江頭2:50、テレビでは「炎上上等」もYouTubeでは“普通の内容”で人気

文/椎名基樹

◆56歳で「初めての二郎系ラーメン」動画が大反響

 江頭2:50の公式YouTubeチャンネル「エガちゃんねる EGA-CHANNEL」の「初めてシリーズ」が人気である。その内容は、エガちゃんが、飲食店の定番メニューを食べて、率直な感想を述べるだけである。最新の「初めての二郎系ラーメン」が328万再生回数。「初めてのマクドナルド」が468万回、「初めてのモスバーガー」が386万回と「エガちゃんねる」の中でも人気のシリーズとなっている。(2022年1月22日現在)

https://youtu.be/m5mKPFHOGoU

 迷惑系YouTuberは、炎上上等で痴態を演じ、さらに、地上波放送を追われたタレントは私生活を切り売りして必死に再生回数を稼いでいる。彼らはまるで肉体的な危険以外なものに挑む、新たなスタントマンである。メンタルスタント、モラルスタント、プライベートスタント、様々なタブーに接近しは自爆して、世間の耳目を集めようと奮闘している。その中でエガちゃんは実に悠々と再生回数を獲得しているように見える。

◆テレビではメチャクチャやってきたエガちゃんだけど……

 しかし、言わずもがなエガちゃんは、生放送で橋田壽賀子先生の唇を奪い、トルコでお尻の穴にでんでん太鼓を突っ込んで暴動を起こし、バイアグラの過剰摂取で救急車で搬送され、4分間以上水中で息を止め溺死寸前になった、オールラウンダーのスーパースタントマンだ。そんなエガちゃんが「ケレン味メディア」のネット動画配信の世界では、普通の内容で人気を博しているのは興味深い。

 ただエガちゃんが「地上波でもできる」ことをしているわけではない。動画の中で自らが言っているように「忖度なし」で、食品の感想を述べることが、「初めてシリーズ」の売りである。

◆エガちゃんと「ブッシュマン」がダブる

 この「初めてシリーズ」の動画を見て、私は’80年代の大ヒットコメディー映画『ブッシュマン』(※)を思い出した。文明と隔絶したアフリカのカラハリ砂漠に暮らす民族ブッシュマン。彼らがひょんなことから文明に触れる姿を通して、視聴者は自らが住む文明社会を客観視することができた。そして世俗にまみれていないブッシュマンの言葉を、裏表がないものと信じられた。その自然な率直さがコメディーとなっていた。

https://youtu.be/fCMffw4qq4k

 エガちゃんに対する世間の評価もブッシュマンに対するものと同様だと思う。エガちゃんの言葉に嘘がないと信じられるから、率直さが痛快に感じられる。そもそも55歳(当時)のエガちゃんが、今までマクドナルドの商品を食べたことがないなんてすごい。本当にブッシュマンさながらだ。そしてそう言われて「エガちゃんならありえる」と感じさせるところが、またすごい。

◆「聖(セイント)おじさん」となったエガちゃん

 スマホを持って以来、私たちは、さらなるコマーシャルと口コミの洪水の中で、生活している。そうした日常では「自分の味覚の好みも他人に決められているのではないか」そんな馬鹿げた脅迫観念すら持ちかねない。現在社会の中では、エガちゃんのような存在は貴重なモノサシである。

 迷惑YouTuberによる「スーパーマーケットの売り物の鮮魚を支払いの前に食べてしまう」などというなんだかわけのわからない蛮行と、エガちゃんが築いてきた伝説は全く別物だ。そうした過激な「修行」を積み重ねることによってエガちゃんはついに「聖(セイント)おじさん」となった。自らの動画チャンネルでは、無理矢理蛮行などせずとも、聖人では持ち得ない天真爛漫さを発揮すればいいだけなのだ。

※正式タイトルは『ミラクル・ワールド ブッシュマン』。現在は『コイサンマン』に改題されている

【椎名基樹】

1968年生まれ。構成作家。『電気グルーヴのオールナイトニッポン』をはじめ『ピエール瀧のしょんないTV』などを担当。週刊SPA!にて読者投稿コーナー『バカはサイレンで泣く』、KAMINOGEにて『自己投影観戦記~できれば強くなりたかった~』を連載中。ツイッター @mo_shiina

2022/1/25 15:53

こちらも注目

新着記事

人気画像ランキング

※記事の無断転載を禁じます