「ハイペースは差し有利、スローペースは先行有利」は本当か?競馬の格言を検証

◆競馬には多くの格言があるが……

 競馬には多くの格言があります。「夏は牝馬が有利」とか「同一厩舎の2頭出しは人気薄を狙え」とか「自動的にルメールを買え!G1はもう予想なんかすな!」とか。まあ、最後はちょっと違うかもしれませんね(笑)。

 他にも検索すれば色々な格言が出てきます。先人の知恵というのは偉大で、言い得て妙なところもあるのですが、昔と今では状況が異なるのでアップデートが必要な場合もあります。

 そこで今回はその中の一つ「ハイペースは差し有利、スローペースは先行有利」というものについて考えていきたいと思います。この格言はその通りかそれとも違うのか? ぜひ考えながら読んでみてください。

◆エリザベス女王杯や菊花賞は格言通りに決着

 先週、エリザベス女王杯の3連単が339万3960円で、超がつくほどの大波乱でした。大阪杯の勝ち馬レイパパレや秋華賞の勝ち馬アカイトリノムスメなど上位人気馬が凡走し、10-7-9人気で決着しました。

 大波乱となった要因は1000m通過が59秒を記録したようにハイペースになったことが大きいでしょう。結果的に後方待機馬が上位を独占しています。

 この結果を見ると、やはり「ハイペースは差し有利」は間違っていないように見えます。

 そして菊花賞では中盤に14秒台も刻むなどしっかりと息の入ったレース。横山武史騎手が父である横山典弘騎手がセイウンスカイで魅せたレースと同じ展開を演出し、見事タイトルホルダーを逃げ切らせました。

 この結果は「スローペースは先行有利」という事を示しているように見えます。

◆データを検証してみると……

 では、実際にデータで確認してみましょう。サンプルは力勝負になりやすい東京競馬場の芝1600m戦の良馬場に限定しました。全馬が力を発揮できる条件なため、展開による有利不利も出やすいと考えられます。

 2018年から2021年11月14日までに行われたレースの内、前半3ハロンが35.0秒以上になったレースを元に検証していきます。結果は下記の通り。

逃げ馬 13%

先行馬 44%

差し馬 31%

追込馬 12%

*数値は占有率

 上記に対し、同コースかつ同期間で行われたレースの内、前半3ハロンが34.5秒以下になったレースの成績が下記になります。

逃げ馬 8%

先行馬 28%

差し馬 50%

追込馬 14%

※数値は占有率

 先行、差しという戦法はそこまで展開に左右されません。それに引き換え逃げや追込は極端な競馬となるため展開による影響の大きな先方と言えるでしょう。よってここでは逃げと追込に照準を合わせて格言と照らし合わせてみます。

 では改めて、前半3ハロンが35.0秒以上になったレースは逃げ馬の占有率が13%もあったのに対し、前半3ハロンが34.5秒以下になったレースは同8%。逆に追込馬は12%から14%に上がっています。「ハイペースは差し有利、スローペースは先行有利」の信憑性が限りなく高まってきました。

◆格言が覆される条件はあるのか?

 一方、格言が崩れたレースとなったケースも見られ、例えば上がり3ハロン37.4秒を要した天皇賞(春)は上位に好走した3頭が4コーナーでは5番手以内を追走。ハイペースであったにも関わらず差し馬が伸びてくることはありませんでした。

 また、上がり3ハロンが33秒台を記録していた日本ダービーでは差し馬のシャフリヤールが1着。2~3着も後方から進めており、後に菊花賞を制するタイトルホルダーは4コーナー4番手から6着に敗れました。

 他にも天皇賞(秋)の1着エフフォーリア、2着コントレイルは差し馬。こちらもスローペースで流れた一戦でしたが差し届いています。

 このような格言と逆になるケースは往々にして上級条件で起こります。スローペースを差そうと思うと他の馬よりも速い上がりで走る必要があります。

 逆にハイペースを前で粘ろうと思うと他馬よりもバテずに粘りこむ必要があります。これは能力が高くないとできません。という事は、言い換えると能力のある馬なら格言を覆せると考えられます。

 先ほどと同コース、同条件をオープン特別以上に限定。まず、前半3ハロンが35.0秒以上になったレースがこちら。

逃げ馬 0%

先行馬 40%

差し馬 35%

追込馬 25%

※数値は占有率

 そして、前半3ハロンが34.5秒以下になったレースが下記になります。

逃げ馬 8%

先行馬 27%

差し馬 46%

追込馬 19%

※数値は占有率

 スローペース時の逃げ馬の占有率は0%だったのがハイペースになると8%に上昇。逆にスローペース時に25%だった差し馬の占有率はハイペース時には19%に下がっています。

 クラス問わず分析した際は格言通りだった傾向も、オープン特別以上に限定すると格言とは真逆の傾向になりました。

◆格言とは逆の適性を持つ馬もいる

 競走馬にはスローペースになる事で脚が溜まり速い上がりが使える、ハイペースになる事でスタミナを活かして他馬がバテる中を粘る事が出来る、という格言とは逆の適性を持つ馬もいます。

 逆もしかりで、格言通りにスローペースで楽な競馬をした時に粘れる逃げ馬やハイペースで前がつぶれた時に届く差し馬もおり、競走馬によって持っている適性は異なります。

 しかし、下級条件の馬ではそのような適性を有していても展開を覆せる能力がありません。そのため、結果的に格言通りのレースとなってしまうのです。

 そのため、重賞など上級条件ではそれぞれの持つ適性がかみ合えば不利と言われる場面でも巻き返すことができるというわけです。

 脚質を単純な位置取りと考えるのではなく、脚の質という本当の意味での脚質と捉えることが大事。そうすると、この格言の意味も変わってくるでしょう。

◆上級条件の馬は要注意か

 という事で、今回の結論。

「ハイペースは差し有利、スローペースは先行有利だが上級条件など実力馬が真逆の適性を有している場合ならその限りではない」

 なんだかラノベみたいな格言になりましたが、この方が今風でいいでしょう(笑)。

文/安井涼太

【安井涼太】

競馬予想家/ライター/クリエイター。著書に『超穴馬の激走を見抜く! 追走力必勝法』(秀和システム)、『安井式ラップキャラ』(ベストセラーズ)が発売中

2021/11/20 8:29

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