生活保護は恥で貧困は自己責任? 孤立を深める生活困窮者たちに伝えたいこと

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 新型コロナは多くの失業者を出すなど、“貧困パンデミック”とでも言うべき状況が生まれている。だが、社会から生活困窮者に向けられる視線は冷ややかだ。

 そこで、大阪市西成区のあいりん地区で、これまで1万人以上の生活困窮者の相談に乗り、主に生活困窮者支援や障害者支援を行うNPO法人生活支援機構ALLの代表理事を務める坂本慎治氏と、自身も貧困家庭出身で、貧困や機能不全家族の問題を専門とするジャーナリストの吉川ばんび氏による対談を実施。

「生活保護は恥なのか」「貧困は自己責任なのか」をテーマに、語り合ってもらった。

◆<徹底討論>生活保護は恥なのか、貧困は自己責任なのか?

――コロナ禍も1年半以上が過ぎました。寄せられる相談の内容に変化はありましたか。

坂本:そうですね。当初は将来起きるかもしれない生活不安の相談が多かったですが、昨年末あたりから、一時支援金や生活福祉資金の特例貸付を使い切って、生活が立ち行かなくなった人からの問い合わせが特に顕著です。相談件数も1か月100件近くと、例年に比べて倍近くになっていますね。

吉川:騒がれないですが、コロナ貧困は水面下で深刻化しています。どの年代の相談が目立ちますか?

坂本:20~50代が全体の9割近くを占めています。若くて働けるからといって、働き盛り世代の支援環境は十分に整っているとは言えません。最近増えたなと実感しているのが、精神障害や発達障害に代表される、軽度な症状で自覚のない“隠れた障害者”からの相談です。これは障害のあるなしに関係なく、頑張っても社会に溶け込めず憔悴し、生活もひっ迫。生きる希望が見いだせない。そんな悲壮な思いが数多く寄せられています。

吉川:私自身、家族からの虐待や前職での激務が原因で精神疾患を患い、今も抗うつ剤や抗不安薬などの薬を飲んでいます。正直、5年前に過労で倒れるまで、自分の心と体が壊れていたとは認識できていませんでした。先日、派遣社員で働く女性から相談を受けたんですが、職場もコロコロ替わって、うつ病で入院の経験もある。「働くことがしんどい」ということだったので生活保護の言葉を出した途端、「まだ働きたいし頑張れるはず。自分を律する方法を教えてください」の一点張りでした。

坂本:それはもう、しんどいのレベルちゃう。僕の事務所にも全国から相談が来ますけど、地方になるほど、「役所で親戚が働いているから知られるくらいなら死んだほうがマシ」「バレたら村八分にされる」と、生活保護は恥という偏見が強い。根深すぎます。

◆生活保護とコロナ給付金、何がちゃうの?って思います

吉川:私の両親もまさにそう。アルコール依存症の父親は退職と転職を繰り返し、精神的に追い詰められた母親は、中学生の私に「死にたい」と泣いて訴える。家はゴミ屋敷で、部屋中に虫が湧く劣悪な住環境。生活保護の受給要件は満たしているのに、受給がバレたら恥ずかしくて近所付き合いできなくなるやろとなる。そもそも生活保護を受給するような家庭じゃないとさえ思っていたくらいです。

坂本:傍から見たら「生活保護を受けずに月5万円で生活しています」は美談なのかもしれません。ですが、言葉は悪いですが、僕からしたらアホちゃうかと。だったら生活保護を受けて、そのお金を地域社会に還元しながら社会復帰を目指したほうがどれだけ社会のためかと。それに、生活保護は恥って……。例えば、コロナ禍で給付された営業時間短縮協力金。生活に困窮する飲食店オーナーを定期的に支援するという点では、生活保護と何がちゃうの?って。でも実際は、給付金はもらわないと損で、生活保護は恥となる。同じ制度なんだから活用すればええやん。それが正常な社会の証しです。

◆貧困は個人の努力で解決できるものではない

――先日、メンタリスト・DaiGo氏がYouTubeで生活保護受給者を侮辱し、大きな批判を浴びました。その背景には、「貧困=自己責任」という考え方が潜んでいるという指摘もあります。

吉川:私の両親は中卒と高卒で、家族の会話で「大学」が話題になったことがありません。貧すれば鈍するではないですが、私も高校卒業後は就職するのが“普通”だと疑わなかった。高校の先生のすすめもあり、大学を卒業しましたが、奨学金を満額借りたので、社会人生活を始める時点で借金は400万円。貧困か中流以上か、家庭環境が違うだけで、文化的、知的資本など、さまざまな“格差”が生まれる。貧困は連鎖しやすく、抜け出すのも厳しいので、個人の努力で解決できる問題と切り捨てるべきではありません。

坂本:人格形成に影響を与える青年期の環境は、自分の力だけではつくり出せない難しさはあります。

吉川:「貧困は自己責任」は、メディアでの洗脳も無視できません。

◆さまざまな問題を内包する貧困を一側面で切る愚

坂本:生活保護一つ取っても、受給して社会復帰した例はほとんど報道されない。一方の不正受給者は、生活保護費全体の0.4%程度なのに、その真偽も問わず、徹底的に悪者扱い。学校でも社会福祉の中身に関してロクに教えないし、一部の国会議員は正しい知識を持ち合わせていない。結局、生活保護との接点はメディアになる。なのに、偏った報道を行えば、「生活保護=悪」となるのは当然です。

吉川:幸せの在り方は人それぞれなのに、「年収90万円で東京ハッピーライフ」みたいな、貧乏でも幸せを謳う極端な例がさも最適解のように誘導。それより少しでも良い環境で“貧困”と叫ぶと、甘えや努力不足と非難されてしまう。

坂本:貧困を自己責任にすることで、社会問題から遠ざけてしまう点も見過ごせません。ただ、僕は吉川さんと少し考えが違う部分があって、自己責任論は一理あると思っているんです。僕は中卒ですが、20歳になる頃には会社員ながら年収1000万円を超えていました。仮に、家は貧乏で中卒やし、ダチもみんなアホやしと、他責にして努力を怠っていたら、今頃ここあいりん地区で、日雇い労働者やったかもしれない。問題なのは、周囲に同調ばかりして成功の道を探そうとしない、自分の力で生きようとしないことちゃうかなと。

◆孤立が貧困を呼び、貧困が未来を奪う

――激安シェアハウスの取材では、親から否定され続け、「私には幸せになる資格がない」と、心の貧困に陥った女性が印象的でした。

吉川:彼女の気持ちは痛いほどわかります。家族と絶縁した今でも、毎晩、親に殴られる夢を見て、叫びながら目を覚ましますし、私も何かを期待してもことごとく家族には裏切られてきたので、自分が幸せになれるなんて思えない。

坂本:コミュニケーションを取るのが苦手、家族や友人からの裏切り、借金苦で社会的信用の喪失など、僕のところに相談してくる人に共通して言えるのは、孤独が貧困を生んでいるという点です。

吉川:私も「ツラい」と初めて口に出せたのは、心療内科の初診のとき。生活に困っていることを周囲に打ち明けるのは、ハードルが高かった。でも、乗り越えたおかげで、「ツラさを人と共有する」ことへの抵抗感が薄まった。

坂本:残念ですが、貧困に陥らないノウハウなんてありません。なったときにどうするかを考えたほうがいい。貧困から抜け出すには、頑張りが求められますが、そのためには、孤立から脱却、収入の安定など、環境を整える必要がある。誰も信用できず、孤立で苦しんでいるなら、ここ西成に相談しに来てください。相手を見下さない文化が根づいているあいりん地区は、孤独に優しい街。居場所があるだけで、人生は明るくなりますよ。

【ジャーナリスト 吉川ばんび氏】
貧困当事者に寄り添う取材をモットーにし、ツイッター@bambi_yoshikawaには同氏にSOSを送ってくる人も多い。今年10月、拠点を東京に移した

【NPO法人代表理事 坂本慎治氏】
NPO法人生活支援機構ALL代表理事。これまで1万人以上の生活困窮や居住支援の相談に乗ってきた。「人は見上げるものでも、見下げるものでもない、対等や」がモットー

<取材・文/週刊SPA!編集部 撮影/長谷英史>

※厚生労働省の生活支援特設ホームページでは、新型コロナウイルス感染症の影響で収入が減少し生活に困窮する方の相談を受け付けている。
「新型コロナウイルス感染症 生活困窮者自立支援金相談コールセンター」
0120-46-8030(受付時間9:00~17:00 平日のみ)

―[貧困パンデミック]―


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  • 日刊SPA!

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