政権交代を目指さない“枝野路線”。否定できない野党に未来はない/倉山満の政局速報

 10月末に実施された衆院選の結果を受けて辞任した枝野幸男氏の後任として選ばれたのは、候補者の中で最も若い泉健太氏。そんな泉氏が立憲民主党を立て直せるか否かは、「脱枝野路線」へ舵を切れるかだったと、日本近現代史の専門家である憲政史家・倉山満氏は語る(以下、倉山満氏による寄稿)。

◆「憲法違反!?」の声に撤回された国際線の新規予約停止要請

 相変わらず、自民党はグダグダだ。尾身ミクロン……じゃなかった、オミクロン株が流行ると聞くや、岸田文雄首相は「私は慎重だ!」と全世界を対象とした入国禁止。

 しかし、これで大パニックに陥ったのが、このご時世にリスクをとって海外にいた人たち。いきなり帰国できなくなった。これは日本国憲法22条の「移動の自由」に違反。

第22条 

何人も、公共の福祉に反しない限り、居住、移転及び職業選択の自由を有する。

 憲法典には「移転の自由」と書かれてあるが同じ意味。そして帰国できないとなると滞在費がかかる。政府が補償しないとなると29条の財産権の侵害だ。

第29条 

財産権は、これを侵してはならない。

財産権の内容は、公共の福祉に適合するやうに、法律でこれを定める。

私有財産は、正当な補償の下に、これを公共のために用ひることができる。

 さすがに「これ、憲法違反じゃね?」との声が方々から出て、岸田首相は1日で撤回。やる前に政府の中で「それ、まずいよ」と言う人がいないのが今の日本政府。

◆政権担当能力を無くしている自民党

 その日本政府とは1955年以来のほとんどの時期で自民党のこと。つまり自民党が政権担当能力を無くしている。

 自民党政府は、いまだにコロナ禍を収拾できていない。世界中たいていの国が「ワクチン打ったからマスクなんかしなくていい」とコロナなんか忘れているのに。日本を訪れた外国人は日本人が考えなしにマスクしているのを見て、「まだやってんだ」と驚く。日本なんて「コロナの死者0」の日すらあるのに、いったい何を目指しているのか。

 自民党の無能、政権担当能力の欠如は言い出したらキリがないけど、じゃあ、なぜそんな自民党が許されるのか。代わる政党が無いから。

 1955年に自民党が結成されてから、そのほとんどの期間で野党第一党が自民党より無能だった。歴代野党第一党は無能なだけでなく、マトモな野党が登場しようとするのを阻止してくれる。じゃあ、自民党が安泰に決まっている。

◆「いつか政権交代する」と声だけは大きい立憲民主党

 今の立憲民主党も例外ではない。

 立憲民主党の結党は4年前。当時、自民党を脅かしていたのは小池百合子東京都知事。小池都知事は希望の党を結成。民主党の後裔の民進党(当時)は解党して合流することとなった。

 しかし、小池党首は「排除します」と民進党の一部を入党させないと宣言。そうして排除された人たちが作ったのが立憲民主党。代表は枝野幸男。立民は事実上、「枝野の党」としてやってきた。

 さて、その戦績は?

2017年 衆議院選挙。小池ブームの失速で野党第一党をキープ。

2019年 参議院選挙。最初の目論見通り、野党第一党をキープ。

2020年 東京都知事選。擁立した候補が2位。山本太郎より上。

2021年 衆議院選挙。14議席を減らし100議席を切る。野党第一党をキープ。

 これを「枝野信者」は「全戦全勝」と評価する。要するに彼らの目的は野党第一党でいることであって、与党の自民党にとって代わることではない。それでいながら「明日とはいかないが、いつか政権交代する」と声だけは大きい。声が大きいだけでなく、本当に勝つそぶりを見せる。

◆“まとまろうとした”野党

 衆議院選挙は小選挙区制だ。1つの選挙区から1人しか当選できない。巨大な権力を持つ与党は現状を維持しようと候補者を1に絞る。だから野党がバラバラに戦っては勝てない。まとまろう。

 それは良いのだが、まとまるとなると野党第一党に一本化することとなる。この大義名分で枝野立民は何をやったか。

 国民民主党に議員の大量移籍を強要……。共産党に候補者の大量取り下げを要求。社民党に事実上の解党を迫る。れいわ新撰組に選挙区調整で大迷惑。

 ここまでやって、110から96議席に減。自民党は261議席で悠々過半数を超え、公明党の32と足せば何も怖くない。

 それでも立憲民主党の多くは「枝野さん辞めないで」だった。

◆大敗でも惜しまれながら退陣した枝野氏

 先の衆議院選挙の終盤、麻生太郎副総理(当時)が「立憲共産党」と揶揄した。

 自分たちだって「自由公明党」なのだが、やはり共産党へのアレルギーは日本人には強い。

 共産党が掲げる共産主義とは何か。「世界中の政府を暴力革命で転覆し、地球上の金持ちを皆殺しにすれば全人類が幸せになれる」という思想だ。この幼稚なイデオロギーは第二次世界大戦を引き起こし、一時期は地球の半分を支配した。いまだに「共産」を掲げる日本共産党に違和感を持つのは当然だ。

 政治は足し算もあれば引き算もある。共産党が2万票増やしたとすれば、その何倍もの票が立憲民主党から逃げた。枝野代表、言い訳不能の大敗だが、党内では惜しまれながら退陣した。

◆この期に及んで「枝野路線」を否定できない立憲民主党

 そして先日、代表選挙が行われ、泉健太政調会長という若手幹部が当選した。さて、泉新代表は立憲民主党を立て直すことができるか。世間は「共産党との関係をどうするのか」に注目し、泉新代表も含めた全候補が口を濁した。しかし立民内部の最大関心事はそこにはない。

「脱枝野をやるか否か」なのだ。

 この期に及んで、「枝野路線」を否定できない。もはや、「どうやってこの党を潰すか」を真剣に考えるべきだろう。では、代わる野党はどこか? 第一候補は日本維新の会だが……。

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 日本維新の会が"マトモな野党"になれるのかについては、次回の政局速報で。

―[倉山満の政局速報]―

【倉山 満】

’73年、香川県生まれ。中央大学文学部史学科を卒業後、同大学院博士前期課程修了。在学中より国士舘大学日本政教研究所非常勤職員を務め、’15年まで日本国憲法を教える。ネット放送局「チャンネルくらら」などを主宰し、「倉山塾」では塾長として、大日本帝国憲法や日本近現代史、政治外交についてなど幅広く学びの場を提供している。著書にベストセラーになった『嘘だらけシリーズ』のほか、9月29日に『嘘だらけの池田勇人』を発売

2021/12/9 8:50

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