NHKテロップねつ造問題で河瀬監督の責任を問う声も。問題の核心とは

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年明けからSNSを賑わせている「NHKテロップ捏造(ねつぞう)問題」。

昨年開催された東京五輪公式記録映画を制作する河瀨直美監督の姿を追う年末の26日に放映された『河瀨直美が見つめた東京五輪』というドキュメンタリーの中で五輪デモに参加した男性に対するインタビューのシーンで「実はお金をもらって動員されていると打ち明けた」というテロップが、その後の調査により事実でなかったことが発覚した。

年明けの9日にNHKが事実誤認に関するお詫びを放送、10日、11日と相次いで河瀨直美氏およびこのシーンの取材を直接担当した映画監督の島田角栄氏が「このシーンについては事前に知らされておらず、事実と異なる内容が放映されたことは極めて残念である」という趣旨のコメントが発表された。

筆者は日常的にライターとして映画監督・俳優の取材や行政書士として映画制作にまつわる契約締結などに従事しているが、映像制作スタッフでないことはもちろん、テレビの世界とは無縁である。しかしながら、日常的に創作活動に奮闘するスタッフを横目で見ている言わば「外野の立場」から、番組制作に携わるNHKスタッフの証言なども交えて、なぜこのようなことが起きてしまったのかについて検証してみたい。

◆番組のメッセージは?

この動画は最初から最後まで視聴したが、世間で言われているような「五輪を礼賛する内容にするような印象操作」はなかったと見るのが自然だと感じた。なぜならば、この番組のテーマは「公式チームは五輪をどのような視点から描くのか」ということもテーマになっており、五輪開催に疑問を持つ人たちの姿も描かれる。そして「五輪を批判する視点が失われるようなことがあってはならない」と河瀨氏の専門学校時代の教え子にあたる島田氏が語るシーンもある。

「五輪万歳」のメッセージを発信することを目的とはしておらず、むしろ「コロナ禍で五輪公式映画を撮影する」ことの意味やその中で制作者として感じた葛藤などを描いたものと評価でき、「五輪が私たちの社会に残したものとは。映画の制作を通じてその問いと向き合う河瀨さんを密着取材。」とある番組公式HPの文言に偽りはないと感じた。

◆ねつ造かミスかの二択の前に

NHK幹部の会見によるテロップ付加の経緯は、この男性が「これまで複数のデモに参加して現金を受け取ったことがあり、五輪反対のデモにも参加してお金を受け取ろうという意向がある」と証言したにもかかわらず、「金銭を受け取って五輪反対デモに参加した」と思い込んでテロップを付けてしまった、というもの。

そもそも論なのだが、筆者が疑問に思ったのは、なぜこの番組制作者は、思い込みであったとしても「金銭を受け取ってデモに参加した人がいる」と認識した時に、再度カメラを向けて「あなたはなぜ金銭をもらってデモに参加したのですか?誰からもらったのですか?どのようなタイミングでもらったのですか?」と問い質し、そしてモザイクなり音声を変えるなどしてでも、その様子を放送することをしなかったのか、ということ。

事実の真偽云々以前に、テロップでさらっと説明しようとしたこと自体、取材に手間を掛けないという意味において、今話題のWebメディアの「こたつ記事」のテレビ版的なのではないかという気がしてしまう。自分の狙った絵が撮れたのでそれをつなげれば良し、という感覚だったのではないか。

確かに、このシーンは「島田氏が取材している様子」を収めたものであり、番組制作者には自らが男性への取材者であるという意識が足りなかったのかもしれない。また、「取材に協力してもらっている」という忖度(そんたく)もあったのかもしれない。

しかし、「金銭をもらって五輪デモに参加する人がいる」ということが、もし本当のことだったならばいわゆる特大スクープではなかろうか。そして、その背景を探って行けば、新たな事実が発覚するチャンスだったかもしれないのだ。

◆「音声なしでテロップのみを流してすませる」姿勢が問題

そもそもこのテロップが事実と異なるものだったということが発覚したのは、疑問を持った視聴者だった。彼ら彼女らの「こんなことが本当にあるのか」という疑問がインターネット上で議論を巻き起こし、NHKに対する問い合わせへとつながり、それがNHKを突き動かして、改めて事実を確認するに至った。

この点において、番組制作者よりも一般視聴者の方がはるかにニュースへの感度や真実に迫る姿勢があったといえよう。

事実と異なるテロップの付与が故意によるものなのか、過失によるものなのか、それが前者であれば「捏造」ということになり、後者であれば、後日NHK幹部が会見した通り、「思い込みによるミス」ということになろう。しかし、それよりも前に「音声なしでテロップのみを流してすませる」という姿勢に問題があったのではないだろうか。

NHK大阪拠点放送局の角英夫局長・専務理事の説明によれば、BS1の番組であり、また映画監督の取材という比較的やわらかいテーマの番組であったことからチェックが甘かったという。しかし、放送前の局内での試写会が行われているのだから、「事実を確かめる」ということはもちろん、「なぜテロップですませてしまうのか。もっと掘り下げなくて良いのか」と誰かが指摘すべき事案であったという感は否めない。

◆タテ割りの組織の中で

この騒動の後、NHK局内ではなぜこのようなことが起きてしまったのか、500人規模のオンラインミーティングが行われたとのこと。

週刊文春(1月13日発売号)にてすでに報じられた通り、この番組の担当ディレクターは、いわゆるドキュメンタリー制作のプロではなかったとのことだが、筆者の取材によれば、ミーティングで行われた議論では「報道のプロ、ドキュメンタリーのプロが番組を制作すればこのようなことはなかった。経験の少ない者が起こした軽率なミス」という組織論的な話になったという。

しかし、このミーティングに参加したNHKのスタッフは「この横の連携がないことこそがNHKが報道のダイナミズムを失っていることの証」と残念そうに語った。社会部や政治部の記者に声を掛けて、協力し合って取材を続ければもっと違った展開になったのではないか、と。

確かにこの番組はBS1での放送であり、地上波の報道番組の枠で放送されたものではないことから、制作過程において、社会部、政治部といった記者との交流は少なく、「五輪のデモで金銭を受け取った人がいると聞いた」というような話をする関係ではなかったのかもしれない。

しかし、セクションを越えて日常的にそのような話をする関係ができていたら…。

このような事実誤認はなかったことはもちろん、「五輪とデモ」というテーマで取材を続ける中で、番組に登場した男性以外の人にも話を聞くなどして、五輪の新たな側面を掘り下げることができたのではないか。
外部の組織の人間からは確かなことはわからないが、今回の騒動を「1人のディレクターの経験の浅さ」に帰着して片付けることは早計と言うべきであろう。

◆河瀬監督の責任を問う声が多いが…

報道やインターネット上での議論を見ると、この騒動に対する問題の切り取り方は、NHKによるテロップの捏造およびそれがもたらす印象操作の可能性の他、河瀨氏の責任を問う声や同氏の政治的指向にまで言及する声が多い。

両者ともいわゆる「政治と報道」という大きなテーマに紐(ひも)づけたものであり、それはそれで意味があるのかもしれない。しかし、どちらかと言えば、この問題を論ずる人の関心事に寄せた議論であり、いささか過剰反応の嫌いは否めない。

特に「河瀨氏は名前を出しているのだから知らないではすまされない」という声に関しては、自身もクリエイターである以上、被写体として取材を受けることを許可した後は、内容については番組制作者に任せるというスタンスを取るのが通常であろう。

多くの利害関係人が存在する五輪の公式映画制作者としてはそのような態度を取ることは甘いのかもしれない。しかし、映像制作者の作法として極力検閲的なことはしないというスタンスを取れば、河瀨氏の行動は自然なものであろう。

◆チェック体制の強化だけでは同様トラブルも

14日、放送倫理・番組向上機構(BPO)は放送倫理違反の審議対象にするかの討議を開始すると発表した。もちろん、公の機関で事実の確認をし、再発防止策を検討することは大切な作業である。

しかし、討議の結果としてチェック体制を強化しても「記者として疑問を持って掘り下げる」という基本的なスタンスがなければ似たようなトラブルは発生し続けるだろうし、何より番組の質の向上は望めない。

◆この騒動から学べることは?

この番組の目的はあくまで「五輪公式映画の制作スタッフの葛藤を描く」ことにあるとすれば、「金銭授受を受けて五輪デモに参加したという男性」は制作者にとっては、ほんの番組構成要素、つまり素材の1つでしかなかったのかもしれない。

しかし、その素材はフィクションでない以上、実在する社会と連動するものであり、このテロップが流れたことで五輪デモに参加した人たちに対するイメージが低下したことは否めず、また参加者の中の人たちの中に心を痛めた人も少なからずいたことだろう。

この問題を機に「他人のふんどし」で相撲を取るマスコミ業界の仕事の危険性を筆者自身も含めて自覚すると共に、トラブルの再発防止と今後の番組の質の向上が図られることを期待したい。

【熊野雅恵】
ライター、合同会社インディペンデントフィルム代表社員。阪南大学経済学部非常勤講師、行政書士。早稲田大学法学部卒業。行政書士としてクリエイターや起業家のサポートをする傍ら、映画、電子書籍製作にも関わる。

<文/熊野雅恵>

【熊野雅恵】
ライター、合同会社インディペンデントフィルム代表社員。阪南大学経済学部非常勤講師、行政書士。早稲田大学法学部卒業。行政書士としてクリエイターや起業家のサポートをする傍ら、映画、電子書籍製作にも従事。

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この記事のみんなのコメント

4
  • 意味わからない。

  • いち(

    1/18 11:18

    「こんなことが本当にあるのか」という疑問が ←あるやろね。あっても不思議はない。マスコミ自らやっとるし。

  • ばんび

    1/18 11:14

    ぶっ壊した方がいいね(^w^)

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