「より多くの人が使えるデザインを…」コロナ禍で需要が高まる「インクルーシブデザイン」とは? アートディレクターのライラ・カセムが解説

UoC UNIVERSITY of CREATIVITY 共同編集長の近藤ヒデノリ(Hide)と平井美紗(Misa)がお届けするInterFMの番組「UoC Mandala Radio」。クリエイターに“ワクワクする社会創造の「種」を聞く”というテーマで、毎回さまざまな領域で社会創造をおこなっているゲストを招き、未来に向けた創造やアクションについて語らいます。

11月24日(水)の放送では、デザイナー・アートディレクター・大学研究員のライラ・カセムさんをお迎えしました。

(左から)Hide、Misa、ライラ・カセムさん

デザイナーとして障がい福祉の支援活動をおこなっているライラさん。東京大学先端科学技術研究センターでは研究員もつとめ、教育になじめない子どもたちの教育プログラム「異才発掘プロジェクト ROCKET」にも携わっています。ユニバーサルで多様性のある社会創造のために活動中です。

◆インクルーシブデザインとは?

Hide:もともとMisaと仲がいいそうですね。

Misa:普段からライラと呼ばせていただいています。

Hide:じゃあ、僕もライラと呼ばせてもらいますね。改めて、Misaとライラの出会いについて教えてください。

Misa:ライラと初めて会ったときのことは鮮明に覚えています。ライラはイギリス人とスリランカ人のミックスで、足が不自由なので普段は車椅子に乗っています。ライラと初めて会ったのは8、9年前。大学の教室を電動車椅子にシューっと乗って「Hi」とあいさつする姿がすごくクールでした。ライラは(当時、東京藝術大学大学院で)授業もしていたので、私にとっては一番歳が近い先生です。

ライラ:そうですね。たしか私が博士課程1年目で、Misaが大学院1年生だったよね。

Hide:歳の差はいくつぐらいなの?

Misa:1個ぐらいしか変わらないです。

ライラ:私は当時、東京藝術大学大学院のデザイン科でインクルーシブデザインの授業をしていました。

Hide:インクルーシブデザインとは、どういうものなのかを聞かせていただけますか。

ライラ:インクルーシブデザインは、ざっくり言うとデザインの手法の1つです。人は生きていく上で、誰しもがいろんな障がいにぶつかっていきます。社会で生きていく上で「できない」が起こったとき、「障がいが発生した」と捉えます。そこで生まれたバリアをどう調和していくかを、障がいがある人とデザイナーが一緒になって考えます。障がいがある人の知識、経験、知恵などを“クリエイティブな要素”の1つとして取り入れます。

たとえば、スケボー選手と車椅子ユーザー、デザイナーが一緒に新しい乗り物を作ったりします。インクルーシブデザインでは、従来のターゲットから除外されている人、すなわちエクストリームユーザーの考えを取り入れます。(車椅子ユーザーと、それ以外の人の)“2つの輪”の重なったところ=真ん中の要素を抽出して、より多くの人が使えるデザインを生み出します。なので、障がいがある人のためだけにデザインを作るわけではありません。

Hide:なるほど。

◆コロナ禍で高まるインクルーシブデザイン需要

Hide:ライラがずっと携わっている「TURNプロジェクト」について教えていただけますか?

ライラ:“出会い”をテーマに、アーティストと社会的支援を必要としている人たちの現場に行って、出会いを通してできることを生み出すプロジェクトです。例としては、重度障がいを持った人のところにダンサーを連れて行ったり、入所施設(障がい者支援施設)にラッパーを呼んだりします。

Hide:入所施設とは?

ライラ:親が亡くなったなどの理由で、重度障がいを持った方を一時的に保護する施設があるんです。そこにラッパーを呼んで、職員たちも交えて一緒にラップを作ったりしています(笑)。お互いにとって、いい刺激になれるプロジェクトです。夏にプロジェクトの展示会があったのですが、そこにMisaが来てくれました。

Hide:今年はオリンピックとパラリンピックがありましたし、よりそういった部分に意識を向けられるようになったのではと思います。プロジェクトの反響はいかがですか?

ライラ:パラリンピックの影響はもちろんあると思うのですが、コロナ禍という状況も大きかったのではと考えています。世の中のほとんどの人たちが、(これまでは当たり前にできていたことが)“できない”に直面したと思います。例えば、「ワクチン注射の副反応で腕を上げにくい」とか。あとは、会えないことで人を思う気持ちや、自分との対話がすごく増した気がします。

Hide:つまり、今の状況は“インクルーシブデザインを考えるチャンス”ということでしょうか?

ライラ:受け入れやすい環境だと思います。コロナ禍で「世の中って生きづらいんだな」と感じたと思うので。そういう意味では、私たちが10年ぐらいおこなっているプロジェクトを見てもらえるチャンスの時期だと思っています。

◆「シブヤフォント」のディレクションを担当

Hide:ライラは、「シブヤフォント」の活動にも関わっていますよね。2年前ぐらいにグッドデザイン賞の審査か何かで見て「すごくいいな」と思ったんです。改めてシブヤフォントについて教えていただけますか?

ライラ:「シブヤフォント」は、渋谷区と一般社団法人シブヤフォントが一緒に開発したプロジェクトです。渋谷で働く障がいがある方、障がい福祉事業所で働く方が描いた文字や絵を、桑沢デザイン研究所の学生たちがフォントやパターンとしてデザインし、それをオープンソースデータ(渋谷区公認のパブリックデータ)にして、企業とのコラボ商品や施設が作成した自主製品に活用しています。

商品の売り上げの一部を、障がい者施設で働く障がい者の工賃に還元されます。障がいがある方たちがより地域で活動できるように、という思いで、2016年から進行しているプロジェクトです。現在、渋谷区の11の事業所がプロジェクトに参加しています。私は生徒と事業所とのやりとりを重ねながら、世に出してもいいクオリティのファントやパターンかどうかを常に考えています。

Misa:「シブヤフォント」は、「ライラがディレクションしているな」っていうのがすごくわかる。色使いもパワフルでエネルギッシュだし。

ライラ:事業所は、主に知的障がいを持った方や精神の病を持ったところです。気を付けている点は、「子どもっぽく見えないこと」と「かわいくなり過ぎないこと」。生徒たちも最初は「なぜ?」って思うんだけど、事業所の方たちと交流していくなかで「ライラさんの言っていることはこういうことなんだな」って感じてくれました。

Hide:商品として売っていくということは、その辺の難しさがあったりしますよね。けっこう売れていますか?

ライラ:現在、30社ぐらいの企業とコラボをしていて、ここ数年で数千万円ぐらいの売上が出ています。

Hide:すごいですね!

ライラ:ただ、「私たちはデザイン会社じゃない」ということは言い続けています。企業からは「こういう柄もほしいです」という要望があっても、検討はしますが「できます」という確約の返事はしません。私たちは、あくまでも現場で生まれたものを出していくだけです。

Hide:オーダーを受けて応えるのではなく、自発的にやるってことなんですね。

ライラ:アーティストが自信をつけて本人が「やります」と言ったらやりますが、私たちからは道筋を作り過ぎないように気を付けています。

◆会話と妄想が創造のタネになる

Misa:ライラにとってワクワクする“社会創造のタネ”は何ですか?

ライラ:自分とはまったく違う人生を歩む人と出会って会話すること。要するに、他人ですね。

Hide:違えば違うほど、そこから受けるインプットがあるってことですね。

ライラ:そういう部分もあるし、同じだと思っていた人も、実は違う要素を持っていたりするんですよ。表面以外の部分を知ることは、とても大事なことだと思います。私は人が好きなので、会話をしながら常に“創造のタネ”をもらっています。

Hide:(近年)「ダイバーシティ(多様性)」という言葉が使われるようになりましたが、(ライラの場合は)違うところからヒントを得ているということですよね?

ライラ:(そうですね。)あと(他人と出会って会話をしているときに)よく、そこから妄想もします。「この人はどういう人生を歩んでいるんだろう」とか「もしかしたらこうかもしれない」とか。私は人と会話をしているとき、頭のなかでは自分自身と妄想しながら会話をしています。

Hide:僕らも今度「妄想会議」をするんですよ。去年は「妄想『TOKYO 2030』」というセッションをしました。妄想から生まれるものを大切にしています。

ライラ:発明とかも妄想から始まったりするからね。

次回12月1日(水)のゲストは、UoC主宰 市耒健太郎(いちき・けんたろう)さん、UoCフィールドディレクター 星出祐輔(ほしで・ゆうすけ)さんをお迎えします。

番組でお届けしたトークは音声サービス「AuDee」と「Spotify」でも配信中です。

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聴取期限 2021年12月2日(木)AM 4:59 まで

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<番組概要>

番組名:UoC Mandala Radio

放送日時:毎週水曜23:00-23:30

パーソナリティ:近藤ヒデノリ(Hide)、平井美紗(Misa)

番組Webサイト: https://www.interfm.co.jp/mandala

2021/11/25 6:00

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