかった反省点もある。

「とくに東京大会の新型コロナのような事態が発生したとき、その活動内容に不平等感が出ないようにうまく再配置をしていくため、都市ボランティアと大会ボランティアを分けるのではなく、体制を一元化することによって運営が可能になっていくんじゃないかと思っています」

ボラセンでは、東京大会で活躍したボランティアが、今後も様々なボランティア活動に参加できるよう、障がいのある方も含めてみんなが参加しやすいボランティア環境をつくっていく活動を進めているという。

東京大会に続き、コロナ禍で開催された北京冬季大会でもその活躍が絶賛されたボランティア。これからも世界規模のスポーツ大会で存在感を発揮することだろう。

※本記事は、「第39回パラリンピック研究会ワークショップ 東京2020大会を支えたボランティアの様相」より構成しました。

text by TEAM A

key visual by Takashi Okui

2022/6/29 8:32

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