孤独が“蔓延”した時代の必見ミュージカル『ディア・エヴァン・ハンセン』、映画版の魅力に迫る

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“僕はここにいる”。

高校3年の新学期を迎えた朝、エヴァンは家の窓から外を通り過ぎる人たちに向かい、心の中で窓ガラスを叩いては手を振り続ける。誰かが、手を振り返してくれるのを待っている。そんなエヴァンの孤独な胸の内を歌い上げる「Waving Through A Window」から幕を開ける映画『ディア・エヴァン・ハンセン』。

休み中のある出来事により腕を骨折してギブスをした彼には、心を開いて語り合える友だちがいない。母親は毎日忙しそうで自分の話を聞いてくれる余裕なんてない。だから、まず心にブレーキをかけることを学んだ。この切なる叫びを誰かに打ち明けて最低の自分をさらけ出してしまったら、何を言われるか分からない。SNSにどんな投稿をされるか分からない。

こうしたエヴァンの本音がセリフではなく、エモーショナルなメロディに乗るからこそ『ディア・エヴァン・ハンセン』はストレートかつ、リアルに胸に響いてくる。

トニー賞受賞の大ヒット
ブロードウェイミュージカルを映画化


2016年12月の上演以来、連日チケット完売、社会現象となる大ヒットを記録したブロードウェイ・ミュージカルの映画化をした本作。残酷で混沌としたソーシャルメディア時代に、自分の居場所を切実に求める青年の孤独感や葛藤、他人の悲嘆を自分の物語として共有したがる心理、大人たちの不器用な喪失との向き合い方などを描き出し、トニー賞では作品賞と主演男優賞(ベン・プラット)を含む6部門を獲得した。

本作を生みだしたキーパーソンは、『ラ・ラ・ランド』『グレイテスト・ショーマン』を手がけたベンジ・パセックジャスティン・ポール、そして伝説的名作「RENT」に大きな影響を受けたという脚本家のスティーヴン・レヴェンソンだ。よく知らないクラスメイトの悲劇を、まるで自分事のようにとらえ、一体感を持とうとする心理の裏には、誰かと繋がりたいという切実な欲求が隠されていると考えた3人は、自分の殻に閉じこもる社交不安症を抱えた本作の主人公エヴァン・ハンセンを生みだした。その上で、「ポップ・ミュージックという枠組みの中で、僕たちが考えたテーマとアイデアを表現する手段」を「RENT」から学び、楽曲を作り上げていったという。


舞台版主演ベン・プラットを迎え
『ウォールフラワー』監督が映画化


映画版で主演を務めたのは、ブロードウェイ初演でもエヴァン・ハンセンを演じてきたベン・プラットだ。キャラクターへの深い理解と説得力を伴った彼の歌声は、映画化にも欠かせないものとなった。ベン自身、「彼と一体化し、身体的、感情的、音声的に彼を表現することができたから、エヴァンは僕にとってすごく特別な存在だったし、第二の人格のようだった」と語るほど。

さらに監督には、映画版『RENT/レント』(05)や『美女と野獣』(17)で脚本を手がけ、『ワンダー 君は太陽』(17)では監督と脚本を、『ウォールフラワー』(12)では自身の原作を基に監督、脚本、製作総指揮を担当したスティーヴン・チョボスキーが起用された。

舞台版のキャストや製作者たちは、作品によって自身や知人が助けられたという大勢のファンから手紙を受け取っていたそうだが、チョボスキーもまた、『ウォールフラワー』の原作本と映画を世に送り出した後に同様の手紙を受け取ってきたという。「15年のキャリアの中で、僕はいつも若者を理解し鼓舞する映画を作ってきた。『ウォールフラワー』での経験から、人気のあるエンターテインメントは若者に影響を与えることができると気づいたんだ」とチョボスキーは語る。

また、彼が本作に最適だったのは、思春期の孤独やメンタルヘルスだけでなく、究極の選択をしたコナーの母親シンシアや、その妹ゾーイ、義父のラリーなど、不安や絶望、喪失感に苦しむ(大人たちを含む)キャラクターたちの複雑な家族関係を描けることも大きい。「ラリーとゾーイの怒りはよく理解できるし、息子の思い出をとどめておきたいというシンシアの気持ちも分かる。喪失の中で生まれる数々の策略についてもね」とチョボスキーは言う。しかも、パンデミックを経た現在では、舞台版が作られた当時よりもはるかに孤独が“蔓延”しているのだ。


映画オリジナルの新曲も!心震わす楽曲の数々


この瞬間もどこかで思い悩んでいる誰かに届くような、真実味に溢れた物語がいま必要とされている。そんな現実の空気感を大切にするために、舞台版からの削ぎ落としと、付け足しの作業が行われた。パセックとポールは、映画版でエヴァンの同級生アラナを演じるアマンドラ・ステンバーグと一緒に「The Anonymous One」を作り、ミュージカルにも出演していたコルトン・ライアンがコナーとして披露する「A Little Closer」と、新曲2作を新たに提供した。

前者を歌う場面では、充実した高校生活を送っているように見えるアラナとエヴァンには実は共通点が多々あり、孤立感と日々闘っていることが明らかにされる。また、後者は究極の選択をしてしまったコナーの人間性や素顔を垣間見ることができる貴重な楽曲だ。

映画では、エヴァンが講堂で1人歌い上げる、“どんなに孤独だと感じても、決して独りじゃない”というメッセージが込められた「You Will Be Found」がSNSで拡散され、共感した若者たちの反応が重なっていくシーンも大きな見どころ。また、エヴァンとジャレッド(ニック・ドダニ)が創作したコナーとの架空の友情話(?)が詰まった「Sincerely Me」も、「フレッド・アステア&ジーン・ケリー的なシーンにしたかった」と振付師のジャマイカ・クラフトが振り返る印象的なシーンに。遊び心に溢れた分、コナーの不在という現実が重くのしかかる。

さらに、エヴァンがついてしまった“思いやりの嘘”の顛末は、映画ならではの表現で観る者に問いかけてくる。冒頭の「Waving Through A Window」、“親友”コナーが木から落ちたエヴァンに手を差し伸べるという“嘘”が語られる中盤の「For Forever」、そして本当は何があったのか、「Words Fail」と共にフラッシュバックする終盤と、1つの真実を描く3つの異なるシーンに注目。映画だからこそ、エヴァンが手に入れた嘘の代償、偽りの幸せの居心地の悪さと、虚像を乗り越えた後の苦い成長がいつまでも余韻として残り続けている。


『ディア・エヴァン・ハンセン』は11月26日(金)より全国にて公開。



(text:cinemacafe.net)


■関連作品:
ディア・エヴァン・ハンセン 2021年11月26日より全国にて公開
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  • 11/19 17:30
  • cinemacafe.net

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