ベトナムと日本をつなぐ「あんかけ揚げめんフォー」のワンダーランド

 シュプリームのコレクションに楽曲を提供し、海外の有名音楽フェスに出演するなど、国内外で評価されてきた“エクストリーム・ミュージシャン”のMARUOSA。他方で“かた焼きそば研究家”としての顔も持ち、近年は『マツコの知らない世界』(TBS)や『新・日本男児と中居』(日本テレビ)、『たけしのニッポンのミカタ!』(テレビ東京系)といった地上波のテレビ番組にしばしば登場して注目を集めている。そんな彼が、驚愕の絶品・珍品に光を当てながら、かた焼きそばの奥深き哲学に迫る!

 

 緊急事態宣言解除。
 
 2020年4月7日に1度目が発令され、その後、幾度か回数を重ねたが、ようやく9月末をもって全都道府県で解除となった。臨時休業や時短営業に振り回され、なかなか思うように訪問できなかっただけに、このまま収束することを願わずにいられない。

 さて、今回は新たな「ニュータイプかた焼きそば」である。

 かた焼きそばという料理をざっくり分類するとすれば、日本国内の町中華や世界各国のチャイナタウンで食べられている比較的クラシックなタイプ、もうひとつは東南アジア~南アジアを中心に独自進化したニュータイプ。過去にインドやタイのかた焼きそばを紹介してきたが、それらはもちろん後者である。

 そして今回も、後者のニュータイプ側、しかも期間限定メニューらしい。思い立ったが吉日、現地に向かう。

 東急世田谷線に乗って上町駅へ。

 初めて乗車したが、下高井戸~三軒茶屋間を2両編成の軌道線がゴトゴト走る姿はどこかアンバランスで愛らしい。ただ、総路線距離がたったの5kmなので、余韻に浸る間もなく下車。

 そこから徒歩1分ほど、周りとは一線を画す異様に賑やかな外観が目印だ。


 屋号にある「サイゴン」の名の通り、ここはベトナム料理を中心としたアジア料理店である。創業は1998年(平成10年)。決して人通りが多いとはいえないこの立地で20数年間も営業を続けているのは、根強いファンがたくさんいるからなのだろう。後から聞いたのだが、私の友人も学生時代によく通っていたそうだ。

 店内は現地の食堂のような空間が広がっており、天井に吊るされている多数のランタンが美しくも懐かしい。しかも窓際の席からは、先ほど乗車した東急世田谷線がすぐそばをのんびり走っているのが見えるではないか。

 どうやら都会ではないどこかに迷い込んでしまったようだ。平日の昼下がり、時間と曜日感覚が麻痺しそうになりながらメニューを確認。

 ベトナムといえば米麺、フォーである。

 そのフォーを、あろうことか揚げてしまったのが今回のニュータイプかた焼きそば「あんかけ揚げめんフォー」なのだ。ちなみに、日本全国にベトナム料理は数あれど、揚げフォーに出会う確率は限りなく低い。

 以前、中野の某ベトナム料理店で揚げフォーを提供しているという情報を見つけて勇んで出かけたが、すでにメニューから消えており、泣く泣く越南炒飯セットを食べた苦い思い出がよみがえる。

 あんかけ揚げめんフォーに限った話ではないが、森羅万象、自分の想いとは無関係に消えてなくなってしまうのが世の常なのだ。それは何十年後かもしれないし、明日なのかもしれない。今日という日は今日しかないのだ。

 幸いなことに、この料理は10月から5月末までの“季節”限定メニューとのこと。息巻く必要もなく、無事オーダーすることができた。


 一見、洒落た創作料理に出てきそうな現代風(?)かた焼きそばのようだが、果たしてその真価は──。
 
 具材は豚バラ、タマネギ、エビ、トマト、チンゲンサイ、水菜、ニンジン、そしてお馴染みのパクチー。緑野菜が多く使われていて鮮やか、かつヘルシーな取り合わせがベトナム料理らしく、カロリーが気になる方も安心して食べられそうだ。

 あんかけはオイスターベースで、一般的なかた焼きそばと比べてスープっぽい。タイのかた焼きそばもそうだったが、東南アジアの人々にはこのくらい緩いあんかけが好まれるのだろう。

 そして、本丸の揚げフォー。

 中太平麺がカラリと揚がって、とても香ばしそうなビジュアル。若干、中華麺に比べて箸でほぐすのが困難だが、そこはレンゲという相棒ががっちりサポート。無理なく食べ進めることができるので、安心だ。

 原材料が違うので、揚げた中華麺よりも明らかに強いスナック感。これはこれで面白い食感だし、十分に料理として成立している。具材とも相性が良い。

 ただ、初めて食べたはずなのに、既視感、いや、既食感がある。

 言われてハッと気づいたのだが、小麦が原材料の中華麺に対して、フォーの原材料は米。米を揚げたものといえば……そう、せんべいだ。

 思わぬところでベトナムと日本がつながった。

 そして、あんかけに浸された揚げフォーは、いつしか濡れせんべいのようになり、また違った表情を見せる。不思議と懐旧の念にかられるのは、やはり米が主食の日本人だからか。 ストンと腑に落ちた気持ち良さと、料理としての美味しさ&面白さが合わさって、早々に完食。
 中華麺を揚げる。

 これまで常識だと思われていたかた焼きそばの定義を覆す、あんかけ揚げめんフォー。当たり前を疑い、フラットに物事をとらえたことから新しいものが生まれるお手本のような一品だ。

 先述の通り、10月~5月末までの季節限定メニューなので、この記事を読んで気になった方は是非行ってみてほしい。また違ったかた焼きそばの景色が見られるだろう。

 

<INFO>
・亞細亞食堂サイゴン 上町店
住所:東京都世田谷区世田谷3-3-5
営業時間:[土・日・祝日]11:00~15:00(L.O.14:30)、17:00~20:00(L.O.19:30)
     [月~金]11:30~15:30(L.O.14:45)、17:00~20:00(L.O.19:30)
定休日:月曜
Facebook:@saigonkamimachi
Twitter:@KamimachiSaigon
Instagram:@saigonkamimachi

<連載「かた焼きそばのフィロソフィー」の過去回>
第1回:「海老天ベンツも潜む圧倒的な情報量の“揚げ日本そば”スタイル」
第2回:「中野坂上にも“夢と魔法の王国”があった! 豚レバーとピリ辛餡が刺激的な『ミッキー』のかた焼きそば」
第3回:「椎茸・ザ ・ボンバーの一点突破! “映え”だけじゃない極端かた焼きそばの滋味と享楽」
第4回:「インド、アメリカ、中国が同盟を結んだ! フォークで食べる常識破りのジャンクかた焼きそば」
第5回:「創業90年の町中華で味わう極上“アンビエント”かた焼きそばの宇宙と無常観」
第6回:「まるでかた焼きそばのサラダ! 立川で100年以上続く福来軒の懐かしくて新しい逸品」
第7回:「エキゾチックなタイ版かた焼きそば“あんかけのスコール”で微笑みがあふれ出す!」
第8回:「“かた焼きそば名門校”出身の料理人による天衣無縫のあんかけと病みつき揚げ麺」
第9回:「羽生善治九段の勝利にも貢献した“将棋めし”聖地が『かた焼き祭り』を開催!」
第10回:「人生につまずいたときに優しく迎えてくれる中目黒の王道かた焼きそば」

  • 11/23 13:00
  • サイゾー

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