豊田真由子が“超高齢化社会”を語る「日本が世界の試金石。広い視座をもって挑戦を」

 コロナ禍の陰で、日本に今、“超高齢化”という新たなクライシスが迫っている。2025年には、約800万人いる団塊の世代が75歳の後期高齢者となり、歴史上前例のない高齢化社会が訪れようとしている。果たしてそこに希望はあるのか? 元衆議院議員の豊田真由子氏に聞いた。

◆困難な課題は、絶望ではなく前に進むためにある

 難問山積の日本に、果たして希望はあるのか? 厚労官僚、国会議員を経験し、現在は医療福祉の現場に携わるなど多角的な視点を持つ豊田氏。

「日本人の平均寿命は第二次大戦後から約30歳延びており、高齢者の身体能力も若返っています。一方、’60年代に整備された社会保障制度は、過去の高齢者像や家族構成などに合わせて設計されたものが、いまだにベースになっている。この齟齬を解消すべく、高齢者の定義を改める必要があると思います。

 高齢者は“支えられる存在”ではなく“活躍する支え手”。議員時代に実感したのは、高齢者が商店会や町内会など、さまざまな地域の社会経済活動の担い手となり、地域のために汗をかいていることです」

◆65歳以上高齢者の8割は自立した生活

 にもかかわらず、「65歳以上は高齢者」とすることで、活躍の土壌を奪っていると指摘。

「介護についても、要介護認定を受けた65歳以上高齢者は、実は2割程で、残りの8割は自立した生活を営んでいます(認定率は年齢層によって変わります)。こうした現実に合わせた制度改革、高齢者のポテンシャルを生かすべく定年制の延長をはじめとした経済、産業の変化、さらには『自助、共助、公助』に『地域社会での支え合い=互助』を加えた、幅広い領域にわたった変革が必要です」

◆日本の超高齢化は人類初のシチュエーション

 とはいえ、正直「死ぬまで働かないといけないのか」という漠然とした不安や不満は募る……。

「人口構造や心身の変化などに応じて社会やシステムの在り方を変えることは、むしろ自然です。まして、日本の超高齢化は人類初のシチュエーション。これは決して絶望ではなく、解決して前に進むための課題であり、日本は世界の試金石です。

 私は政治、行政、国民は、国や社会をよりよくするため協働する“同志”だと思っています。そのために、さまざまな課題をわかりやすく伝えて理解と納得を得る必要がありますが、今はそこが足りていないと感じます」

◆政治、行政の問題

 政治や行政は、国民を客扱いし続けていると、豊田氏は言う。

「これは、大変失礼なことです。政治にはつながりの深い団体や企業の声が届きやすく、そこに注力しがち。一方、今の行政は政治に抗うことが難しく、公的機関で働いているとコスト意識が育まれない残念な環境もあります。

 私は今、医療福祉の現場に関わる仕事もしていますが、医療介護の現場で働く方々がどれほどしんどい状況にあり、その上、行政に過剰な手続きや手間を強いられているか痛感しました。政治や行政が、すべての問題を正確に把握するのは相当難しく、総理や大臣が視察に行くのは、基本“うまくいっている”事業者のところで、現場の人たちも、上に遠慮して本音を言わない。

 だからこそ、顕在化していないものを含め、何が本当のニーズか、何が真に望ましい変革かを、丁寧に考える必要があります」

◆メディアの責任

 情報や意識の共有という点では、メディアの責任も大きいという。

「グローバルに見れば、租税や社会保障などの国民負担率(国民所得に対する比率)は、日本は先進各国の中でもかなり低い水準に抑えられています(44%でOECD35か国中26番目)。その上で、アクセスのよい国民皆保険を維持しているのです。

 無駄を省き効率化を図ることはもちろん必須ですが、社会保障の充実は社会に安心と安定をもたらすものであり、少子高齢化は世界共通の課題である以上、単純な国内の数字や世代間対立に収束させるべき議論ではありません。

 不安や絶望をあおれば、不寛容を呼ぶ。“高齢者は社会を衰退させる存在”という誤った認識を広めるのではなく、“高齢社会は人類発展の必然の結果であり、新たな世界の姿”という向き合い方と情報発信をしていくほうが、未来に繫がるのではないでしょうか」

◆政治や行政への不信や悲観論も、実態はそこまで酷くない

 そして最後に、「政治や行政への不信や悲観論も、実態はそこまで酷くない」と付け加える。

「ほとんど報道されませんが、『日本のために必死で働きたい』と力を尽くす議員や公務員は、実はたくさんいます。『子ども叱るな来た道だ。年寄り笑うな行く道だ』という言葉があります。高齢者世代が戦後の焼け野原から日本を築いてきたように、私たちもさまざまな困難を試行錯誤しながら乗り越え、歩んでいくのだと思います」

 未曽有の超高齢社会は歴史の転換点。世界を変えるには、自分たちも変わらなくてはいけない。

◆★超高齢社会への提言

国民を“お客さま”から“同志”へ 高齢者の定義を変え、社会の活力に日本が新たなモデルを築く

【豊田真由子氏】

元厚生労働官僚、元衆議院議員。桜蔭高等学校、東京大学法学部から厚生省に入省。ハーバード大学大学院に留学。医療、介護、福祉、保育など幅広い政策を立案し、衆議院議員を2期務める。現在は医療福祉の現場にも携わる

<取材・文/週刊SPA!編集部>

※週刊SPA!1月18日発売号の特集「[超高齢化]の危機」より

―[[超高齢化]の危機]―

2022/1/18 8:53

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