【『最愛』感想 6話】約束の成就が別離の時である痛み・ネタバレあり

松下洸平は不思議な俳優だと思う。実直で素朴な生真面目さが全身から溢れている。元来の艶っぽさや色気があるかといえば、おそらく多くの人がそういうタイプではないと感じるだろう。

役の上でもあまり声を張らずにぼそぼそ話す。眉間に皺を寄せた表情が多い。

いつも良い人すぎて他人の仕事まで引き受けてしまうような、通勤途中に困っている人を助けて遅刻してしまい更にそれをうまく上司に説明できないような、絶妙な不憫さをまとっている。そして松下洸平は「仕事の現場」が似合う俳優である。

不条理や制約を受け入れて淡々と働く姿がピタリとはまる。

しかし、そんな松下がゾワっとするような色気を発散させる瞬間があるのを、何度か見てきている。朝ドラ『スカーレット』(NHK)の八郎、テレビドラマ『#リモラブ ~普通の恋は邪道~』(日本テレビ系)の青林。

社会的制約や自分の中の抑圧を振り捨てて感情をあらわにするとき、松下は暴風雨のような魅力を発揮する。

ギャップなんていう簡単な言葉では括れない、ギャップで惹きつけるだけならそれこそ様々なラブストーリーで様々な俳優がそれを私たちに見せてくれるし、それはどれも良いものだけれども、松下洸平のように一瞬で見てる側の足元を抜いて奈落に落とすような危険な暗転は他の誰にも作れないと思う。

今週は、そんな松下の本領発揮というべき回だった。

最愛6話で見られた松下洸平の『最大風速』

週ごとに視聴者の視聴熱が上がり続けている『最愛』(TBS金曜22時 主演・吉高由里子)。常に視聴者の熱い考察を上回る「手の内を惜しみなく晒す」展開がこのサスペンスの持ち味だが、今回は現在パートの殺人事件が一段落してしまった。

今週の白眉は、殺人事件に巻き込まれたヒロイン・真田梨央(吉高由里子)と、事件の被疑者となった梨央の弟・朝宮優(高橋文哉)を守ろうとする刑事の宮崎大輝(松下洸平)と弁護士・加瀬賢一郎、2人の奮闘である。

冷蔵庫から落としたヨーグルトを片付けられないほどに動揺している梨央を寝かしつける時に、加瀬がそっと梨央の時計を外す仕草が切なくて良い。

家族かそれなりの友人であれば、毛布をかけることはためらわないだろうけれども、眠りかけた相手の時計を外せる距離感というのは特殊なものだと思う。

それでも、それ以上距離を詰めずに梨央の寝顔を見つめる加瀬の視線は意味深だ。

加瀬にとっての『最愛』はどこに、どんな形でしまわれているのか。おそらくこれから物語の後半で明かされるのだろう。

弁護士として加瀬が過剰な取調べから優を守る一方で、刑事である大輝は優が犯人ではない手がかりを探して地味な聞き込みに奔走している。

それは刑事としてはありうべからざる方向性で、既に上司の山尾(津田健次郎)からはそのスタンスに疑念を持たれ始めている。

数週かけて次第に刑事として立ち位置が悪くなる大輝の状況をじりじりと積み上げていくあたりも、油断のならない脚本だと思う。この歪みもまた後半のストーリーに影響するのかもしれない。

二人の尽力で、優は不起訴になり梨央の元に戻ってくる。長い間離れ離れになっていた姉と弟はようやく再会して、物語は一段落となるかに見える。

そして、事件が解決に向かうからこそ、本来は出会うことのなかったはずの、社会的にはセレブである梨央と刑事である大輝には別れの時がくる。

互いが互いの人生に存在していては、それぞれの立場を悪くすると悟っている。

15年前の白川での夜、告白に応えられないままだった抱擁、現在の信号待ちで抱きしめられなかった手のひら。

その抱擁の記憶だけで一生を生きていけそうな数秒間、吉高由里子の淡いため息のはかなさに魅入る。

そして、普段滅多に声を張らない役柄の男が「勝手に決めんな」と感情を剥き出しにした瞬間に溢れ出る色気は、これぞ松下洸平であるなと感じ入る瞬間だった。

刑事と被疑者という、これ以上にない強い制約の関係が生んだ『最大風速』である。

15年前と現在。それぞれの事件は収束に向かっているように見えて、しかしまだ火種は燻っている。ひどく不穏な形でもう一度燃えあがろうとしている。

ようやく平穏に暮らせるはずの姉と弟の元に訪れたフリーのジャーナリストの橘しおり(田中みな実)から漂う憎悪が、これからの更に辛い陰鬱な展開を示唆しているようだ。

初回の冒頭、大輝のモノローグで、『その名が世間を騒がせる前の姿』で映し出された梨央の暗い表情、鮮血がついた手のひらで髪をかきあげる場面を見返してみる。

すでに半分以上見守ってきた、この哀しいヒロインの魂にどうか光と救いのある着地であって欲しいと今は願うばかりである。

 

[文・構成/grape編集部]

2021/11/22 19:09

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