33歳女がプロサッカー選手から「ゴール決めたら付き合って!」と告白され…
女にとって、経験豊富な年上男性は魅力的に映る。
だが、その魅力ゆえこだわりの強いタイプが多く、女は年を重ねていくうちに気づくのだ。
― 頑張って彼に合わせるの、もうしんどい…。
年上ばかり選んできた女が、自然体でいられる相手は一体どんなタイプの男なのだろうか?
これは、アラサー独身女がこれまでの恋愛観をアップデートする物語。
◆これまでのあらすじ
多佳子はテレビ局のスポーツ部に務める33歳。デートの帰り道、弟みたいに思っていたひと回り年下の颯に、突然「俺たちって付き合ってるんだよね?」と聞かれる。多佳子は、話をごまかそうとするが…。
▶前回:年下男に突然手を握られ「俺たち付き合ってるんだよね?」と言われて…。素直になれない33歳女の反応は
Vol.4 本気になった年下くんの行動力
広尾駅すぐ近くの路上。
私のわざとらしいリアクションに、颯はぼうぜんと立ち尽くしていた。
鋭い視線はそのままだが、私に振り払われた手は行き場をなくして宙ぶらりんになっている。
少しの沈黙のあと、彼はみるみる赤くなっていく顔を両手で覆いながら、小さな声でつぶやいた。
「えっ、まじで!?ちょっと俺、恥ずかしいんだけど…うわー…」
― まずい、失敗したかも…!
私は瞬時にそう思った。
彼とは出会ってから3週間。会うのだってこれで2回目だ。
いくら毎日連絡を取っているとはいっても、住んでいる場所もだいぶ離れているし、プロサッカー選手がどういう仕事なのかもまだわからない。
それに、やはり自分が33歳で彼が21歳という年齢差が引っかかる。
だから気まずくならないように、冗談としてこの場を収めたかった。けれど、颯にそんなつもりはないらしい。
「ごめんね、颯くん。でも…あっ、すみません」
言いかけた私に、後ろから通行人がぶつかってきた。
「多佳子さん、ちょっとこっちに来て!」
颯の手が私の背中に回される。意外と男らしい、ゴツゴツとした手。
たった今、告白めいたものをスルーしようとしたばかりなのに、思わずドキッとしてしまう。そんな自分の単純さを振り払うように口を開きかけると、今度は颯がさえぎってきた。
「もう1回聞くけど、俺たち本当に付き合ってないの?」
人通りが少ない路地裏で、私は颯にハッキリと言った。
「うん、私は付き合ってるとは思ってなかった。私たちは、これから友達になる…ところかな?」
“友達”という言葉に考え込むように視線を落とした颯だったが、何かを思いついたのかすぐにいつもの強気な顔に戻った。
続けて、彼はいかにもサッカー選手らしいこんな提案をしてきたのだ。
サッカー選手しか使えない驚きの提案に、年上女はどう答える?
「俺は友達になる気はないから。次の試合でゴール決めるから、そしたら付き合ってよ!」
― いや…それ違くない?
もし、少しでも好意のある相手からこんなことを言われたら「嬉しい!」と喜んで相手を応援するのかもしれない。
しかし、颯への恋愛感情の有無とは関係なく、もともとそんなふうに考えられない性質の私は首をかしげてしまう。
「あのさ、そういうのはやめない?颯くんにとって試合に出るのってすごく大事なことだよね?そこに余計な気持ちが入るのは、ちょっと違う気がするんだけど」
「…いや、やめない!そんなこと言われると、余計に火がつく!」
そして、颯は私の意見には耳を貸さずに「また連絡する」と言って、駅に向かって走って行ったのだった。
◆
颯の宣言から、2週間。あれから1度も連絡はない。
― 颯くんも目が覚めたのかもしれない。私とは…ないって。でも、これでいいんだよね。
確かに、彼と恋愛しようとする気にはなれなかった。それでも、毎日連絡をしていた相手とのやり取りが途絶えるのは、どことなく寂しい。
先輩から頼まれた資料集めを終えて、一息つく。私はLINEで、美智子にランチのお誘いをした。
「多佳子っ!どうしたの、元気ないんじゃない?」
「そうかな?…美智子は何かいいことあった?」
会社の近くにあるカフェで美智子と待ち合わせをすると、先日の食事会の後から黒木さんと付き合っていると告げられた。
どうりで最近、付き合いが悪いわけだ。ファッションも、いつものきれいめなパンツスーツから、女性らしいスカートへと変わっている。
「まあ、私のことはいいよ。多佳子は颯くんと会ったりしてるの?」
「んー、いや、何回か会ったけど…。もう連絡取ってないんだよね」
これまでの経緯を話すと、美智子は颯の様子を探るために黒木さんにLINEを送ると言う。
それからすぐに、黒木さんからの返信が来た。
「多佳子、颯くんね、次の試合に出られるようにメチャクチャ練習頑張ってるらしいよ。オフの日に自主練したり、過去の試合の映像を見て勉強したりしてるんだって」
「そっか、頑張ってるんだ…」
「何か、颯くんって真っすぐでかわいいね。多佳子も年齢のこととか、いろいろ考えすぎないで、彼をしっかり見てみたら?」
私と2回目のデートをした翌週。
試合に出られなかった颯は、次こそはと必死になっているそうだ。
そんなことを聞いてしまったら、ゴールがどうのこうのではなく、無条件に彼を応援したい気持ちが芽生えてくる。
そして、次の試合の日がやってきた。
試合に出ることが決まった颯。ゴールと告白の行方は?
試合当日、颯からの連絡は依然としてない。
けれど、職場がテレビ局のスポーツ部である私は、彼が所属するチームの試合情報を知ることができた。それどころか、オフィス内でリアルタイムで観戦することになっていたのだ。
「宇佐美、ちょっとはサッカーにも詳しくなれよ」
先輩記者からそう言われるも、気になるのはベンチ入りしている颯のことだ。
試合が始まり、あっという間に後半10分。相手チームから1点を入れられた直後、選手交代をして、颯がピッチに入ってきた。画面越しでもわかるくらい、顔つきが精悍で男らしくなっている。
FW(フォワード)の彼は、果敢にゴールを攻め、何度もシュートを放つ。
そのたびに、私も祈るような気持ちになるのだけれど、ボールはなかなかゴールを捉えない。悔しそうにひざを折る颯を見ると、私の手にもグッと力が入る。
だが結局、この日の颯はゴールを決めることはできなかった。
試合は2対1で彼らのチームが勝利したが、颯は得点を入れようと試合の最後までプレーを続けていた。
彼から連絡が来たのは、その日の深夜だ。
『俺、ゴール決められなかった…』
『実は会社で試合見てたの。颯くん、すごかった!本当にそう思ったよ、お疲れさま』
その翌日。颯から10分だけでも会えないかと言われ、仕事終わりに待ち合わせをすることになった。
「こっちまで来てくれてありがとう。颯くん、昨日試合だったから疲れてるんじゃない?」
「ううん、全然。それより…約束守れなかった。ごめん…。でも、俺やっぱり多佳子さんと付き合いたい」
連絡を取らない間の颯の頑張りを聞いたり、試合での姿を見たりしたからだろうか。
最後に会ってから3週間しかたっていないのに、彼がすっかり“男の人”に見えた。
「初めて会ったとき、俺のこと全然怖がらなかったでしょ?それに、俺のこと知ってからも変に接し方を変えてこないし、言いたいことはちゃんと言ってくれるよね。そういう多佳子さんのしっかりしてて、自立した大人なところが好きなんだ」
そこまで一気に話した颯。ひと呼吸置いた彼は「俺、もっとしっかりするから…付き合ってください」と言い、私は「うん」と答えた。
会ったのは、本当にたったの10分。
寮の門限までに帰らないといけない颯を、駅まで見送る。
― まさか、颯くんと付き合うことになるなんて。あ、美智子には言っておかなくちゃ。
考え事をしながら自宅の近くまで帰ってくると、スマホが鳴った。
『元気?日本に帰ってきたから、久しぶりに飲みに行こう』
送り主は、大学時代からの友達・高橋一樹だった。2年前からニューヨークに海外赴任をしていた彼は、先日帰国したらしい。
続けて、私をドキッとさせるこんなメッセージも送られてきた。
『彼氏できた?』
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多佳子は年下のサッカー選手と付き合うことに。大学時代からの男友達に恋の相談をするが…?