「死にたい」「学校 行きたくない」検索…学生・児童の自殺が増加傾向

 20年は新型コロナウイルスの影響もあり、自殺の傾向にも大きな変化があった。もっとも特徴的なのは、学生・児童の自殺数が著しく増加したことだ。厚生労働省は学生・児童の自殺について、社会的事象との関係、さらに、インターネット上の自殺に関連しそうなワードの検索より、非常に興味深い分析を行っている。

 厚労省は11月2日、「令和3年(2021年)版自殺対策白書」を公表した。この中で、20年の学生・児童の自殺者数の分析を行っている。

 社会全体の自殺者総数は10年から19年まで減少を辿ったものの、20年には新型コロナの影響もあり、前年比790人(3.9%)増加し、2万907人となった。

 小学生から大学生、専修学校生等の学生・児童の自殺者数は19年、20年と2年連続で増加しており、20年には同153人(17.3%)増加し、1038人となった。

 特に深刻なのは、小学生、中学生、高校生の「児童・生徒」の自殺で、17年から4年連続で増加しており、20年は同103人(26.0%)と大幅に増加し、499人と500人目前に迫っている。大学生・専修学校生などの「学生」の自殺も2年連続で増加し、20年は同50人(10.2%)増加し、539人となった。(表1)

 男女別では、女性が387人に対して、男性が651人と男性が倍近くなっているが、過去5年平均の自殺者数と比較してみると、男性は過去5年平均の580人から651人に71人(12.1%)増加したのに対して、女性は248人から387人に139人(56.0%)と大幅に増加している。

 男性の高校生までの「児童・生徒」は過去5年平均233人から280人と47人(20.1%)増加、大学生・専修学校生等の「学生」は347人から371人と24人(7.0%)増加、女性の「児童・生徒」は126人から219人と93人(73.5%)増加、「学生」は122人から168人と46人(37.9%)増加しており、女性、特に「児童・生徒」の自殺の増加が顕著となっている。

 学生・児童の20年の自殺を月別で見ると、9月が最も多く127人、次いで、8月の125人、11月の111人の順となっている。(表2)

 さて、15年版自殺対策白書で、18歳以下の自殺は学校の休み明けに多い傾向があることが明らかとなっている。「18歳以下の自殺者において、過去約40年間の日別自殺者数をみると、夏休み明けの9月1日に最も自殺者数が多くなっているほか、春休みやゴールデンウィーク等の連休等、学校の長期休業明け直後に自殺者が増える傾向にある」と指摘されている。

 20年は、新型コロナの感染拡大防止のために全国一律の臨時休校(3月2日開始)が実施され、またその影響で多くの地域で夏休みが短縮されるなど、学校の運営状況は例年とは大きく異なるものとなった。

 そこで、学校の運営状況等の変化、社会的事象と児童・生徒の自殺者数の変化の関連について分析を行っている。

 20年の学生・児童の自殺者数の推移を1週間区間(20年1月5日から12月26日まで)で集計したグラフに、学生・児童の自殺に影響を与える可能性のある社会的事象の日付等を重ねて見ると、3月2日に一斉休校の要請が出された直後には自殺者数が大きく減少していることがわかる。

 だが、5月25日に緊急事態宣言が全面解除となり、全国で学校が再開された6月には、一転して児童・生徒の自殺者数が急増している。また、9月も夏休み明けと著名人の自殺報道が相次いだことの影響もあって、断続的に自殺者数が増加している。

 さらに、次年度の進路を検討し始める時期とされる11月にも、自殺者数が大きく増加している。

 この著名人の自殺と自殺報道後に自殺が増える現象「ウェルテル効果」については、「自殺対策白書」でも分析が行われている。別稿を掲載しているので、ご覧頂きたい。

https://www.cyzo.com/2021/11/post_295466.html

 また、学生・児童の自殺者数の推移とインターネットによる検索ワードの推移について分析している。分析には、自殺念慮の発露の可能性がある代表的なワードとして「死にたい」を、学校の運営状況等に関連したワードのうち最も関連がみられた「学校 行きたくない」ついて分析を行った。

 1月後半かが2月初旬にかけた自殺者の増加では、検索ワード「死にたい」「学校 行きたくない」の両方との関連性が疑われる。また、5月から7月の自殺者の増加では「学校 行きたくない」との強い関連性が、7月以降の自殺者の増加では「死にたい」との関連性が見られた。

 社会的事象と検索ワードとの関連性を見ると、学校への登校が学生・児童の自殺者数と強い関連があることが示唆されている。

 社会的な環境変化はもとより、根強く残るいじめ問題など、教育の改善は急務だ。少子化が進む中、子どもたちが健やかに育つ環境を作るのは、政治と大人たちに課せられた大きな義務である。

2021/11/15 7:00

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