トレンディドラマ世代が、ネトフリのドラマから元気をもらえないワケ

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―[ロスジェネ解体新書]―

◆今のドラマは憧れを体現していない

「最近、後輩たちとの会話でちょっとした違和感を感じたのは『ドラマの楽しみ方』。Netflixなどで観られる、アメリカや韓国発のドラマの“映画のようなクオリティ”が当たり前になっているからでしょうか?

 テレビドラマでも同様に、役者の演技力や秀逸な脚本だったりとかだけで観る/観ないの判断をしている感じがするんですよね。僕らにとってのテレビドラマって、もっとなんていうか…キラキラしてたものですけどね。憧れの東京のイケてる生活というか!なんかちょっと、寂しいなあなんて…」(販売・45歳)

◆映画級のネトフリドラマ

 今やネット動画コンテンツを代表する有料視聴サービスとなったNetflixの全世界での有料会員数は、2021年7月現在で2億920万人になりました。「4-6月期(第2四半期)に新規会員が150万人増えた」(出典:「ネットフリックス、4-6月期会員数は150万人増 自社予想上回る」THE WALL STREET JOURNAL)そうで、そのうち「7割近くをアジア太平洋地域が占めた」というから、多少伸び率は鈍化しているとはいえ、まさに日本でも“天下を取った”状態と言っても過言ではないでしょう。

 国内外のオリジナルコンテンツの凄まじいクオリティ…もっと明確に言うと「映画級のお金の掛け方」は、視聴者にもしっかり伝わっているのはこのとてつもない会員数に現れているのでしょう。

 多くのコンテンツは、観始めたら一晩で全話を視聴しきることができる、いわゆる「一気観(み)」ができるように最終話まで配信されているのがセオリー。毎週のオンエアを心待ちにする、これまでのテレビドラマの慣習は、こうして覆されつつある感があります。

 個人差はあるものの、ドラマ視聴におけるスタンダードが変わってきたのだとしたら、冒頭のような「違和感」はそんなところから生まれる新しいジェネレーションギャップなのかもしれません。今回はそんなロスジェネ諸氏が時折感じているであろうギャップに迫ってみたいと思います。

◆憧れが詰まってたバブル期のドラマ群

 ロスジェネ世代が中高生だった1980年代後半から90年代前半、テレビドラマは隆盛を極めていました。特に「トレンディドラマ」と呼ばれる一連のドラマ群に、世の中全体が注目していた時代で、それらはまさにカッコよさの発信源。民放各局は、我先にそのカッティングエッジに立たんとしのぎを削っていました。

 TBSが、大人の情事を大胆に描いた古谷一行主演の「金曜日の妻たちへ」シリーズや、当時すでに超人気芸人だった明石家さんまを主役に起用した「男女七人夏物語」シリーズといった大人の恋愛で人気を博したら、一方のフジテレビは浅野ゆう子と浅野温子の“W浅野”を主演にした徹底的にカッコいい東京の恋愛と最先端のアーバンライフを描いたりといったように、兎にも角にも「憧れ」がいっぱいに詰まったものでした。

「東京の大人は、こんなすごいマンションに住めるのか!?」「大学に行ったら、東京に行ったら、絶対こんなファッションして恋愛してえな」といったように、全国各地のおぼこい中高生にとって強烈な刺激を与えるのに十分な要素ばかりでした。

 そうした美術や衣装設計一つずつに、好景気日本の極みがぎゅっと濃縮還元されていて、当時の憧れライフの頂上決戦を各局が毎クール競い合っていたと言えます。

◆“夢よりも質”を重視するトレンドに

“夢が詰まったコンテンツ=ドラマ“という方程式を思春期に刷り込まれてしまった冒頭のようなロスジェネ世代の人は、心のどこかで「ドラマとは、憧れであれ」と信じてしまっているところがあるのかもしれません。

 そうした眩しすぎるトレンディドラマ達は、柴門ふみ原作の「東京ラブストーリー」(フジテレビ)のオンエアでそのピークを迎えると、日本の景気後退とともになだらかに別軸へと移行をはじめます。

 木村拓哉主演の大ヒットドラマ「ロングバケーション」(フジテレビ)を90年代中旬に輩出したあたりから、「憧れ」から少しずつその「質」に目を向けるようになっていきました。“あの役者の演技がいい”、“この作品の脚本が奥深い”といったように、段々と作品のクオリティそのものへと目線が変わっていったのがこの頃ではないでしょうか。

 ロスジェネ世代はちょうど社会に出はじめた頃。こうした質に移行しはじめたドラマ群を観ながらも、自身の実生活と比べて「あれ…?思ってたのと違うぞ…」と感じ始め、なんとなく刹那的にテレビやドラマを観るような、諦めの境地とともに大人の階段登ってしまった人も多かったのではないでしょうか。

 野島伸司作の「高校教師」「未成年」(いずれもTBS)や「ひとつ屋根の下」(フジテレビ)、「家なき子」(日本テレビ)といった、社会問題と向き合う問題作がヒットしたのも、こうした視点で観るとなんとなく納得できるものです。「そうそう、大変だよな世の中」といった具合に、ちょっと悲観的な共感が彼らを惹きつけていたとも言えます。

◆社会派ドラマが支持されることに対して…

 2000年代に入ると宮藤官九郎脚本の「池袋ウエストゲートパーク」「木更津キャッツアイ」(いずれもTBS)が人気に。視聴率もさることながら、その脚本や演出がもつ独自の世界観に話題が集まり、出演者だけでなく脚本家などクリエイターを強く認識する転換点になったような気がします。

 こうしたきっかけも相まって、インターネットの普及とともに世の中はどんどんと多様化に向かいます。こうした変遷の果てに登場したNetflixなどの「質重視のドラマ視聴」の跋扈は、必然といえば必然なのかもしれません。

 そんなわけでテレビドラマも、刑事ものや医療ものといった重厚でハイクオリティなサスペンスが多くみられるようになり、ロスジェネ諸氏がかつて想った「ドラマとは、憧れであれ」を体感できる作品は随分と減ってしまいました。

 果たして2020年代の今、トレンディドラマ的な憧れコンテンツをぶつけることは時代の空気から難しいものなのでしょうか。新型コロナの驚異をいよいよ乗り越えようとする今、我々ロスジェネ世代も、もっと若い世代も一緒に共感して憧れられるような世界観をもう一度観て、日本を今一度、元気に盛り上げたいなあという想いは、やっぱりちょっと叶わぬ願いなのでしょうか?

「ぜったい出世して、あんな生活してやるぞ!」「最高の女性(男性)に出会って、大恋愛が目標だ!」なんて青臭くてベタな目標は、なんだか伏し目がちな今の日本に、勢いをつけてくれやしないかなと。憧れの破片を追い求めて大人になってしまった筆者のささやかな願望をこの場を借りて主張してみるのでした。

<イラスト/押本達希>

―[ロスジェネ解体新書]―

【ディスコ☆セリフ】
数々の雑誌を渡り歩き、幅広く文筆業に携わるライター・紺谷宏之(discot)と、企業の広告を中心にクリエイティブディレクターとして活動する森川俊(SERIFF)による不惑のライティングユニット。 森川俊 クリエイティブディレクター/プロデューサー、クリエイティブオフィス・SERIFFの共同CEO/ファウンダー。ブランディング、戦略、広告からPRまで、コミュニケーションにまつわるあれこれを生業とする。日々の活動は、seriff.co.jpや、@SERIFF_officialにて。 紺谷宏之 編集者/ライター/多摩ボーイ、クリエイティブファーム・株式会社discot 代表。商業誌を中心に編集・ライターとして活動する傍ら、近年は広告制作にも企画から携わる。今春、&Childrenに特化したクリエイティブラボ・C-labを創設。日々の活動はFacebookにて。

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