【婚活エピソード】女性が"イカ東"(いかにも東大生)を狙うべき理由

エリートと結婚して優秀な遺伝子を残したい。

そう願う婚活女子は多い。そのなかでも、日本が誇る最高学府にこだわる女がいた。

― 結婚相手は、最高でも東大。最低でも東大。

彼女の名は、竜崎桜子(26)。これは『ミス・東大生ハンター』と呼ばれる女の物語である。

◆これまでのあらすじ

東大男と結婚することを夢見る桜子。東大卒の男友だちからは「いかにも東大生っぽい地味なやつを狙え」「出会いを増やせ」というアドバイスもらう。早速、友人にお食事会を企画してもらったが…。

▶前回:「東大卒で年収1,500万以上がいい!」婚活市場で、高望みする平凡女が直面する厳しい現実

まずは行動。アプリを再開して…


土曜日の昼下がり。

桜子は自室のベッドに寝そべりながら、スマホの画面を眺めていた。

慶一郎から「行動量を増やせ」と一喝されて、マッチングアプリに再登録した。それから1週間、東大卒の会員とのマッチングを目指す日々を送っている。

― アプリのキーワード検索機能って便利だなあ。『東大』はもちろん、『UT』で検索しても東大卒が出てくるわ。

学生時代、サークルの東大生たちがTwitterのプロフィールに『UT』と書いていたのを思い出す。『東大』とあえて書かないのは、日本の頂点で学を修める者たちだけが持つ、繊細な美意識の表れなのかもしれない。

「あ、あの人から足跡がついてる…」

“あの人”とは、数日前に見つけた東大卒の会員だ。

外資系コンサルティングファーム勤務の31歳。『いいね!』の数を見ると、そこそこの人気会員のようだ。写真からは、清潔感と誠実さが感じられる。身長が180cmなのもポイントが高い。

― 東大生といっても、こういうさわやかな人が好みなんだけどな。結局、彼は私みたいな平凡な女を選ばないから、時間の無駄よね…。

慶一郎から“イカ東”を狙えと口を酸っぱくして注意されたことを思い出し、『いいね!』をせずにスマホを閉じた。

いかにも東大生、略して“イカ東”。

真面目を絵に描いたような彼らを、桜子は恋愛対象として見たことはなかった。

しかし、これまで万人受けするタイプの東大男を好きになっては玉砕してきた。そんな過去を振り返れば、慶一郎の言うことにもうなずける。

― 今夜のお食事会も、私のために“イカ東”を呼んでもらっているし…。食わず嫌いもしてられないよね。

桜子は、自分にそう言い聞かせて、乗り気ではなかった”イカ東”とのお食事会のため、準備を始めた。

自分を奮い立たせ、お食事会に向かう桜子。待ち受けていたのは…

現実路線で攻めるお食事会


「竜崎桜子です。美由紀とは学生時代のサークルで一緒でした。大学も同じトン女を卒業して、今は銀行の品川支店で働いてます。よろしくお願いします!」

目黒の『ラ メゾン ダミ』。

レンガをあしらった内装や、オレンジ色の温かい照明が心を落ち着かせてくれるものの、久々のお食事会は、やはり少し緊張する。

隣には美由紀、そして目の前には美由紀が勤める海運会社の先輩と、その友人男性という面々だ。

美由紀の先輩は、海運マンらしい引き締まった体格で、爽やかな笑顔が好印象。こなれた感じで場を仕切ってくれる、話しやすいタイプだ。

一方、彼の友人は…。


「加藤です。食品メーカーで研究職してます。30歳です」

ぼそぼそとつぶやいた彼・加藤は、まさしく “イカ東”そのもの。

黒縁メガネに、地味な色のチェックシャツ。足元を観察すると、ジーンズを穿いているがサイズが合っていないのか、裾の方がだぶついている。それに合わせたスニーカーも、スタイリッシュとは言い難かった。

「加藤は、大学のバードウォッチングサークルの友だちなんだ。鳥だけじゃなく、虫や動物にすごく詳しいんだよ」

慣れた様子で加藤のフォローをする美由紀の先輩。桜子は「そうなんですね」と相づちを打ちつつ、加藤よりも先輩の方に惹かれていた。

― でもダメよ!今日はイカ東を狙え!という趣旨のお食事会だもの。

桜子は、自分に言い聞かせて、加藤に積極的に話しかけることにした。

「加藤さんは、生き物全般がお好きなんですね。何が一番お好きなんですか?」

「一番ですか。僕の一番は、スローロリスですね」

「スロー…ロリス?」

桜子が聞き返すと、加藤はさっとスマホを取り出し、待受画面を見せてきた。

「これです。かわいくないですか?」


小さな体に対してこぼれ落ちそうなほどに大きな目。猿とイタチを2で割ったような独特な身体のフォルム。桜子の目には新鮮に映った。

「たしかに、かわいい…かも。チワワの猿バージョンみたいな?」

「ふふ、たしかに。表現がお上手ですね」

桜子のコメントに、加藤が初めて笑った。たいして整えられていないその眉毛は、笑うと極端にハの字に下がり、一気に優しい印象の顔になる。桜子は、ふっと気が緩むのを感じた。

スローロリスをきっかけに、加藤は打ち解けて話をしてくれるようになった。「皆さんは、生き物は何がお好きですか」などと全体に質問を投げかけている。「シマウマが好き」と美由紀が言うと、うんちくを披露してくれた。

― 見た目より、話しやすい人かも?

想像していたよりも幾分か、桜子はその場を楽しんだのだった。



帰り道。

電車に乗ると、店を出る前につくったグループLINEが既に動いている。美由紀の先輩にはじまり、美由紀、そして加藤が、「今日はありがとうございました!」「またぜひ!」と一言ずつ送りあっていた。

― みんな、お礼LINE送るの早っ…。

『ありがとうございました、楽しかったです!』

桜子は慌ててメッセージを打ち始める。しかし次の瞬間、表示されたポップアップを見て、手が止まった。

『加藤:竜崎さん、今日はありがとうございました。もしよかったら、明日動物園に行きませんか?』

突然のお誘いに戸惑う桜子だったが…。動物園でイカ東は、本領発揮?

初デートで動物園へ


翌日、日曜日の13時50分。

JR上野駅の改札前で、桜子はややこわばった表情で加藤を待っていた。

― 悩んだ末にOKしたけど、やっぱりいきなり2人で動物園に行くのは緊張するかも…。

昨晩、「上野動物園の入場チケットが1枚余っている」と加藤から連絡を受けた。一緒に行こうと約束していた友人が、体調を崩してしまったとのことだった。

加藤に強く惹かれはしなかったが、悪い印象も持たなかった。だから、とりあえずもう1回会うのはアリかなと、桜子は思っていたものの…。

初デートでいきなり動物園というのは、予想していなかった。でも、加藤が相手の場合、2人きりで食事に行くより、動物を見ながら話すほうが、楽しいかもしれない。そう考えて、桜子は、誘いを受けたのだった。

「竜崎さん。すみません、お待たせして」

5分ほど待つと、加藤が現れた。

昨日と同じようなだぼっとしたジーンズにスニーカー、上着は黒のダウンジャケットを羽織っている。改札に桜子を見つけるなり、慌てたように駆けてきた。

桜子は、思わず笑ってしまう。「全然待ってないですよ。私が早く着いちゃっただけなので」と言うと、彼は少し安心した表情になった。

「それじゃあ、行きましょうか」

こうして、動物園デートが始まったのだった。


「へえ、これがスローロリス…。たしかに動きがゆっくりだわ」

「マニアの間では人気があって、ペットで飼う人もいるんですよ。繊細な生き物だから、飼育が難しいようなんですけどね」

加藤との動物園デートは、思った以上に楽しく過ごすことができた。

彼は学生時代、月に2度は必ず上野動物園を訪れていたほどのフリークだそうで、園内の構造を熟知している。控えめに入れてくれる解説もありがたい。

その後も、加藤に適宜解説してもらいながら園内をじっくり回っていたせいか、園内を一周するともう閉館のアナウンスが流れだした。

― うそ。もうそんな時間?

久しぶりの動物園にテンションが上がり気がつかなかったが、2時間以上も歩き回っていたのだ。桜子と加藤は「もう閉まっちゃうんですね」と互いに驚きつつ、自然と出口の方に歩き始める。急に沈黙が訪れた。

― なんか話さなきゃ。えーっと、さっき見たベニイロフラミンゴの話とか…?

桜子が口を開こうとした瞬間、加藤が先にぺこりと頭を下げてきた。

「今日はすみません、突然お誘いしちゃって。竜崎さん、生き物がお好きなのかなと思ったら嬉しくなっちゃって」

「いえいえ、お誘い嬉しかったです」

そう返しつつ、桜子は若干、微妙な心持ちだった。

― 私のことを『生き物好きな仲間』として誘ったのか、女性として誘ったのか、どっちなんだろう…。

そんなことを考えていると、気づけば出口に着いていた。「このまま晩ごはんでも」ということになるかとも思ったが、その誘いもない。

なんとなく上野駅の方に足を進め、武蔵小杉に住む桜子はJRの改札へ、本郷三丁目に住んでいるという加藤はメトロの方へ向かう。

別れ際、「それじゃ、またぜひ」と互いに手を振って、あっさりと解散したのだった。


― 楽しかったけど……。加藤さん、今日はどんなつもりで誘ってきたんだろう?

最寄りの武蔵小杉駅に着いたころ、加藤から「楽しかったです。いきなりお誘いしたのに来ていただいて、ありがとうございました!」とシンプルなメッセージがきていた。次を匂わせるようなニュアンスはない。

― えっ?本当にただ友だちの代わりに誘ったってだけ?

桜子はショックでぼう然としてしまう。「欠員募集」と言いつつ、なんだかんだ加藤は、自分とデートしたかったから、誘ってくれたのだと思っていた。それなのに、結果はこうだ。

― イカ東にさえ相手にしてもらえない私って、そんなに魅力ないのかなぁ……。

悶々としていると、今度はアプリから通知がきた。「『いいね!』が届いています」というその表示を、反射的にタップする。

「あ、あの人だ…」

今朝、足跡をつけられていた東大卒・身長180cmの爽やかな会員。

地味な加藤と会った後だと、この男性の写真が妙にきらきらと輝いてみえる。桜子の指は、自然と画面をタップしていた。

『おめでとうございます!マッチングが成立しました』

画面にぱっと表示された文字を、じっと眺める。一人でいるのになぜだか気まずくて、思わずキョロキョロしてしまう。

― 「イカ東を狙え」って言われたけど…相手がそうじゃなくても、出会いを増やすのは、悪いことじゃないよね?

脳裏に慶一郎のあきれ顔が、一瞬浮かんだが、ぶんぶんと首を横に振る。

― 加藤さんのことでわかったじゃないの。『イカ東なら、うまくいく』ってわけじゃない。裏を返せば、『モテる男とは、絶対にうまくいかない』とも言い切れないわ。

自分に言い訳をしつつ、家までの道のりを歩く。

この時の桜子は、このアプリの男とのデートで最悪な思いをするだなんて、想像もしなかったのだった。


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アプリでマッチングした男と、とりあえず会うことにした桜子だが…。

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