NY帯同かキャリアかの選択を迫られた女。自分が可愛い女の決断とは?

人はパートナーに、同じレベルの人間を選ぶという。

手の届かないような理想の男と付き合いたいのなら、自分を徹底的に磨くしかない。

そう考え、ひたむきに努力を重ねる女がいた。

広告代理店に勤務する杏奈(25)。

彼女は信じている。毎日「あるルール」を守れば、いつかきっと最高の男に愛される、と。

◆これまでのあらすじ

「この人と付き合って自分の価値を証明したい」と感じる光輝と、2ヶ月間身体の関係を持っていた杏奈。

親友・美咲を介して会った進という男と会ううちに、これまで「愛」をはき違えていたことに気づく。

ついに進と交際することを決め、これからの2人の関係にワクワクしていた。

その最中、2人にまたしても新たな試練が降りかかり…?

▶︎前回:25歳まで完全に愛をはき違えていたヤバい女。ようやく軌道修正を試みたものの…?


進と私が付き合って、今日で1年が経った。

振り返ってみると、これまでのどの彼氏とも違う付き合い方をしていると感じる。

1人の時間を大切にしつつ、2人の時間を作ったり、進の好きなことを一緒にやってみたり、私たちらしい関係になっていると思う。

そして、私がずっと守り続けていたあのルールも、変わっていた。

愛されるためには完璧であることが必須と信じ、毎日欠かさず行っていたジム。進と付き合うようになって不思議と強迫観念が消え、週3・4回になった。何よりも目的が変わったことが大きい。

今は自分のストレス発散やリフレッシュが目的になっている。「行かなきゃ」という義務感じゃなくて、「行って、リフレッシュしたい」というポジティブな気持ちで。

進が「杏奈が自分を受け入れていることが、俺にとっては魅力だよ」と言ってくれたことで、思い込みの鎖がほどけ始めていた。



今日は金曜日。進の家でお祝いをしようと、仕事が終わった私は先に帰ってきた。

期末だから忙しいらしく、進はまだ帰ってこない。

デパ地下で買ってきた惣菜とカトラリーを準備し終えて、YouTubeを見ていると進が帰ってきた音がした。

「おかえり!」

玄関まで迎えにいくと、期待より少しテンションの低い進がいた。仕事で何かあったのかもしれない。最近ではこうした進のちょっとした感情の変化もわかるようになっていた。

「どうしたの?」

「ううん、ごめんね遅くなって」

進は申し訳なさそうな顔をした。あまり私から話を掘り下げないほうがいいかなという気がした。

「全然大丈夫だよ!仕事お疲れ」

まずはリラックスしてほしい。2人で乾杯して、ゆっくりと食事をとった。他愛のない話をして、少しずつ笑顔が戻ってくる。

食後のケーキを食べ終えたところで、ようやく意を決したように進がこちらを見た。

「杏奈、実は話したいことがあるんだ」

久しぶりに見る進の緊張した表情で、私も一気に真剣な気持ちになった。

「3年のNY赴任が決まった」

驚きと、いろいろな感情が混ざって声が出ない。

「…おめでとう!すごいね」

ネガティブな感情が伝わらないように、必死に笑顔を作った。

進がずっと海外赴任を望んでいたことも、それに向けて努力をしていたことも知っていた。

だから、まずは進の夢がひとつ叶うことがすごく嬉しかったし、進を誇りに思う。

「…ありがとう」

進もきっと、複雑な心情なのだろう。

2人の関係とか将来とか、考えたいことや話し合いたいことがたくさんある。

けれど、自分がどうしたいかがすぐに出なかった。

「じゃあ、今日は海外赴任祝いも兼ねてちょうど良いタイミングだったね!もう一本、ワイン開けちゃう?」

私は、無理やりその場を明るくした。

進もついさっき伝えられたから、自分の気持ちを整理できていないのだろう。

2人はなんとなく今何かを話し合う時じゃないと感じたのか、切り替えて楽しもうと振る舞った。

海外赴任が決まると、カップルなら避けて通れない「あの問題」とは?



「実は、進のNYへの赴任が決まったの。今のところ3年間」

自分の気持ちを整理したくて、久しぶりに親友の真央に電話をかけた。

「まじ!?てことは結婚間近?進くんについて行くの?」

「やっぱり海外赴任が決まると、結婚がチラつくよねえ」

そう、あの後1人でも考えてみた。海外赴任が決まった時、婚約や結婚する男女が多いことも、もちろん知っていた。

けれど、なんとなく見て見ぬ振りをする自分もいた。それなのに、いつも正解に導いてくれる真央が言うことで、今回ばかりは強制的に向き合わなければならない気分になる。

「うん、まあ結婚するカップルは多いよね。でもさ、ちょうどよくない?杏奈もいつか海外に住みたいなって言ってたじゃん」

そう、私もずっと海外で働いてみたい気持ちがあった。幼少期を海外で過ごしていたこともあり、あっちの空気が自分に合ってるなと感じることも多い。

「そうなんだけどね、あくまでもあっちでバリバリ働きたいって意味で憧れてたから、今のキャリアで行ったところでって感じなんだ。ただ、そこを逆手にとって今の職種にこだわらないで新しいことを見つけてもいいのかなって考えたり」

「まだ会社を出て通用するスキルが十分あるかっていうと難しいよね。進くんは結婚とか考えてるのかな」

「まだちゃんと話してないの。プロポーズされるならサプライズに憧れるし、話し合いで結婚決めるのもなんかなと思っちゃって」

「杏奈って…たまに乙女な理想あるよね…今そういう問題じゃないと思うよ」

真央はあきれたように笑っている。馬鹿げた憧れなのはわかるけど、進のことが本当に好きだからこそ、今まで考えたこともないようなことを考えてしまう。理性ではそれどころじゃないのはわかっていた。

「このままの関係で遠距離になるか、婚約か結婚して遠距離か、今の仕事やめてついていくかだよね。進くんがそもそも結婚を考えてるかで今考えてることが水の泡になる可能性もあるね」

「そうなんだよね。でもさ、取り越し苦労かもしれないんだけど、まずは自分の気持ちを自分で整理しておきたくて。急に真央にこんなこと相談してごめんね」

「私はこうなったら乙女な夢は捨てて、お互い話し合うのが一番だと思うよ」

「ビシッと言ってくれてありがと、真央。そうだよねえ。やっぱり話し合っていくのがいいんだよね。察しても選んでも、そろそろ卒業しなくちゃ、私」

真央に心から感謝しながら、電話を切った。




「やっぱり、今の状態で退職したら復帰は難しいんですかね?」

今日は、いつもキャリアについて悩んだときに力になってくれる、同じ大学の先輩でもあり同じ会社の人事部にいる遠藤さんに相談をしている。

「職とか、地位を選ばないなら復帰自体は難しくはないと思う。今のスキルでブランクがあった場合、今と同じような環境を手に入れるのは相当努力しても厳しいかもね」

「ですよね、分かってはいるんです。どっちにも振り切れなくて」

「うん、でも一方で今の環境にこだわる必要がないってのもある。杏奈ちゃんは現にかなり成績出してるし、高い能力を持ってるから、何かしらの仕事でまた花開く可能性も高いと思うよ」

「そんな、恐縮です。…その時の状況に応じてできることをするんだろうなっては思うんですけど、やっぱり後悔するのが怖くて」

「わかるよ。それに、出産とかも関わってくるから尚更どんなキャリアプランを描くかって難しいよね」

「そうなんですよね。今ブランクができて、出産でまたブランクができるって思うと怖い気持ちもあります」

「うん。でもやっぱり結局は2人の決断だから、相手の方とゆっくりお互い納得するまで話し合うべきだと思うよ」

「はい、そうします。お忙しいところありがとうございます。とっても助かりました」

帰りにスタバに寄って、温かいラテを買った。真央や先輩と話すうちに、少しずつ気持ちが落ち着いてきた。

予期せぬ予約されていたディナー。ついに…と期待した女に起きたこと


「お待ちしておりました」

今日はいつも通り進と休日デート、だと思っていた。

けれど、進はディナーを予約してくれていたみたいだ。

「もしかして…」と思いつつ、胸のざわつきを抑えながらメニューを選んだ。

他愛ない話をしたあとで、進が「あのさ」と真剣な表情で口を開いた。

今起きているシチュエーション的に、プロポーズではないことを悟った。

「この間の海外赴任のことなんだけど、ちゃんと今後のことについて杏奈と話したいなって思ってて」

もうすぐ空になりそうなワイングラスを口まで運んで、進と目を合わせた。

「私も、ちゃんと話したいって思ってた。これは進だけじゃなくて、2人の問題だもんね」

「杏奈は、やっぱりもう少し今の仕事続けたい?」

きっと私のことをたくさん考えてくれた、優しい進らしい聞き方だった。

「今の仕事を続けたいかはまだはっきりしてないんだけど、退職するのに十分なスキルが身についたとはまだ感じてないのが正直なところ」

「そっか。じゃあやっぱり、俺と一緒についてくるって選択肢はないかな?」

控えめに進が質問する。

「海外にずっと行きたいって思ってたし、あっちで今以上の天職を見つけられるかもっても思ってて。正直、まだどうしたらいいかわかんない。バイリンガルだしずっとあっちにいたから、仕事はあっちでも見つけられるとは思うんだけど」

「うん、杏奈は頭いいからあっちでも十分輝けるとは思うよ」

進はきっと、一緒についてきて欲しいんだろうなと思った。

「ありがとう。私も最悪な状況にはならないと思う。けど、もう少し考えさせて欲しい」

「急かすつもりはないからゆっくり考えて。俺は、無理強いする気持ちはさらさらないけど、杏奈と一緒に行けたらって思ってる」

きちんと言葉で言われると、余計に悩ましかった。

進の幸せが自分の幸せでもあるから…。自分の損得だけで結論を出せた頃とは、景色が違ってしまったことを悟った。



「美咲、久しぶり!」

1人で答えを見つけなきゃと思いつつも、もう1人相談したい人がいた。

そう、進のことをよく知る美咲だ。

「海外赴任ね、進も結構悩んでそうだったから心配してたの。進はなんて?」

「私のキャリアを尊重したいから無理強いするつもりはないけど、できればついてきて欲しいって言われた」

「そうだよね。この間相談受けたんだけど、杏奈が今の会社でやりがいを感じてるから自分の気持ちを伝えるべきか悩むって言ってた」

「海外赴任についていくってことは結婚するってことだよね?結婚したい相手ではもちろんあるけど、正直そんなにすぐくると思ってなかったから、それもちょっと戸惑ってて…」

美咲は、うんうんとうなずきながら聞いてくれる。

「そうだよね、同棲とかもしてないしね。新しい環境で、2人の関係も新しいことだらけとなると、どうなるか不安に思うよね」

「うん、進とだったらきっと大丈夫って思うんだけど、大きな決断すぎて」

「進からいろんな気持ちは聞いてるけど、私が言うべきことでもないと思うから2人でとことん話し合いなよ」

「そうだね、ありがとう」

「ただ一つ言えることは、進もたくさん悩んでて、それは杏奈との関係を大事にしたいから。お互いにその気持ちは一致してるからきっと大丈夫だよ」

美咲に相談してよかったと思った。

私たちなら、きっと大丈夫…。そして私の心は決まった。


▶︎前回:25歳まで完全に愛をはき違えていたヤバい女。ようやく軌道修正を試みたものの…?

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海外赴任・結婚・退職。全てが重なった25歳の女が下した答えとは

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