容赦なき都会サバイバル映画『ずっと独身でいるつもり?』の魅力

拡大画像を見る

 2021年11月19日より、おかざき真里のコミック(原作は雨宮まみ)を映画化した『ずっと独身でいるつもり?』が公開されている。

 結論から申し上げれば、本作は見ている間じゅう辛くて苦して悶絶しまくれる、いっさい容赦ナシの地獄のような映画だった(褒めている)。デフォルメされてはいるが同時にリアルでもある、現代の都会で必死にサバイブしている女性たちの姿を「この世に幸せはないんですか!?」と叫びたくなるほど強烈に描きながらも、だからこその優しさも感じる作品だった。

 それでいて、タイトルで想起されるような「早く結婚したほうがいいよ」と一元的な提示をすることも、「独身と既婚者のどちらが幸せか?」という二元論にも落とし込むこともない、観た人それぞれに「宿題」を渡されたかのような余韻も残る。

 作品のメッセージを鑑みれば女性向けと言える内容だが、むしろ男性こそ観るべきではないか。「こういうことが女性を苦しめているんだぞ」と客観的にわかりまくる言動が次々に提示されるので、良い意味でものすごく居心地が悪くなり、現実の自分を重ね合わせて大いに反省できるはずだから。以下より、作品のさらなる特徴を記していこう。

4人の女性の、胃がキリキリと痛むような現実

 あらすじはこうだ。

 10年前に執筆したエッセイがベストセラーとなったものの、今ではヒットに恵まれないライターの36歳の本田まみは、世間から求められるままにネット配信番組のコメンテーターを務めるなど作家として迷走していた。そして、年下の恋人とは結婚に向けて交際を続けていたものの、価値観の違いから不安と憤りが募っていく。

 客観的に見れば、主人公は「なんだ、恵まれているじゃないか」と思うところもある。なりたかったライターになり、20代の頃に出版した本は大ヒットしていて、自分でマンションも購入して、配信番組にも出演している。あまつさえ収入が良い彼氏までもがいるのだから。

 だが、その後に彼氏や自身の家族との会話から、人生において「結婚」を至上主義とし、しかも当人(女性)の気持ちや生き方をないがしろにする、ありとあらゆる「押し付け」が見えてくる。それらがなんら不自然なものではない、現代で多くの人が持っている「当たり前」の価値観であり、悪意すらないことが本当にキツい(褒めている)。特に、主人公の母親が言う、結婚に対しての「諦め」の極地のようなセリフに身悶えをする方は多いのではないか。

 加えて秀逸なのは、その主人公を含め4人の女性の人生が交錯する構成になっていることだ。SNSで主人公への悪口を発しつつも元カレとの因縁の再会を果たす独身女性、表向きは「キラキラインスタ女子」だが自分本位の「なんちゃってイクメン」の夫への不満を募らせる主婦、男性たちとお酒を飲んで高額のお小遣いをもらっているが就職の経験も資格もない「港区女子」など、極端なようでいて「こういう人いるいる」と思えるキャラクター造形がなされているのだ。

 彼女たちは年齢も生き方もバラバラだが、「一見華やか」でも、実際は結婚、年齢、世間体などの理由で孤独や不安を抱えているという共通点もある。本作の素晴らしさは、自分に近いキャラクターに共感できるだけでなく、自分とは違う世界にいる女性たちの悩みを「理解」できることにもあるのはないか。

 例えば、港区女子に対して「飲み会に参加するだけでカネをもらって全くいいご身分だよな」と思っている方は多いとは思うのだが、劇中ではその偏見を覆す、胃がキリキリと痛むような苦悩をストレートに見せつけてくれるのだから。原作にはないネット配信番組でのコメントのひとつひとつも、痛々しい現実を具体的に「こうだよね」と赤裸々に提示されるので本当に辛い(褒めている)。ぜひ、映画館で悶絶しながら観てほしい。

 本作の主人公は、田中みな実にとっての間違いなく当たり役だ。彼女が持つ元々の雰囲気、ありていに言えば「困り顔」にも見える表情が、悩みに悩む「本音が言えない」女性にベストマッチだったのだ。

 その田中みな実は、最初の設定では役が撮影時の実年齢と同じ34歳だったところを、原作通りに「36歳」にしたいと提案したのだという。その理由について、田中みな実はこのように話している。

「かつては34歳も36歳も大差ないと思っていたけど、いざ自分がそういう年齢に近づくと、この2歳の差は大きい」
「いわゆるアラフォーのくくりに差し掛かり、付き合っている年下の男に言いたいことすら言えず、私が我慢すればいい、私が飲み込めば丸く収まると自制する知恵ばかり身に付いてしまった。無鉄砲だった10代や20代とは訳が違う」
「例えば子どもを産むことについても、40歳手前で出産はできても、育てるには相当な体力を要するし……などと考えると、この2歳の差を書き換えられるのは違うなと思った」

 田中みな実の、この女性の年齢という不可逆な現実を見据え、かつ原作の精神性を拾い上げた提案は、とても誠実なものだ。それでも「実際2歳差なんて大した違いじゃないでしょ」と思われるかもしれないが、本編では彼女の演じる役こそが、はっきりとセリフに出さなくても、彼女が言うような焦燥感を感じているのだろうと、同じような想いを抱えている36歳の女性はきっとこの世にいるのだろうと想像し、本当に胸が苦しくなったのだ。

 田中みな実だけでなく、市川実和子、松村沙友理、徳永えりが演じる女性たちも、もはや「この世に本当にいる」としか思えない存在感だ。個人的に特に感情移入したのは市川実和子が演じる独身女性で、彼女が八方塞がりな現状を次々に目の当たりにし、彼女が抑えに抑えていた感情をとある形で「爆発」させるシーンでは「やめてくれ!もうこんなところを見せないでくれ!」と懇願してしまった(褒めている)。

 ちなみに、本作はメインのスタッフに女性が多い。監督のふくだももこは、業界のジェンダーバランスを考えていくためにも、最近は意識的に女性のスタッフの方を起用するようにしていたそうで、今回はカメラマンの中村夏葉や美術デザインの佐久嶋依里が参加している。本作が極端なようでいてリアルな内容になったのは、現場で数々の女性の声があったおかげかもしれない。

 ちなみに、ふくだももこ監督は本作の撮影の半年前に出産を経験している。その経験も、おそらくは劇中で徳永えりが演じる子持ちの女性の生活や、夫の「なんちゃってイクメン」ぶりの生々しさに生かされていたのだろう。しかし、ふくだ監督自身は劇中の自分本意な夫をそこまで「悪」にはしたくなく、世の中にたくさんいる、男性中心社会の構造の中で必死に生きていて、妻や子どものことを顧みることができない人なんだろうと、彼自身を否定するのではなく、そういう社会構造に問題があるという目線で描くようにしたのだという。現代の女性の生き辛さを描きながらも、過度に男性そのものを貶めるという意図はない、フラットな視点があることも、本作の長所だろう。

 容赦ナシの地獄のような映画だったと初めに掲げたが、本質的には都会で生きる全ての人々にエールを送る作品となっていることが重要だ。田中みな実は現代の30代の女性について以下のように語っており、それは映画の精神性と一致する価値観だった。

「仕事をしている、結婚している、子どものいる・いない、独身。それぞれの価値観で生きていても周囲は『こういう人』と決めつけ、カテゴライズしようとする。雑音を排除できるほどの自信はなく、世間にどう見られているかもやはり気になってしまう。若者からイタく見えていないだろうか、年上から生意気と思われないだろうか。女としてもしっかりと輝 いていたい。30 代前半から中盤、後半へとひとつずつ歳を重ねる毎に気持ちの変化やそれに伴う環境、人間関係が変わるのは必然で、ひとつひとつの選択が大きな意味を持ち始める大切な10年なのであろうと推測します」

 そうなのだ。年齢を重ねることでより周りから「カテゴライズ」される残酷性は確かに現実にはあるが、一方でその「変化」そのものをポジティブに受け止めることはできる。前述した通り田中みな実は2歳差の年齢の設定についても熟考し提案するほどに現実を見据えているが、考え方そのものは変えていけると認識している、田中みな実というその人が聡明な方なのだと気付かされた。

 その先にあるメッセージについては、徳永えりが作品を振り返って語った以下の言葉が完璧だった。

「『自分の幸せは自分で決める』ことの大切さを改めて感じました。性別や年齢、その他何にも囚われず、自分が生きたい生き方を選ぶことができれば、それだけで十分素晴らしいことだなと思いました」

 その通りだ。本作は都会でサバイブする女性たちの人生を、胸をえぐるような容赦のなさで描いてはいるが、(だからこそ)生き方を「自らの意思で」選び取る尊さが際立つ物語でもあったのだ。それは30代の女性に限らない、全ての人にとっての人生の目標にもなるだろう。わずか94分の上映時間で、それを描き切った本作は、間違いなく傑作だ。

『ずっと独身でいるつもり?』

2021年11月19日公開
主演:田中みな実 市川実和子 松村沙友理 徳永えり 稲葉友 松澤匠 / 山口紗弥加 / 藤井隆 / 橋爪淳 / 筒井真理子
原作:おかざき真里(原案:雨宮まみ)「ずっと独身でいるつもり?」(祥伝社フィールコミックス)
監督:ふくだももこ 脚本:坪田文 音楽:池永正二(あらかじめ決められた恋人たちへ)
主題歌:にしな「debbie」(WARNER MUSIC JAPAN)
製作:鳥羽乾二郎 エグゼクティブプロデューサー:福家康孝 企画・プロデュース:谷戸豊 プロデューサー:柴原祐一
ラインプロデューサー:濱松洋一 撮影:中村夏葉 照明:渡辺大介 録音:原川慎平 美術:佐久嶋依里 装飾:折戸美由紀
編集:宮島竜治 スタイリスト:山本杏那 ヘアメイク:寺沢ルミ 音響効果:井上奈津子 キャスティング:細川久美子 助監督:齊藤勇起 制作担当:天野佑亮 宣伝プロデューサー:梅原もも子
制作プロダクション: ダブ 企画・配給:日活
クレジット:(C)2021 日活

  • 11/20 8:00
  • サイゾー

スポンサーリンク

記事の無断転載を禁じます