新車のメルセデスを買うならEVを待ったほうがいい理由
―[道路交通ジャーナリスト清水草一]―
◆全車EV化を宣言した、ベンツのハイブリッド車は、イマイチでした
最近何かと話題のカーボンニュートラルは、簡単に言うと温室効果ガスの排出量と吸収量を均衡させること。なかでも温室効果ガスをバンバン出している自動車産業は、カーボンニュートラルに向けていろいろやっているわけで、EV(電気自動車)シフトもその一環です。そんななか登場したのが全モデル電動化された新型Cクラス。さっそく試乗してみたのですが……。
永福ランプ(清水草一)=文 Text by Shimizu Souichi
池之平昌信(流し撮り職人)=写真 Photographs by Ikenohira Masanobu
◆我らハイブリッド王国の住人はだまされないぞ!
去る7月、メルセデス・ベンツは、「EVファーストという考え方から、EVオンリーへと加速する」と宣言。2030年までに100%EV化を成し遂げると発表した。つまり、9年以内にEV専業メーカーになるというのだ!
なにしろメルセデスは、世界最古の自動車メーカー。それがEV専業になるのだからインパクトは絶大だ。多くの経済アナリストがこれを、「驚くべき決断」と絶賛した。一方で、EV化が遅れている日本メーカーに対しては、「危機感が希薄だ」と、手厳しく批判している。
では、世界をリードするメルセデス・ベンツの新型Cクラスは、どんなクルマに生まれ変わったのか。なにしろCクラスと言えば、BMW3シリーズと並ぶ輸入車のド定番。私が住む杉並区あたりでは、プリウスよりウジャウジャ走っている。
◆新型Cクラスは全モデル電動化?
プレスリリースを読むと、「新型Cクラスは、全モデル電動化を果たしました」と誇らしげに書かれている。さすがメルセデス。9年後と言わず、善は急げともうやっちまったのか!
でも、よく読んだら、「ISGとプラグインハイブリッドによって」とある。今回の電動化は、ハイブリッド化のことだったんだね!
プラグインハイブリッド(Cクラスは来年導入予定)は、トヨタのプリウスやRAV4にもあるので有名だが、ISGというのは何か。それは、「インテグレーテッド・スターター・ジェネレーター」の略。つまり、スズキの軽の「エネチャージ」と同じ、マイルドハイブリッドなのだ。もちろんエネチャージに比べると、モーターのパワーはずっとデカい。最大20馬力を発生するというから、スズキの軽の約10倍だ。うーん、さすがメルセデス。
◆ガソリンエンジンにも改良
ガソリンエンジンにも改良が加えられている。排気量は1.5リッターながら、高性能なターボの採用によって、最高出力は204馬力にアップ。スズキの軽ターボは64馬力なので、その3倍以上である。
燃費はどうか。なにしろ全モデル電動化したと胸を張るくらいだから、さぞかし優れているのだろう、と思ったらそうでもない。カタログ燃費(WLTCモード)はリッター14.5㎞。スズキ・スペーシアのリッター22.2㎞にかなり負けている。
◆一番お安いモデルで654万円
その割に(?)値段はお高い。一番お安いC200アバンギャルドでも654万円。先代Cクラスは400万円台から買えたのに……。これじゃガソリン代で取り返すのに、何万年もかかりそうだ。
いやいや、メルセデスの真髄はその乗り味にある。乗れば「さすがメルセデス!」と膝を打つ仕上がりなのだろう。メルセデスは2030年までにEV専業になる超先進企業。EV化でモタモタしている国産勢など相手にしないだろう。
◆加速も乗り心地も…
あれ?
加速も乗り心地も、あんまり良くないなあ……。エンジンはかなりガサガサしてるし、サスペンションは結構ドスンドスンする。「さすがメルセデス!」と思える部分があまりない。
実燃費も今ひとつで、箱根周辺の一般道や高速道路を普通に走ってリッター約10㎞。スペーシアならこの2倍走るだろう。天下のメルセデスと軽自動車と比較するのは失礼かもしれないが、同じマイルドハイブリッド同士なので、つい比べてしまいました。
ちなみに、Cクラスの直接ライバルに当たるレクサスIS300h(フルハイブリッド)のカタログ燃費はリッター18.0㎞。もちろんトヨタの勝利であります。
◆値段がヤケに高いのも…
たぶんメルセデスは、EVの開発に全力を注いでいるのだろう。つなぎの技術に過ぎないハイブリッドに、あまりお金をかけてもムダ! その戦略は完璧に正しい!
値段がヤケに高いのもEVの開発費を得るためかもしれない。正義の値上げである。
でもまあ、この程度の燃費で「地球環境のために!」と威張られた日にゃ、ハイブリッド王国の住人が怒るので、中途半端はやめて、一刻も早く全車EV化してください。
◆【結論!】
新型Sクラスに乗ったときも思ったが、最近のメルセデスの内燃エンジン車は、全力投球で開発している気配が薄い。つまりメルセデスの新車を買うなら、もはやEVに限るのだろう。じゃなければ旧型の中古車がオススメ!
―[道路交通ジャーナリスト清水草一]―
【清水草一】
1962年東京生まれ。慶大法卒。編集者を経てフリーライター。『そのフェラーリください!!』をはじめとするお笑いフェラーリ文学のほか、『首都高速の謎』『高速道路の謎』などの著作で道路交通ジャーナリストとしても活動中。清水草一.com