綾野剛の涙が胸に迫る『アバランチ』が描く“正義”と“大義”の対立

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個人の“正義”か、社会の“大義”か。

警察を去った羽生(綾野剛)の“エピソード・ゼロ”を描いた『アバランチ』第5話。それは、怒濤の後半戦への滑走路となるような回だった。


※以下第5話、一部ネタバレあり

藤田(駿河太郎)が命を落とし、羽生も瀕死の重傷を負った爆破テロ。「アバランチ」結成のきっかけとなったこの事件そのものが、大山(渡部篤郎)の仕組んだ偽装テロだった。だが、決してその企みは邪魔者を処分するための罠でもなければ、私怨によるものでもない。


平和ボケしているこの国のテロに対する警戒心を高めるために、警察内部の人間を犠牲にした。いわば、社会を変えるための“必要悪”だった。


“Creating new world”――新しい世界を創造しようとしているのは、やはり大山も同じだったのだ。


「危機管理が低い日本を変えるのは、情報収集の最前線にいるあなたがたです」


内閣官房副長官に就任した大山は、内閣情報調査室の面々をそう激励した。この言葉の延長線上にあるのが、大山の構想する新たな諜報機関の設立だ。それがどのようなものかはわからない。けれど、国家の安全保障のための組織であるなら、一概に悪とは言えない。緊迫する国際情勢下において、日本政府の危機管理能力が何度となく問題視されてきた。それらの解決のために、大山の思い描いている新たな諜報機関が有効であるならば、それは十分すぎるほどの“大義”だ。


そして、この国は何かが起こってからでないと変わらない。「痛みを伴う構造改革」とはかつての総理のキャッチフレーズだが、何かを変えるには、ある程度の痛みは避けられないものとされてきた。今回の場合で言うなら、それが藤田たち公安刑事の命だったのだろう。大山の“大義”を実現するための、尊い犠牲だった。


けれど、個人の視点で見れば、そんな“大義”のための犠牲だと言われても納得いくはずがない。藤田は、大山にとっては代替可能な手駒のひとつかもしれないが、山守(木村佳乃)にとっては最愛の人であり、羽生にとっては信頼できる上司だった。他のメンバーもまたそれぞれ家族や大切な人がいただろうし、もしそんな人がいなかったとしても、失われていい命などひとつとしてあるはずがない。

だから羽生と山守は立ち上がった。それぞれの“正義”を貫くために。“正義”か“大義”か。折り返し地点を曲がった『アバランチ』の視界にあるのは、そうした二項対立だ。


第5話のストーリー全体としては、失意の羽生が大きな見どころに。生気を失った表情は、綾野剛の本領だ。錆びれた町工場で働く羽生。あかり(北香那)に「酒飲むの?」と話しかけられ、「いや」と答える。長くまともに話をしていないと、人は声の出し方を忘れる。あの「いや」という掠れた声が、まさに長らく会話らしい会話をしていない人間のそれで、劇中では描かれていない空白期間を観る者に想像させる。

重い前髪に、無精髭。でも、公安時代は髪をセンターで分け、額を出し、髭もない。風貌からして快活だ。藤田とのやりとりも、西城(福士蒼汰)や牧原(千葉雄大)と絡んでいるときとはまた違う、実直な弟分らしさがあって、あの事件を機に羽生がどれだけ変わったのか、鮮やかな対比がなされていた。


最も惹きこまれたのは、長谷川(金子昇)の不正の証拠を傷だらけになりながらも掴んできたあかりとの場面だろう。話しているのは、ほとんどあかりだけ。羽生はほぼ台詞がない。でも、あかりの言葉を聞いている羽生の顔がどんどん変わっていく。大きく目を見開いたり、鼻をすすったり、そんなわかりやすい仕草を入れているわけじゃない。なのに、心が動いているのが伝わってくる。


そして、まるで自分でも気づいていなかったかのように、つーっと涙がこぼれる。その自然な涙に、思わず唸ってしまう。


「すげえな」と称えるその顔は、まるで目がなくなりそうなくらいの笑顔で、これだけ渋みも色気も出せる俳優をこう形容するのにためらってしまうほど、あどけない。人のアナーキーな部分を表現するのに長けている俳優だと綾野剛は評価されることが多いけど、その実、こんなにピュアな面を惜しげもなく出せてしまうところが彼の魅力だ。


あかり役を務めた北香那も、地方に住む、決して教養が高いとは言いがたいが心根がまっすぐな女性を屈託なく演じていて、2人の化学反応を含めて見ごたえのある場面に仕上がっていた。


私たちは非力ではあるが無力ではない。黙って蹂躙されるだけの人形では決してない。強者を出し抜く知恵を、権力に剥く牙を、私たちは持っている。あかりの繰り出した“弱者の反撃”は、すなわち「アバランチ」の信念そのものだった。


「笑ってたら、いいことあるらしいよ」


そうあかりは言った。この台詞はきっと前回の「全部終わったら、俺は笑ってんのかな」に連なるものだ。


テロリストとして指名手配された羽生。ここから「アバランチ」は国家という強大な権力を相手に、過酷な戦いを強いられることになるだろう。その先に、羽生が笑えている未来が訪れることを、ひとりの視聴者として願ってやまない。


文:横川良明



『アバランチ』

毎週月曜夜10時~10時54分

カンテレ・フジテレビ系全国ネット

【出演】

綾野剛 福士蒼汰 千葉雄大 高橋メアリージュン 田中要次 利重剛 堀田茜 ・ 渡部篤郎(特別出演) 木村佳乃

【主題歌】

UVERworld(ソニー・ミュージックレーベルズ)

【監督】

藤井道人、三宅喜重(カンテレ)、山口健人

©カンテレ

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  • 11/16 20:00
  • dwango.jp news

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