松坂・鳥谷・斎藤佑樹の引退を横目に“まだまだ衰えない”現役アラフォー選手たち
◆平成の怪物・松坂もハンカチ王子・斎藤も涙の引退
数多くの大物選手が引退表明し、一時代の終わりを感じさせた2021年のプロ野球。
その代表と言えるのが、埼玉西武ライオンズの松坂大輔だろう。’98年の甲子園で春夏連覇を果たし、ドラフト1位で西武に入団。“平成の怪物”と呼ばれて日米通算170勝を挙げたレジェンド右腕として世代を引っ張り続けた。
また、’06年夏の甲子園決勝で田中将大を擁する駒大苫小牧を破って優勝し、“ハンカチ王子”や“佑ちゃん”の愛称で多くのファンから愛された北海道日本ハムファイターズの斎藤佑樹も引退。
さらには、阪神タイガース時代に歴代2位となる1939試合連続出場を果たした名ショート・鳥谷敬(千葉ロッテマリーンズ)や通算7本のサヨナラホームランを放つなど驚異的な勝負強さを誇った亀井善行(読売ジャイアンツ)の引退も印象的だった。
このように時代を彩った選手たちの引退が相次ぎ寂しい限りではあるが、現役として来季もプレーする40歳前後のベテラン選手たちがいる――。今回はそんな“アラフォープレイヤー”の中でも活躍が期待される6名の選手を野球ライター・キビタキビオ氏のコメントとともに紹介していく。
◆古巣・中日ドラゴンズで存在感を発揮する福留孝介
まずは現役最年長となる44歳ながら十分な存在感を発揮している中日ドラゴンズの福留孝介だ。
名門・PL学園高校時代からスラッガーとして名を馳せ、中日時代は2度の首位打者獲得やリーグMVPに選出されるなど輝かしい実績を誇る平成を代表する左打者も今やアラフォーに。阪神時代の’20年に成績が急降下し、戦力外通告を受けると古巣の中日に復帰。
今季序盤は代打や途中出場が多かったものの、DH制のある交流戦ではレギュラーでの出場も目立った。最終的には打率.218、4本塁打にとどまりアベレージヒッターと呼ばれたころの安定感は薄れてしまったかに見えるが、5本の決勝打を放つなどベテランらしい勝負強さを発揮。来季は残り49本と迫ったNPB通算2000安打を目標に1軍でのプレーに意欲的のようだ。
野球ライターのキビタキビオ氏も「勝負どころで一発打ちそうなオーラは44歳になっても群を抜いている。今季の初本塁打が出たのは7月7日と少し遅かったですが、そのときの弾道は鋭く美しくて“これぞ福留”と唸る打球だった」とし、来季についても「代打の切り札として“ここぞ”という場面で起用されるでしょう。結果が伴い続ければ、山本昌投手の打者版になって50歳までやるかもしれません」と期待を寄せた。
福留にはアラフォーと言わず、アラフィフになっても持ち前の鋭い弾道の打球を見せてほしいものだ。
◆“松坂世代”の最後の希望・和田毅は先発で奮闘
今季引退を表明した松坂大輔と同学年、いわゆる“松坂世代”のプロ野球選手はこれまで94名が球界入りしてきたが、最後の生き残りとなったのが福岡ソフトバンクホークス・和田毅、40歳だ。
早稲田大学時代に東京六大学野球の奪三振記録を更新し、鳴り物入りでホークスに加入。球の出どころの見にくい独特の投球フォームから繰り出される直球と多彩な変化球で新人王に輝き、ホークス黄金時代のローテーションの一角として君臨した和田。メジャー帰り後は数年間怪我に苦しむものの、’19年からは再び安定した活躍をマーク。
今季も開幕ローテーション入りを果たすと、同世代の杉内俊哉が持つ交流戦最多勝利数に並ぶなど、年間を通してローテーションを守って5勝を挙げるなど最低限の役割を果たし、老け込む気配を感じさせない投球を見せた。
キビタ氏は和田について「年齢を考えたら頑張ったほうだと思います。ただ、イニングは大体5回がメドという感じで、スタミナについてはメッキリ落ちてしまったと言わざるを得ない」とコメント。
また、来季以降については「好不調のバロメーターになるのは“スピードガン表示以上に速く見えるストレート”。もしもこれが通用しなくなった場合は、現役としては厳しくなるのでは?」と推測した。
引退した松坂から世代の生き残りとして「投げ続けてほしい」という言葉をもらった和田。普段はクールな彼が「燃え尽きるまで頑張りたい」と熱く語っていただけに、来季へに懸ける思いもひとしおだが……。
◆オリックスの影の優勝請負人・能見篤史
現在42歳となり、すっかり白髪頭がトレードマークになってきたのがオリックスバファローズに所属するサウスポー・能見篤史だ。
’04年に阪神タイガースに自由獲得枠で入団すると、当初は伸び悩むものの’09年に13勝を挙げてブレイク。ポーカーフェイスから繰り出すキレのある直球と鋭く落ちるフォークを決め球にエースに成長。晩年になると中継ぎに定着し、’09年には51試合に登板するなどいぶし銀の活躍を見せた。
しかし、’20年は不調にあえぎ阪神から戦力構想外を告げられると、オリックスに投手兼任コーチとして移籍。今季は26試合の登板に留まるもののブルペンで若手を鼓舞し続け、自身も通算1500奪三振を達成した。何よりコーチとしてエース・山本由伸や今年台頭した宮城大弥にアドバイスを送る姿が印象的だった。
「コーチとしての役割はもちろん、平野佳寿が5月下旬にクローザーとして定着する前の苦しい時期に、能見がセーブを挙げる試合もあり貢献度も高かった」(キビタ氏)
来季についても「オリックスは左のリリーフ陣が現状やや手薄なのでショートリリーフであれば、まだまだ戦力になるでしょう」と予想。白髪頭のクールなベテラン・能見が短いイニングを淡々と仕留めていく姿は“必殺仕事人”さながら。来季もそんな姿を見られそうだ。
◆スラッガー・佐藤からレギュラー奪取を狙う糸井嘉男
続いては、“不惑”40歳を迎えた超人プレイヤー、阪神タイガースの糸井嘉男だ。
’04年に北海道日本ハムファイターズに投手として入団するも、打者としての素質を見抜かれてわずか2年で外野手に転向。すると高い身体能力を生かしたダイナミックなプレーを披露。走攻守に優れた左打者として6年連続打率3割、20盗塁を達成。’16年には35歳2か月でNPB史上最年長盗塁王を獲得するなど、年齢を凌駕したまさしく“超人”っぷりを発揮した。
ところが今季は、ゴールデンルーキー・佐藤輝明の活躍や球団の若手起用の方針をあって、代打での起用が増加。最終的に打率.208、3本塁打というふがいない成績に終わった。
そんな糸井をキビタ氏は「肉体自体は現在もパッキパキに仕上がっていますが、技術面で衰えが出てきた印象。元々感覚で打つタイプなので代打のような一打席の勝負は合わないのかも」と指摘。
来季について聞くと「阪神の外野はかなり競争が激しいので、レギュラーに返り咲くにはキャンプやオープン戦でよほどアピールしないと厳しい。今回紹介するなかで一番引退に近いかもしれない」とやや辛辣なコメントも。
厳しい現実が立ちはだかっているが、糸井には“超人”の名に恥じぬように奇跡の復活をみせてほしいものだ。
◆名球会入りを狙う小さな大投手・石川雅規
リーグ優勝を果たした東京ヤクルトスワローズに在籍する小柄なサウスポー・石川雅規は41歳。来季には42歳になる大ベテランだ。
’02年、ヤクルトに自由獲得枠で入団するとルーキーながら決め球のシンカーを武器に巧みな投球術を発揮し、12勝をマークして新人王を獲得。コンスタントに活躍を続けて大卒投手としては異例の20年連続勝利を達成した。今季は、プロ入り20年目で初めて2軍スタートになるものの、4月に1軍復帰。勝ち運に恵まれない試合も多かったが、得意の粘りの投球で4勝を挙げた。
キビタ氏は「もはや“生きるレジェンド”。今季は9月までは内容も良く、ある程度手応えを得た登板もあったように思います。6月には5回を投げたところで降雨コールドとなり、6年ぶりの完投勝利を収める幸運もありました」としつつ、来季についてはこう指摘する。
「彼が目標に挙げている200勝まであと23勝。チームの戦力が充実しているうちにもう一度100イニング以上投げるくらいの復活を果たしたいところ。そのためには、大きな故障をしないことですかね」
と、200勝達成の可能性について論じた。名球会入りの条件となる200勝に向けて、小さな中年左腕・石川の挑戦は来季も続いていくだろう。
◆現役バリバリのヒットメーカー・青木宣親
今回紹介する中で、今季もほぼフルシーズンでレギュラーとして活躍したのが、39歳の東京ヤクルトスワローズ・青木宣親だ。’04年、ヤクルトにドラフト4巡目で指名されると、2年目に202安打を放ち、打率.344で首位打者を獲得。’09年にも209安打を達成するなど、稀代のヒットメーカーとして君臨。メジャーからヤクルトに復帰しても天才的なバットコントロールは健在。
今季もレギュラーとして打率258、9本塁打をマーク。確実性こそやや衰えてきたものの、“ここぞ”という場面で打つチームリーダーとして優勝に貢献する活躍を見せた。
そんな青木についてキビタ氏は太鼓判を押す。
「501打席も立てる39歳の選手というのはなかなかいません。高津監督が適度に休養日を設けたのも良かったのでしょう」とし、来季以降についても「投球に対して踏み込んで打ちにいくスタイルのため、死球を食らって大きな故障してしまう危険が常にあるのが心配ですが、それさえなければまだまだ引退はないでしょう」
このままの成績を維持し続ければ、NPB通算2000本安打はもちろん、日米通算3000本安打の可能性も大きく秘めており、世紀の大打者になることも夢ではなさそうだ。
◆まだまだいるアラフォー選手たち
ここまで紹介してきた選手以外にも各球団にアラフォープレイヤーは在籍。彼らには満身創痍になりながらもベテランの経験と意地でもうひと花咲かせて、我々のような中年男性に夢を与えてくれる活躍をみせてくれることを期待したい!
【キビタキビオ氏】
“炎のストップウオッチャー”の愛称で知られる野球ライター。『野球太郎』(廣済堂出版)、『がっつり!プロ野球』(日本文芸社)ほかで執筆するほか、『球辞苑』(NHK-BS1)に出演中。
文/瀬戸大希