『イカゲーム』密輸で銃殺の衝撃! 北朝鮮顔負けのディストピアVOD配信作ベスト3

 NetFlixで配信され大ヒット中の韓国ドラマ『イカゲーム』を北朝鮮に密輸した男が銃殺されたというニュースが目に止まった。

『イカゲーム』は社会の負け犬連中が勝てば大金、負ければ即死というデスゲームに参加させられる韓国版『カイジ』といった作品で、格差が極限まで達したディストピア的世界感が上手く表現されています。

 今回はそんな管理社会、ディストピア映画がテーマの3本。

『リベリオン』(2002)は第3次世界大戦後の世界を舞台にした作品で、第4次大戦を恐れた国家は人間の感情が戦争を引き起こすと判断。感情を抑制する薬品プロジアムを服用することを市民に強制。市民らはあらゆる感情を失い日々をただ無気力に過ごしていた。だが感情を奪われることに反発する一部市民「感情違反者」らはプロジアムの服用を拒んで国家が禁止する絵画、文学、音楽、ペットなどを密かに所有していた。

 そんな感情違反者を摘発するのが近未来の憲兵、特殊捜査官グラマトン・クラリックたちである。主人公プレストン(クリスチャン・ベール)はクラリックの実力者だったが、相棒が感情違反者であり自ら処刑せねばならなくなったことから、国家の支配者「ファーザー」の教えに疑問を抱き始める。さらに摘発し取り調べをおこなった違反者メアリーから「生きるためだけの人生に意味はあるのか」と問われ、かつて妻が感情違反者として逮捕され、その処刑(火あぶり)を見届けさせられたことを思い出し、プロジアムの服用を止めファーザーの支配に逆らうように。

 クラリックがあやつる格闘術ガン=カタは剣術と銃撃を組み合わせた独特なアクションで「ディストピア世界の物語」というある意味、堅苦そうな物語を柔和させスタイリッシュなアクション映画に転化させている。公開当時は『マトリックス』の影響で斬新なアクション映画に注目が集まっており、『リベリオン』も『マトリックス』同様「管理社会からの解放」を描き、銃と格闘技で管理社会に反発する。

『マトリックス』の管理社会は暗黒のイメージだったが、こちらは白一色に統一され一見ユートピアに見えるがその実……というところが見所で、アクション以上に物語が際立たせることに成功しています。

 感情を持て! 管理社会から解放されるんだ!

 特権階級がメディアを利用して市民を洗脳し無意識のうちに支配下においている社会を批判したのが『ゼイリブ』(1988)。定収入労働者のネイダ(ロディ・パイパー)は仕事を求めて、建設現場で出会った労働者フランク(キース・ディヴィット)を頼り、貧民街に案内される。住民たちは古びた街頭テレビだけが娯楽で、そのテレビが電波ジャックされひげ面の男が画面で視聴者をアジっていた。

「彼らは電波によって我々を仮眠状態にしている。平等や人権は奪われ抑圧的な社会が築かれている。他人への興味を失わせ自身の利益のみを求めるようにされている。我々は眠らされて静かにさせられているのです……」

“彼ら”って誰だ? 貧民街のそばにある教会で賛美歌が歌われるとテレビ放送がジャックされることに気づいたネイダは、教会に忍び込む。賛美歌は実際に歌われているわけではなく録音テープを再生しているだけで、中では怪しげな人たちが賛美歌に紛れて何かを話し合っていた。翌日、警官隊によって教会は襲撃され、建物は破壊される。残された大量の段ボールからサングラスを拾ったネイダは、街中でそれをかけてみると看板や雑誌、新聞の広告、文字はすべて「従え」「考えるな」「消費しろ」「眠っていろ」「テレビを見ろ」というメッセージに見えるではないか。それだけではなく、裕福そうな恰好をした人々はみな髑髏のような顔をしていた!

 この世界はエイリアンによって支配されており、彼らは擬態信号を飛ばして人間社会に溶け込み、サブリミナルメッセージによって市民を洗脳状態に置いていた。サングラスは擬態を見破るためのアイテムだったのだ。

 監督のジョン・カーペンターは80年代のレーガノミクスにより拡大した消費社会、テレビ広告を批判する意図で、市民を目覚めさせるために同作は制作された。『マトリックス』が管理社会からの目覚めを促すように。

 ただこちらは目覚めの手段がサングラスをかけるという手段なのだ。ネイダが目覚めようとしないフランクに「サングラスかけろよ!」と強要し、「やなこった!」と反発されたため2人が掴みあいのケンカをする場面は、6分にも及ぶ(体感時間は15分ぐらいするけど)。ネイダ役のロディ・パイパーがプロレスラーなので、バックドロップやスープレックスが繰り出される異種格闘技戦はこの映画をカルトの地位に高めた(高めたっていうのかこれは……)。

 サングラスをかけろ! 消費社会に消費されるな!

 そしてさっきから何度も引用している『マトリックス』(1999)である。90~2000年代におけるディストピア映画の頂点。

 遅刻ばかりで毎日上司に怒られているぐうたら社員のアンダーソン(キアヌ・リーブス)は日常ではダメ人間だが、ネット上では天才ハッカーのネオとして崇められていた(この辺のトホホ感漂う人物設定が素晴らしい)。

 あまりに冴えない現実を生きているので、「この世界は現実ではなく夢ではないか」と思うようになったアンダーソンはトリニティという美女に出会い「あなたはこの世界を救う救世主だ」と告げられる。

 この世界はコンピューターにより支配されており、現実だと思っている日常は機械に接続され見させられている仮想現実に過ぎない! 世界中の人間はこの管理社会から目覚めなければならない……。

 僕もどうしてお金が儲からないんだろうとか、どうして毎日やる気が起きないんだろうとか、どうして彼女がいないんだろうとか悩んでましたけど、そうかこの世界はマトリックスによって支配されている仮想現実だったんだ! 本当は人類を救う救世主なんだって1999年の時に思ってましたよ、ええ。

 この世に革命を起こすんだと期待した『マトリックス』はシリーズ化した途端、革命から程遠い展開になり、マトリックスに取り込まれることを良しとするような終わり方になって残念。まもなく公開される『マトリックス レザレクションズ』で今度こそ、革命を起こしてくれることに期待する。

 目覚めろ! この世界は現実ではない!

……と管理社会の真実を訴えてきましたが、冒頭の話に戻ると……密輸された動画をこっそり見た北朝鮮の学生は終身刑、一緒に視聴した同級生は5年間の重労働が課せられるという。ああ、『イカゲーム』のように一攫千金のチャンスすらない北朝鮮! こちらはノンフィクションだもんなあ。ホント、ディストピアは映画の中だけにしてください。

2021/11/29 11:00

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