「子ども食堂」は貧困対策のためだけにある?運営者に聞いたリアル

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十分な食事が取れていなかったり、孤食を強いられている子どもたちのため――そんな思いから始まった「子ども食堂」が急速に増えている。食堂を通じて子どもの環境は変わったのか? 実態を探った。

◆一人の子どもを支援したい。私的な思いから広がる居場所

「美味しすぎて、もうお腹いっぱい!」

 肉じゃがを平らげた女の子が満足げな表情を浮かべるなか、先に食事を終えた2人の男の子はゲームに興じていた。「おもちゃのちゃっちゃ」と歌いながら積み木で遊ぶ児童や机に向かって勉強を始める子の姿も。無料で食事を提供する子ども食堂「子供の広場in那覇」は、休日にも関わらず、実に賑やかだった。

「毎日こんなです(笑)」

 “広場”を運営するビクトリーチャーチ代表の細田光雄氏が話すように、この食堂は火曜日を除いてほぼ毎日開店。ボランティアの大人たちが食事づくりに加えて、子どもたちの学習支援にも取り組んでいるという。食べて遊んで学ぶ――学校でもなく家でもない、子どもたちの第3の居場所なのだ。

◆子ども食堂の総数は、5年で約20倍に

 実は近年、全国で同じような光景が広がっている。子ども食堂の支援を行っているNPO法人「全国子ども食堂支援センターむすびえ」によると、'16年の319箇所から'21年には6007箇所に増加。月1開催、週1開店など頻度はまちまちだが、子ども食堂の総数は、5年で約20倍にもなっているのだ。

 むすびえ理事長の湯浅誠氏は、その背景を次のように解説する。

「子ども食堂は、子ども1人でも行ける無料または低額の食堂。貧困対策の一つの手段と見られがちですが、多くの運営者は地域交流拠点として食堂を開いています。この視点が“ちょうどいい”のです。町づくりや商店街の活性化ほど仰々しくなく、誰でも手弁当でも始められる。だから、少子化の進展で寂しくなった地域を何とかしたいと考える一般の人たちが自発的に動き出し、その取り組みが認知されるようになったここ5年で一気に子ども食堂が増えたのです」

 実際、前出の細田氏は「数人の子どものために食事を振る舞うほかの食堂を見学して、これなら自分たちも家計の範囲内でできると考えた」と話す。

◆背景には行政による支援拡大も

 東京・北区で子ども食堂のネットワーク連携を担っている「北区子ども食堂ネットワーク」の担当者も次にように話す。

「北区は歳末たすけあい募金を始めとした募金額が23区の中でも上位に入る市民活動が活発な地域。区内にある約30箇所の子ども食堂も市民活動の中から生まれたもの。運営者には仕事で忙しい身にある方も多いので、円滑な運営や情報共有、寄付の配分、啓発活動などを担う組織として、’17年に食堂運営団体と社会福祉協議会で当ネットワークを発足させたのです」

 地域住民の自発的な取り組みが、連鎖反応を起こして広がった格好だ。背景には行政による支援拡大もあった。沖縄県子ども未来政策課担当者が話す。

「’16年に県内の子どもの貧困率が全国ワーストの29.9%であると公表されたことが、子ども食堂の支援を本格化する契機となりました。‘13年に成立した子どもの貧困対策推進法に基づき、沖縄独自の貧困対策計画を策定。‘18年には『沖縄県子供の居場所ネットワーク』を設立し、加入団体に対する各種助成金等の情報提供のほか、企業等からの寄付を送り届ける体制づくりも進めてきました」

 結果、沖縄県内の食堂は3年で1.5倍増の240箇所以上に。国・自治体による支援の拡充が、各地の食堂増加に一役買ったかたちだ。だが、当初の子ども食堂はごく私的な活動にすぎなかった。

◆10年続く、ある親子との付き合いで見えた希望

「地元の小学校教員から、『給食以外の食事は朝晩バナナだけという子がいる』と聞いて衝撃を受けたんです。その子のために何かできることがないかと考えたことが食堂を始めるきっかけでした」

 こう話すのは八百屋を改装して東京・大田区で「だんだん子ども食堂」を‘12年に開店した近藤博子氏。「子ども食堂」の名付け親とされる人物だ。

 今年は食堂を通じた子ども支援が始まって10年という節目の年でもあるのだが、その始まりは一人の小学生を支援したいという思いにすぎなかったのだ。

「もともと居酒屋だった場所で八百屋をやっていたので、野菜も米も調味料も揃っていて厨房もある。それなら食事をつくってあげようと。ただ、準備している間にその子は児童養護施設に入所して転校してしまった。すぐに始めなかった自分に対する怒りと、同じような境遇の子どもたちは絶対支えようという気持ちから、見切り発車で’12年に始めたのです」

 だんだん子ども食堂は毎週木曜日に300円でお腹いっぱい食べられる食堂としてスタート。食材支援の輪が広がった’15年以降はワンコインに値下げして食事の提供を続け、毎回0歳児から高校生まで40~50人の子どもたちが集まる場になったという。

 コロナ禍では開催が困難になったが、お弁当の配達に切り替えて食堂を継続してきた。近藤氏が休まず食事を作り続けられたのは、子どもたちの成長を目の当たりにしたからだ。

「ある障がいを持つ子どもとお母さんと10年のお付き合いになるのですが、そのお母さんは心の病を患っていたのに、食堂に来るようになって少しずつ元気になっていきました。今ではお子さんは就職して、お母さんはボランティア活動に参加しているほど。その親子を見てきて、心底『この場所をつくってよかった』と感じた」

◆食堂だけでは不十分。家庭から変える親子支援

 子ども食堂の枠を超えた新たな取り組みも進んでいる。大阪・西成で年間累計7000人が訪れる「にしなり☆こども食堂」を運営する川辺康子氏は「結局、家庭環境がよくならないと子どもの幸せは実現できない」と考え、今年2月にクラウドファンディングを利用。約2000万円を集めて、新たに子どもとその親のための居場所づくりに動いている。

「地区の集会所を改装して、滞在型親子支援の拠点にするためのお金を募ったんです。自宅を離れて子どもとその親が滞在し、地域の人たちと触れ合う“地域の実家”です」

 着実に子ども支援の活動は地域に根付いてきているが、葛藤や課題を抱えている運営者は多い。

 沖縄で活動する前出の細田氏は「子ども食堂という名前自体が差別だ、とクレームつけられたことがある」と漏らす。むすびえ理事長の湯浅氏は、「貧困対策の側面ばかりが報じられてきたため、いまだに『子ども食堂=貧困者が集まる場所』と考えてしまう人がいる」と指摘する。

 地域交流拠点として、「地域で子どもを見守るための場所」として多くの子ども食堂が運営されているにもかかわらず、貧困対策というミスリードが支援を必要とする子どもたちの足を遠のかせてしまっているケースもあるのだ。

◆大人の自己満足の場になる危険性も

 都内のある子ども食堂の運営者は、「大人の自己満足の場になっている面がある」という指摘もする。

「ボランテイアに頼らなければ子ども食堂は成り立ちませんが、『いいことをやってます』とアピールをする人や運営団体もある。皮肉を込めていうと『大人食堂』になっている。

 ’19年には神奈川の子ども食堂の運営者が子どもに対する暴行事件を起こし、’20年には東京でもボランティア女性に対する性暴力で運営団体理事長が解任される騒動がありました。暴れる子、コミュニケーションが苦手な子、心に傷を負った子など、いろんな子どもたちが集まりますが、急速に子ども食堂が増えたことで、大人が抱える問題も表面化している」

◆資金不足に事務負担大。子ども食堂継続の難しさ

 那覇市の、ある子ども食堂の代表もこう嘆息する。

「子ども食堂が全国に広まって、民間企業からの寄付を集めやすくなった影響か、地域にゆかりのない素性の知れない運営団体も出てきている。食堂を通じて個人情報を集め、それを売って小銭稼ぎをしていると噂される団体もある」

 その割を食いかねないのは、志ある子ども食堂と子どもたちだ。細田氏は資金繰りの厳しさを嘆く。

「私は法人運営の食堂や学習支援拠点も含めると県内10箇所で子ども支援を行っていますが、沖縄市からの助成金は1年で102万円ほど。那覇市の助成金は審査や報告書の作成が複雑で十分に活用できていない食堂が多い。申請しても3分の2は落とされるほど、ハードルが高いので。NGOのセーブ・ザ・チルドレンからも支援してもらって、かろうじて運営が成り立っている状況です」

◆「食堂がなくても幸せに暮らせる社会に」

 子ども食堂の運営母体は、ほぼすべてが民間団体や一個人だ。寄付や食材支援を受けながらも、持ち出しありきで運営されている食堂が大半なのだ。

 食堂の連携を促し、寄付金や物資を融通し合うネットワーク組織も広がりを見せているが、「ネットワークを通じて企業から食材支援を受けるたびに、お礼状を書くようにと指示されて、地味に負担がかかる」(大阪の子ども食堂運営者)という声も。「行政や民間の支援の輪が広がるほど事務負担が増して、子どもに注ぐべきエネルギーが削がれる悪循環に陥いるケースも多い」(同)という。

 だんだんの近藤氏は「子ども食堂が増えても、根本的な問題解決には繋がらない」と主張する。「食堂がなくても子どもたちが幸せに暮らせる社会に変える取り組みこそが重要」というのだ。今国会では「こども家庭庁」設置に向けた法案の審議が進められているが……子ども食堂運営者の葛藤は続く。

<取材・文・撮影/栗田シメイ 池垣 完>


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