「猫にやさしい町」日本一になるかも?”猫助け”に寄付1.6億円を集めた市

 ストレスフルなコロナ禍で、猫を飼いたい人や、猫動画に癒される人がますます増えているようだ。さらに、猫によって地域課題を解決するソーシャルビジネスや、猫付きの賃貸物件、“推しの保護猫”を支援するアプリなど、猫と人間の新たな関わり方が広がっている。

 中には、猫をめぐる支援プロジェクトを立ち上げ、1.6億円もの寄付が集まった自治体も。このプロジェクトは、保護猫団体「ネコリパブリック」が自治体に提案したことで始まったという。まずは、その感動的な経緯から紹介しよう。 

◆猫を助け、猫に助けられ地域が抱える問題を解決

コロナ禍が長引き、自宅で過ごす時間が増えたことなどを受け、ペットの飼育を検討する人が増えている。海外では「パンデミック・パピー」という言葉が生まれるほどペット需要が高まり、取引価格も高騰中だが、日本も同様で、特に人気が高いのは猫だ。

’20年の調査では、新規に猫を飼育し始めた人は前年より16%増加。全国の猫の飼育数は約900万匹で、日本の総世帯5800万のうち約520万世帯、10軒に1軒の割合で猫が飼われている。

ブームの一方で、飼えなくなった猫の遺棄は長らく問題視されてきた。環境省によると、’21年度に飼育放棄や多頭飼育崩壊などで自治体に引き取られた猫は4万5000匹ほどで、そのなかでおよそ2万匹もの猫たちが殺処分された。

とはいえ、殺処分の数は10年前と比べると9分の1。この減少は、保護猫団体やボランティアの尽力によるところが大きい。

◆「ネコリパブリック」が経営する保護猫カフェ

東京・文京区のネコリパブリックお茶の水店は、保護猫団体が経営する保護猫カフェ。ビルの4階に上がり手足の消毒を済ませると、店長の内川絢子氏が広い和室に案内してくれた。室内では猫たちが各々好きな場所でくつろいでいる。

「当店では保健所から引き取ったり多頭飼育崩壊の現場からレスキューした猫たちが、30匹生活しています。里親を希望する方も、ただ猫と触れ合いたいというお客さまも、どちらも歓迎です」

内川氏から話を聞いていると、片目に怪我をした白茶のジャックがボールをくわえて遊んでくれと寄ってくる。他の猫たちは、天井付近の棚で寝ていたり、キャットタワーから様子を窺っていたりするが、人を恐れる様子はない。

「ここにいるのは健康状態のチェックと人なれ訓練を済ませた猫たちです。猫は性格が多様ですから、活発に動いている姿を見て、ご自身のライフスタイルに合うかを判断していただけます。こちらでも、責任を持って迎えられる里親さんを見極めてマッチングをします」

◆保護猫活動を「ビジネス」として行うワケ

ネコリパブリックは全国7店舗の保護猫カフェを運営する。保護猫活動はNPOや個人ボランティアによって寄付金や持ち出しで担われてきたが、ネコリパブリックはビジネスとしての“自走”を掲げ、株式会社の形態をとる。

ただ、カフェ事業は経費がかさみ、黒字化はできない。それをイベントや物販、企業とのコラボレーションなどの収益で補ってきた。

代表の河瀬麻花氏はビジネスにこだわる理由をこう説明する。

「最終的な目標は、私が死んでもネコリパブリックという会社が残り、猫たちが継続して救われていく仕組みをつくることです」

寄付だけでは不安定で、かといって、行政からの助成は期待できないからだという。

「日本では、『人間の課題が山ほどあるのに、なぜ動物に税金を使うんだ』という反対意見が出て、動物に関する補助金や助成金が出されにくいんです」

そこで河瀬氏は、ビジネスとして自立を目指すと同時に、ふるさと納税を活用し、猫を通じて社会問題を解決するというアイデアを思いつく。他所から集まった支援金での保護猫活動であれば財政の負担はなく、猫嫌いの人でも反対する理由がない。

「それを言い続けていたら、岐阜県飛騨市で『ふるさと納税活用ソーシャルビジネス支援事業』ができたので応募しました。猫を切り口にした複数の事業を立ち上げて、猫を救いながら地域の課題も一緒に解決していくという計画です」

◆3か月で集まった金額は1億6千万円を超えた

「SAVE THE CAT HIDA!」と名付けたプランが採用され、昨年10月からふるさと納税で支援金が集められることになった。

個人のふるさと納税・ガバメントクラウドファンディング・企業型ふるさと納税の合計額は、昨年12月末までの3か月間で1億6400万円。5年で目標としていた5億円のうち、3割以上の支援金が集まった。支援金の半分、上限5000万円までが年度ごとの事業費に充てられる。

「SAVE THE CAT HIDA!」の5か年計画は、下記のとおり。実現していけば、飛騨市は「日本一猫に優しい町」として注目を集めるだろう。

SAVE THE CAT HIDA!の事業計画

<’21年>

・猫プロダクトの開発

飛騨市の名産品を生かし、ネコ好きな人々の心を動かす商品開発を行う。

<’22年>

・猫勢調査

飛騨市内で飼養されている猫や野良猫の情報をデータベース化する。

・保護猫シェルターの設立

コンテナを改修し、保護猫シェルター兼カフェを設立。地域の人々が集える場所にする。

・不妊手術保護猫専門病院、ホスピスの設立

移動式の不妊手術保護猫専門病院とホスピスを開設する。

<’23年>

・高齢者猫シェアリング

地域の高齢者に保護猫を預かってもらい、高齢者の見守りも行う。

・町おこし

上記事業を通し、飛騨市が「日本一猫に優しい町」として広まることを目指す。

<’24年>

・日本初の猫の学校設立

猫や社会事業を学べる学校を設立し、保護猫活動を担う人材を育成する。

<’25年>

・空き家の活用

飛騨市内の空き家を改装し、猫と一緒に働けるシェアハウスや猫との暮らしを体験できるゲストハウスを造る。保護猫たちのためのシェルターの役割も担う。

・火葬事業

ペット墓地・霊園、ペットロスケアプログラムの整備。猫の行く末にも寄り添う。

◆高齢者の孤立化を防ぐ「高齢者猫シェアリング」

’23年に事業開始が予定される「高齢者猫シェアリング」は画期的な試みだ。猫の寿命は長いと20年。高齢者は、猫を終生飼育できるかが悩みの種となる。

「家にいる時間が長い高齢者の方に保護猫を預け、猫との生活を楽しんでいただくと、生活にメリハリがついて予防医療にもなります。定期的に訪問して飼育に必要な物資を届け、家事・買い物代行も行いつつ、高齢者・猫ともに見守って孤立化を防ぎます」

独居の高齢者が多い都市部などでは、取り入れたいと思う自治体も多いのではないか。河瀬氏が目指す、全国への展開が期待される。

◆保護猫の世話を通してコミュニティを再構築

孤立しがちな人々のコミュニケーションを回復する求心力が猫にあることは、すでに実証済みだ。

近ごろ都市部で増えている猫付き賃貸物件、猫付きシェアハウスでは、日夜猫を巡る和やかな人間模様が展開されている。

東京都世田谷区の三軒茶屋にあるSANCHACOは、住人たちが保護猫の世話をする賃貸住宅で、会員制のコワーキングスペース、飲食店営業も可能なレンタルスペースを併設する複合施設。オーナーで、全国で地域活性化のプロジェクトに携わる東大史氏は、地域のコミュニティを保てるようにと、通りに開かれた構造にした。

「立ち寄りやすいようで、保護猫たちのごはんやトイレのお世話を、住人や近所の方が協働して行っています。LINEやオープンチャットを活用してその日の様子を共有したり、住人の方が猫たちのYouTube番組を作って動画を公開するといったオンラインも活用しています。猫という共通の話題があるため、普段から住人同士で話をしているシーンをよく見かけますね」

猫好きが集まり、猫を中心としたコミュニティとあって、イベントスペースの活用も猫グッズを作ったりと和やかなもの。

「今後はシーシャ(水タバコ)など、チルなコンテンツをいろいろと取り入れていきたいです。意識高い系とは真逆な、ストレスフリーやゆるい感じの雰囲気を伝える企画をやっていきたいです」

◆受刑者が保護猫の世話をする矯正プログラムも

猫が人間に与える癒やし効果のポテンシャルは、まだまだ高そうだ。米国・インディアナ州の刑務所では、愛護団体と協力し、受刑者が保護猫の世話をする矯正プログラムを実施。猫と関わることで保護意欲が高まり、世話をすることが癒やしとなる。それが受刑者の心理面に良い影響を与え、全米に広がりを見せているという。

パンデミックだけでなく、競争や成長で疲弊した人間に「リラックスがいいよ」と教えてくれる存在として猫は注目されているのかもしれない。河瀬氏は猫について、こんな認識を示す。

「猫って人間を従わせることのできる唯一の動物なんです。紀元前から共にいる大切なパートナーでもある。人間が不幸にしているんだったら、ちゃんと管理して幸せにしてあげなければいけない」

猫に救われるばかりでなく、猫を救うのも人間の務めなのだろう。

◆保護猫業界全体の“自続可能性“を高めたい

「保護猫団体の自立支援」をミッションに、昨年27歳の若さで起業した黛純太氏。現在クラウドファンディングで資金を集め、「猫の推し活アプリ」の制作を進めている。

「このアプリを使えば、応援したい保護猫のライブチャットに参加したり、画面越しにおやつをあげることができます。保護猫団体は猫に協力してもらい、活動資金が得られる仕組みです」

ユーザーがボランティア登録をすることで、保護猫団体が必要とする人材とのマッチングも行う。黛氏がこのアプリを制作するのは、保護猫業界の後継者問題を危惧するからだ。

「これまで保護猫業界で活躍されてきた方は40代から60代で、専業主婦の方も多い。それより下の共働き世代では、どちらかが仕事を辞めて猫の保護に振り切ることは難しく、次の世代が入って来れないんです」

そこで黛氏は保護猫団体が自ら稼ぐ仕組みの構築に取り組む。

「猫のためになにかしたい気持ちがある人は多い。保護猫活動の裾野を広げていきたいです」

テックを駆使した次世代の保護猫活動に要注目だ。

【neconote 代表取締役・黛 純太氏】

保護猫シェルターに住み込みながら、クラウドファンディングで、猫助けサブスクリプションサービス「neco-note」を開発中

取材・文/池田 潮

2022/1/25 15:45

この記事のみんなのコメント

2
  • トリトン

    1/25 16:22

    このような団体には必ず詐欺師とか寄生する奴らがバックいるパターンが多いいからね貧民国の子供たちにのお金も政府にはいかなくてテレビでは日本民に人のよいのをつけこんでやってるからね。発展途上の貧民の寄付はほとんどが悪党政府の小塚いやからな。この猫のもわからんな。それにしても長いコメントやな。

  • あきひろ

    1/25 15:57

    この手の団体は総じて胡散臭い全く賛同できない。

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