年収3,000万の彼からのプロポーズの言葉は「専業主婦になってくれ」仕事をやめたくない女は、結局…

高い偏差値を取って、いい大学へ進学する。

それは、この東京で成功するための最も安定したルートだ。

…あなたが、男である限り。

結婚や出産などさまざまな要因で人生を左右される女の人生では、高偏差値や高学歴は武器になることもあれば、枷になることもある。

幸福と苦悩。成功と失敗。正解と不正解。そして、勝利と敗北。

”偏差値”という呪いに囚われた女たちは、学生時代を終えて大人になった今も…もがき続けているのだ。

▶前回:進学校から二流大学に進んだ女。コンプレックスをかき立てる、自分より「上」の女友達からのメールとは

File7. 奈保子(30) 結婚でキャリアを中断させてしまった慶應オンナ


「あぁ…みんな正社員で働いて、キャリアも順調に築いていて充実してそう。ホント羨ましいなぁ」

こうして何の気もなくPCの前に座っては、友人たちのSNSチェックをするのが、奈保子の毎日の習慣だ。

そして時には…

「この子、私よりずっと偏差値の低い大学行ったのに、今はこんな大手で働いているなんて…。しかも部署からしても、きっと出世コースなんだろうなぁ」

「あの子は、会計士の資格をとって監査法人に勤めているのね。きっと給料高いんだろうな…」

などと、黒い感情が頭をもたげてくることもしばしばだった。

そして、決まってこう帰結する。

― 私も、彼女たちと同じようにキャリアを積んでいるはずだったのに。自立しているはずだったのに…。私はやっぱり間違っちゃったのかな?

奈保子は、「仕事が忙しくて家のことに時間は割けない。生活には困らないようにするから、家のことは奈保子に任せたい」という夫の隆紀からのリクエストで、結婚後は週3回の派遣勤務をしている。

隆紀の言う通り、家事はすべて奈保子が完璧に行っていた。

しかし、まだ子どものいない奈保子にとっては、家事と週3回ではどうにも時間を持て余してしまい、ついついSNSチェックにいそしんでしまう。

そして、SNSチェックをする度に、自分の人生を変えてしまった日のことを思い出してしまうのだった。

エリートの奈保子が退職した理由とは

“期待の幹部職候補”だったけれど…


奈保子は、“新御三家”と誉れ高い都内の私立中高を卒業後、慶應に現役合格した。

そして、卒業後は国内最大手の消費財メーカーに営業職として就職。

1年目から着実に営業成績を収め、数少ない女性の幹部職候補として頭角を現し、周囲の期待を一身に集めていた。

しかし、そんな華々しいキャリアは、ある出来事で中断せざるを得なくなる。

その出来事こそが、隆紀との結婚だった。


社会人3年目の頃、友人から「奈保子にとってもピッタリな人がいるの!」と言って紹介されたのが、夫となった隆紀だ。

年齢は、奈保子の6歳上。海外の大学を卒業し、大手外資証券会社に勤務。出会ったときはちょうど30歳になったばかりで、最高職位であるMDへの昇進が見えていたころだった。

隆紀の年収は、当時ですでに3,000万円を優に超えていた。

「奈保子、ホントすごい彼ゲットしたよね~!羨ましいわ!」

「このまま結婚したら、セレブ妻の仲間入りね!」

“隆紀”という大物をゲットした奈保子は、周りの友人から羨望のまなざしで見られていた。

しかし、周りから持ち上げられながらも、奈保子の心の中には1つの思いがあったのだ。

― たとえ結婚することになったとしても仕事はやめない。いくら隆紀が高収入でも、私は自立していたいから…。

奈保子の当時の年収は、約800万円。20代後半の女性としては、十分な稼ぎだ。何より、営業という仕事そのものが大好きだったため、結婚後も当然働き続けるつもりだった。

そして迎えた、奈保子の27歳の誕生日。

ザ・リッツ・カールトン東京の45階にある『アジュール フォーティーファイブ』で、ハリー・ウィンストンのエンゲージリングとともに、奈保子はプロポーズされたのだ。

しかし…

プロポーズの言葉に続いて隆紀が発したのは、時代錯誤も甚だしい一言だった。

「俺はこの会社で出世していきたいし、いつ海外に行くことになるかわからない。それに子どもが生まれたら、小学校から私立やインターに入れてあげたいんだ。

だから、結婚後はある程度、時間に余裕を持ってもらえないかな?」

―「時間に余裕を持ってもらえないかな?」って…つまり、仕事やめてほしいってことよね?

この言葉を聞いた時、プロポーズされた嬉しさよりも、行く先の将来への不安が増していくのを奈保子は感じていた。

しかし、そんな奈保子の思いになど気づきもしない隆紀は、結婚の話をどんどん進めてしまう。

そして、奈保子の両親は案の定、高収入エリートの隆紀をすっかり気に入ってしまう。

― どうしよう…。お父さんもお母さんもこんなに喜んでいて、今から「不安があるの」なんて言えない…。

喜ぶ両親を前に、ぼんやりとした不安を押し殺す。

気がつけばまるで雪崩に飲み込まれるように、隆紀との結婚へと進んでいったのだった。



33歳でMDに昇格した隆紀は、社内の出世コースをまっしぐらに進んでいる。

2人の住まいは、隆紀の勤務先である六本木にほど近い、愛宕のマンションだ。

隆紀のおかげで超都心の高級マンションに住み、生活にはなんの不自由もない。

「一体、何が不満なんだ?」

周りから見たら、こう言われるに違いない。

しかし、時々奈保子の心には、言葉に言い表せない不安がよぎるのだ。

― 隆紀の力で何不自由ない生活を送らせてもらっているけど、私には一体何が残っているのかしら?何も残っていないんじゃないかしら…。

このまま一生、年収5,000万円の隆紀の出世を支える。そんな人生を送るのもアリなのだろう。

しかし、進学校から慶應、そしてメーカーの営業職に就職した努力家の奈保子にとって、「人に乗っかる」人生は耐えられないものだった。

― 私だって、まだ隆紀と同じくらい働ける。私は私でいたい。

そんな思いが強くなっていった矢先…

奈保子は、隆紀が隠していた「あること」を知ることになったのだった。

隆紀が隠していたこと

『昨日は楽しかったね!次回は、寒くなったしおいしいお鍋が食べられるところがいいよね~♪次に隆紀さんと会えるの、今から楽しみだな~!』

『派遣会社の人から、契約延長されそうって連絡きたの!隆紀さんとまだ一緒に仕事できて嬉しい!…』

それは、隆紀がテーブルの上に置いていたスマホ画面に現れたLINEのやりとりだった。

それを見た奈保子は、自分が一瞬何を見たのか理解できなかった。

しかし…

少し冷静になって考えれば、思い当たる節がないわけでもなかった。

というのも、ここ最近、隆紀の帰りが遅いことが増えていたのだ。

コロナ禍ということもあり、クライアントとの会食は減ったし、社内の飲み会も、常識的に考えれば多くはないはずだった。

なのに、なんでこんなに夜遅いんだろう…と、奈保子はずっと不思議に思っていた。

― 隆紀の帰りが遅かったのは、そういうことだったのね…。

落ち込む気持ちはもちろんあったが、腑に落ちる感覚の方が強かった。

それに正直なところ、奈保子にとって隆紀の浮気は、単純に「夫に他に女がいる」というショックだけではなかった。

他に親密な女性がいる。その事実以上に奈保子を傷つけたのは、隆紀の浅慮な行動そのものだ。

会社の派遣社員に手を出すなんて、バレたら出世に響くことは間違いないのだ。

しかも、会社は違えど、相手は奈保子と同じ立場である派遣社員。そのことについても、言いようのない怒りがこみあげてくる。

― 女は自分の思い通りにできると思ってる?バカにしているの?私のキャリアを中断させたにもかかわらず、自分は出世して女と遊んで…。私が我慢してきた日々はなんだったの?絶対許さない!

離婚はしない。

でも、きっちり懲らしめてやる。

そして、自分も復職してキャリアを復活させる。

こう決意した奈保子は、すぐさま探偵に連絡をとり浮気の証拠集めを依頼した。そしてそれと並行して、再就職活動を進め始めたのだった。



2ヶ月後。

離職期間が2年と短かったことから、比較的良い待遇での再就職先を見つけることができた。

そして浮気の証拠も、隆紀の安易な行動のおかげできっちりと集めることができた。

就職先の入社手続きもすべて終えた奈保子は、すべてが完了した事後報告として隆紀にこう告げたのだった。

「私、来月から正社員として就職することになったから」


「は?何言ってるの?」

隆紀からの反応は、予想通りだった。

「あら、そんな強気で大丈夫なの?」

しかし奈保子は小さく笑いながら、隆紀の前にあるものを差し出す。

「あ……」

それは、隆紀の浮気の証拠写真だった。

それまで冷淡に奈保子に対応していた隆紀は急にたじろいだものの、奈保子はもはや容赦しない。

「この写真を会社にバラしたら大変なことになることくらい、わかってるわよね?」

おもしろいくらいに怯える隆紀を前に、奈保子は追及の手を緩めなかった。

「ねぇ?優秀な私を家に閉じ込めてでも出世したいんでしょ?なのに、こんなことで離婚となったらマイナスよね?

だから離婚はしないであげる。でもね、いつ出産するかとかあなたに指図されることは許さない。私の人生は私が決める。

私だってキャリアを積みたいの。これ以上私を閉じ込めないで!」

こうきっぱりと告げた奈保子に、隆紀は言葉も出なかった。



中途入社の初日。

「藤田奈保子です。本日からお世話になります。どうぞよろしくお願いいたします」

職場での挨拶を済ませた奈保子は、初日からエンジン全開で中途入社研修と業務キャッチアップに務めた。

業務をこなしながらも、奈保子の頭には、隆紀にプロポーズされて以来のことがよぎっていた。

プロポーズの時に感じた、ぼんやりとした不安は、決して無視してはいけないものだったのだ。

にもかかわらず、両親や友人たちの祝福に流されて、自分の不安と向き合わずにきた結果、隆紀との結婚生活は不本意なものとなり果てていった。

この再就職は、隆紀への仕返しの始まりだ。

それと同時に、奈保子にとっては「自立して生きる」という自分への誇りを取り戻す作業でもある。

結婚を決めたのも、最初の仕事を辞めると決めたのも、最後は自分だった。自分の選択の誤りを、今から修正しなければならない。

― 今からでも遅くない。私はちゃんと、自立して生きてみせる…。

そう決意した奈保子は、自分をごまかさずに努力して生きていくことを、改めて誓ったのだった。


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