障害者の“ギャグ”はアウトですか?「笑い」で偏見を吹き飛ばせ!|吉川トリコさんインタビュー

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 結婚、出産、不妊治療の話題から、推し活やダイエットまで、本音炸裂のエッセイ本『おんなのじかん』(新潮社刊)が話題の著者、吉川トリコさんへのインタビュー。

 前回まで、恋愛や結婚、不妊治療や子を持つということなどについて、さまざまなお話を聞いてきました。最終回である今回は、ネガティブな感情を笑いに転換する、吉川トリコさん流・楽しく生きるコツも伝授してもらいます!

◆90年代の悪趣味文化を野放しにしていた自分

――本書ではNHKのバリアフリー・バラエティー『バリバラ』などを例に、「不幸でかわいそう」といったネガティブな先入観を払拭するのに、「笑い」が効果的だと書かれていました。

吉川トリコさん(以下、吉川)「自分の性格なのか、根がふざけてるので昔からそうなんですけど、ちょっと不謹慎なことを言って笑う、みたいなところがあるんです。ミュージシャンの小山田圭吾さんが、同級生や障害者に対するいじめを過去の雑誌で発言していたことで東京オリンピック開会式の作曲担当を辞任した一連の流れを見ていて、90年代の空気を知っている人たちは、悪趣味文化的なものの存在を知っていながら野放しにしていた自分にも少なからず責任があると感じたんじゃないでしょうか」

――サブカル全盛期で、今の感覚で振り返ってみるとちょっと悪趣味とも取れたりするような感じも受け入れられる時代でしたね。

吉川「電気グルーヴも結構過激なことをラジオで言ったりしていて、私もそういうのを浴びるように聞いて育った10代だったので、どうしても、不謹慎なことを言って笑う、ギリギリを行くのがかっこいい、みたいな感じがあったけど、当時面白いと思って言ってたことって、今となっては完全にアウトなんですよね。今というかそもそもの最初からずっとアウトだったんですけど。
 
 不謹慎なことを笑いに、と言っても、これを言っちゃうと傷つく人がいるからダメかな、とか、これ以上はダメだぞっていう線引きを一人一人が見極めていくことが大事だと思います」

◆当事者でない人が、いいとか悪いとかジャッジできない

――『おんなのじかん』の中には、2012年に日本で公開されたフランス映画『最強のふたり』(2019年にハリウッドでもリメイクされた)について書かれていました。

吉川「この映画は、事故で首から下が麻痺してしまった富豪のフィリップと、その介護を請け負うことになった失業中の青年ドリスの話なんですが、このドリスという青年の、障害者を障害者とも思わない言動がとにかくひどいわけですよ。

 この映画に出てくる笑いやバリバラの笑いもそうだけど、当事者の中でも喜んで笑う人もいるだろうし、見たくもないと目をそらす人もいるだろうなっていう、どっちにも転がりうる、みたいなところがあるんです。それを一概に、当事者でもない人間がいいとか悪いとかジャッジするわけにはいかないかな、と思っていて。だったらどうしたらいいのか、みたいなことを、これからみんなで話し合っていこうっていう段階にあるのかな、と思います」

◆上沼恵美子や阿佐ヶ谷姉妹の「おばさんネタ」

――本書の中では、M-1グランプリ放送後に出場者から「更年期」「ババア」などと暴言を吐かれた審査員の上沼恵美子さんが、翌年の番組オープニングで「更年期を乗り越えました!」と言って会場を沸かせたという「更年期ギャグ」についても触れられています。

吉川「更年期なんて、笑えばいいと思うんですよ。あ、とろサーモンの人が上沼さんを更年期で笑うのはナシだけど、上沼さんが自分の更年期を笑いにして、あのアンサーをしたというのは超いいじゃないですか。思い出しても笑っちゃうんですけど」

――「自分がおばさんになること」に恐怖心を抱く女性は多いと思います。他人にどう思われているのか気になりますし、おばさんになっていく自分とどう対峙していいものか……。

吉川「『加齢ネタ』で忘れちゃいけないのが、阿佐ヶ谷姉妹ですね。これまでのお笑いというのは、『私、もうおばさんだからさー』みたいな自虐ネタが多かったと思うのですが、阿佐ヶ谷姉妹は全然違って、普通におばさんでいることが可愛らしいしおかしいし、というのであんなに人気があると思うんです。割と謙遜(けんそん)する方達ではあるんですけど、そんなに自虐っぽくはないから、そこが今の世の中にウケてるんだろうなっていう気がします」

――上沼さんや阿佐ヶ谷姉妹、吉川さんのような方々がこうして話題にしてくれることで、私たちもそれに乗っかって、ネガティブになりがちなことも、自分から笑いに持っていけそうな気がします。

◆ネガティブな感情こそ笑い飛ばせ!

吉川「ややもすると不謹慎と言われるような、ネガティブになりがちな話題において、“笑えるか笑えないか”の違いはなんだろうというのをずっと考えてきました。まだ自分の中でもはっきりとしていないのですが、当事者性(自分に関連付けるかどうか)の問題はひとつあるんじゃないかという気はしています。
 不妊にしろ障害にしろ加齢にしろ、第三者がその属性に勝手にネガティブな意味づけをするのではなく、当事者が発信するのであれば、笑いになり得ると思うんです。もちろん、言いたくない人は言わなくても良いという大前提はありますが、更年期ギャグも閉経ギャグも、もっといろんな人から聞きたいですね」

 笑いにすることで、「目に見えない壁」を弾き飛ばそうとしている吉川トリコさん。その姿勢に、勇気付けられます。なんでも「不謹慎」「アウト」と決めつけて丸々タブーにするのではなく、「どこで線を引けばいいかな?」と立ち止まって考えてみることも、時には大事なのかもしれませんね。

【吉川トリコ】
1977年生まれ。2004年「ねむりひめ」で女による女のためのR-18文学賞大賞・読者賞受賞。2021年「流産あるあるすごく言いたい」(『おんなのじかん』収録)で第1回PEPジャーナリズム大賞オピニオン部門受賞。著書に『しゃぼん』(集英社刊)『グッモーエビアン!』『マリー・アントワネットの日記』(Rose/Bleu)『おんなのじかん』(ともに新潮社刊)などがある。

<取材・文/日向琴子>

【日向琴子】
漫画家 / コラムニスト / ラブホテル評論家 / 僧侶 / 様々な職業を転々としたのち、2020年末に高野山別格本山「清浄心院」にて得度・出家。運送屋、便利屋のパートで学費を稼ぎながら、高野山大学大学院にて密教学勉強中

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