今の段階で皇位継承問題について決めておかねばならない理由/倉山満
―[言論ストロングスタイル]―
◆秋篠宮家から皇位を取り上げたいという人以外には、誰もが納得できる案だ
相変わらず、誤報だらけだ。本欄では逐一追いかけてきた、「例の会議」の話だ。皇位継承に関する有識者会議、正式名称は、「天皇の退位等に関する皇室典範特例法案に対する附帯決議」に関する有識者会議。
平成29年に皇室典範特例法を制定して上皇陛下の御譲位を実現した。その際に国会が「政府は安定的な皇位継承を確保するための諸課題、女性宮家の創設等について……検討を行い、その結果を国会に報告すること」との附帯決議を行った。
安倍内閣の間は何の動きもなかったが、菅内閣になり、昨年一年かけて会議が行われ、報告書がまとめられた。そして今年1月12日に岸田文雄首相は、衆参両院議長に報告書を手交。今後は、各党派での議論に委ねられることとなった。
さて、この報告書の内容を「先送りだ」と批判する向きが多い。何か誤解があるのだろう。確かに皇室に関する前提知識がないと理解しがたい内容だが、丁寧に読み解けば極めて調和のとれた提案だと理解できるだろう。
世の中には、「何が何でも秋篠宮家から皇位を取り上げたい」という変わり者もいようが、そのような人たち以外には誰もが納得できる案だ。
◆皇室とは先例によって出来上がっている世界
まず大前提を共有しなければ、無限大に平行線だ。四つ述べる。
第一に、相手が誰であれ、他人の家の話に口を出すなど、本来は失礼極まりない。ただし、皇位継承とは日本の歴史を続けるか否かの問題であり、古代より政治におけるもっとも重要な争点であった。それを自覚し、礼を失しない言動においてのみ自由な発言が許される。
第二に、絶対子供が生まれる技術が無い限り、いかなる制度だろうとも、皇位の「安定的」継承などありえない。世襲制をやめてしまうなら別だが、日本の歴史を守ろうとするならばこの困難と向き合わねばならない。これまで2682年、一度も途切れることなく歴史を続けてきた事実に価値を置くのが大前提である。
第三に、皇室について語る際は、先例に基づかねばならない。皇室とは先例によって出来上がっている世界なのである。これまでの日本の歴史において皇室が続いてきたのは、時の権力者の意向や一時の多数決を跳ね返してきたからだ。いかなる権力者も乗り越えられなかった先例がある。そして、神武天皇の伝説以来一度も例外なく継承されてきた先例が、皇位の男系継承である。
◆日本国憲法に合わせて皇室の歴史を捻じ曲げるのは本末転倒
以上は「日本の歴史を続けたいか」との価値観の共有である。では、具体的に、どのように行うか。
第四に、日本国憲法でも可能な方策でなければならない。皇室は日本国憲法どころか、帝国憲法以前から存在した。たった150年にすぎない近代の概念だけではなく、前近代までの千年以上の伝統も踏まえねばならない。皇室の長い歴史は、日本国憲法とも調和が可能である。
だから、日本国憲法に合わせて、皇室の歴史を捻じ曲げるのは、本末転倒だ。世の中には、「ジェンダー平等だから女系天皇」などと言い出す向きもある。だが、皇室は「ジェンダー平等」などという概念が登場する以前から存在する。
それを言うなら、民間人の女性は誰でも皇族になる資格がある。日本人なら誰もが知っているが、「正田さん」「小和田さん」「川嶋さん」は、今は皇族である。奈良時代の光明皇后をはじめ多くの先例があり、今や「常例」となっている。
一方で、民間人の男が皇族になった例は、一度もない。果たして、これを男女差別で測れるのか? 次元が違うとしか言いようがない。
◆有識者会議で示された第二案の解釈
本題である。有識者会議は三つの案を示した。
第一案が、内親王・女王(つまり女性皇族)が婚姻後も皇族の身分を保持すること。
第二案が、養子縁組を可能とし、皇統に属する男系の男子を皇族とすること。本来ならば皇族として生まれてくるはずだったが、GHQの横暴により皇籍を剥奪された方々の子孫に親王宣下を行うことである。
まったくの一般人が皇族になった例は皆無だが、皇族の子孫が親王宣下された例は存在する。平安時代の第60代醍醐天皇などは、生まれた時は臣下で、後に親王宣下、そして即位されている。
さて、ここで肝である。養子ということは、誰のか? 皇室の歴史に照らせば、原則として上皇陛下か天皇陛下の養子となる。
有識者会議の清家篤座長は「この二つは、二択ではなく合わせて一つの案」と言い切った。どういうことか。解釈は一つしかない。既に他の媒体では公開情報なので、実名で書く。
敬宮愛子内親王殿下には、女性宮家を創設、結婚後も皇室に残っていただく。そこに、旧皇族の男系男子孫の方がご結婚、婿入りしていただく。その折には親王宣下により、「陛下の息子」として婿入りしていただく。
旧皇族の方に愛子殿下が嫁入りしても同じことだが、今の皇室の直系に誰よりも近い愛子殿下に、最近になって親王宣下された方が婿入りする方が自然だろう。第一案と第二案が合わせて一つの案とは、それしかない。
なお第三案として、「皇統に属する男系の男子を法律により直接皇族とすること」とあるが、これはご婚姻以外の方法で、皇統に属する男系の男子の方々に親王宣下を行うことだ。
◆なぜ今、皇位継承問題について決める必要があるのか
そもそも、なぜ今の段階で皇位継承問題について決めておかねばならないのか。会議で出た意見を引くと「悠仁殿下が七十歳の時に子供が誰もいないと議論しても遅い」のである。
逆に何もしなくても日本の歴史を守れる方法がある。すなわち、悠仁殿下がご無事にご成長、ご結婚、即位、お世継ぎがお生まれになり皇位を継承する。有識者会議は「悠仁殿下の皇位継承をゆるがせにしてはならない」と断言した。当然だ。
ただ、このままでは悠仁殿下がご即位されたとき、皇族は一人もいなくなる。現に悠仁殿下はお命を狙われている。また、歴代奥方はバッシングを受けている。極端な重圧だ。だから、「悠仁殿下をお支えする皇族の確保」は喫緊の課題なのである。
ここで誤解があるようだが、「昨日まで一般国民だった人が今日から皇族で明日から天皇」は、悠仁殿下に不測の事態があった時の不吉な話だ。
大事なのは、愛子殿下と配偶者のお子様に、生まれた時から皇族としての御自覚を持って生きていただくことだ。
静謐な議論を望む。
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【倉山 満】
’73年、香川県生まれ。中央大学文学部史学科を卒業後、同大学院博士前期課程修了。在学中より国士舘大学日本政教研究所非常勤職員を務め、’15年まで日本国憲法を教える。ネット放送局「チャンネルくらら」などを主宰し、「倉山塾」では塾長として、大日本帝国憲法や日本近現代史、政治外交についてなど幅広く学びの場を提供している。著書にベストセラーになった『嘘だらけシリーズ』のほか、9月29日に『嘘だらけの池田勇人』を発売