結婚にラブって必要?「結婚したい」は本当に自分の欲望ですか|吉川トリコさんインタビュー

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 結婚、出産、不妊治療の話題から、推し活やダイエットまで、本音炸裂のエッセイ本『おんなのじかん』(新潮社刊)が話題の著者、吉川トリコさんへのインタビュー。

 第2弾は、不妊治療や子を持つということについて、結婚について、さらに深く聞いていきます。

◆不妊治療の話は「触れてはいけないこと」なのか

――本書でも語られていましたが、不妊治療ってお金・時間・心身ともに負担が大きいにもかかわらず、人に話しづらい空気がありますよね。だから人に相談しづらく愚痴も言いにくく、カップルだけで抱え込んでしまうことも。これってなぜなんでしょう。

吉川トリコさん(以下、吉川)「ひとつ、偏見があるから言いにくいというのは、根底にあるのかもしれないですね。不妊治療自体の、“自然なことじゃない”みたいな感覚は、私たちの世代だと希薄じゃないですか。でも上の世代の方など、一部の方々の中にはまだまだそういう価値観がある……というのは関係していると思います。

 もうひとつ、私の場合は『お金をかけてまでなぜ不妊治療を?』ということに対しての説明を求められる感じがあって。『そこまでして子ども欲がるってなんで? 養子じゃダメなの?』とか、『あ、そんなに血縁にこだわるんだ』みたいなのに対する説明をしなきゃいけないんじゃないかと、勝手に気負っていた部分があるんです。それで、なかなか言いづらかったという気がしますね」

◆不妊治療の助成や保険適用「43歳未満まで」ってどう思う?

――現在、一部の不妊治療を新たに健康保険の対象とする議論がされていますね。現行の費用助成制度と同じく「妻の年齢が43歳未満」という年齢の制限があります。この「43歳」という年齢について、吉川さんはどう思われますか?

吉川「個人的にはもうちょい……あと2歳くらい上乗せしてくれてもいいんじゃないかとも思います。不妊治療が健康保険の対象になるのは喜ばしいことですが、年齢で区切られてしまうというのは、切り捨てるってことじゃないですか……多分。理解はできるけれど、理解できるからと言って納得はしねぇ、みたいな気持ちですね

――本書の「はじめに」では、まさに43歳だった当時の吉川さんの気持ちについて「四十歳なら迷わず不妊治療を続けていただろうし、四十五歳ならきっぱり諦められるだろうに、という年齢」と書かれていました。

吉川「43歳というのは、そういう絶妙な年齢であることは確かです」

◆子どもを「欲しくない人」は説明を求められがち

――本書の中で、子どもを欲しがる人々が語る“理由”を、本能型、好奇心型、規範遵守型、そして現実逃避型の4つに分類していたのが興味深かったです。

吉川「人間を型に分けるのは若干抵抗があったんですけどね。子どもが欲しいっていう人たちは、欲しいと思ったら欲しいでよくて、それ以上の説明は求められない感じがありますよね。世間的にいいこととされているから、本人もそこまで突き詰めて考えなくても済むようなところがあると思うんです。例えばざっくり『えー、子ども可愛いじゃーん、欲しいじゃーん』でも周りが納得するというか」

――それに対して「欲しくない人」たちが語る理由の方が理屈が通っている、というのにも、なるほど! と思いました。

吉川欲しくない人は、やっぱり『なぜ欲しくないのか』を説明しなきゃいけないことが多いんです。なんでも同じ構図ですね。マイノリティなほうが説明を要求されるから、そのことについて突き詰めて考えて発信することになっている。だから答えが明確なんです。その構造の違いなのかなと思いますね」

◆「結婚したい」は本当に自分の欲望なのか?

――少子化対策もあってか「子どもを産むことは素晴らしい」という空気が世にはありますが、それを“圧”だと感じて思い悩む女性も多いようです。中にはその空気が、妊活や婚活の動機や理由になっている人も。この呪縛から逃れることはできないのでしょうか。

吉川「結婚すべきとかしたほうがいいとかは私自身あまり思わないのですが、『どうして結婚したいのか』を考えた時に、案外、自分の欲望じゃなくて他者の欲望である場合もあるんじゃないかと思うんですね。
 ここ数日、女性誌の歴史を遡(さかのぼ)る本を読んでいてハッとしたんですが、なんであんなに一時期ブランドバックが欲しかったんだろうと思ったら、それって実は他者の欲望をそのまま自分の欲望だと勘違いしていたんじゃないかということに気がついたんです」

――「結婚して子ども産まなきゃ」って気持ちがどこから来ているのか、突き詰めて考えるとよくわからなくなりますね。

吉川「結婚についても、私の場合はですが、他者の欲望をトレースしてるだけなんじゃないかという気がどうしてもするんですよね。一緒に生きていく誰かが欲しいという気持ちは自然なことだと思うのですが、そこでラブにばかりこだわるのはすごく危険だなーと思うんです。

 婚活している女性の中には、ロマンティック・ラブ・イデオロギー(※)に縛られているというか、相手のことを好きになれなくて悩む人もいて。そこにラブ必要? と思っちゃうんですよ。結婚にラブが必要になったのはここ50年くらいじゃないですか。それに縛られすぎているから苦しめられてるんじゃないかな、というのはすごく思っていて」

※ロマンティック・ラブ・イデオロギー:「恋愛して結婚して子どもを産んで育てるのが、素敵なことで当たり前のこと」という、恋愛と性愛と生殖が結婚を媒介して一体化された社会通念のこと。日本では1960年代以降に浸透したとされる。

◆ラブありきの結婚にこだわらなくても

――たしかに、昔はお見合い結婚が多くて、どこの誰とも知らない人といきなり夫婦になって、それでもそれなりにうまくいっていたという話も聞きます。

吉川「私、今の夫と別れたり夫が死んだりしたら怖いな、やだなってずっと思ってたんだけど、最近はなんか、割と、もし夫が死んでも、次(のパートナー)は女だなって考えたら気が楽になりました。男と暮らすのはいろんな意味でもうちょっと無理だなと思っていて。

 多分、恋愛や性愛“以外”でだれかと繋がろうと思ったら、私は女の方がいいなと思ったからなんですけど。でもまぁ、今私は44歳なので、そうなったら、残りの人生はもう、ひとりでもいいかなという気もしてるんです。
 だから、もうちょっとその、ラブありきの結婚にこだわらない方がいいんじゃないのかな、楽になれるんじゃないかな、と思いますね」

 次回、インタビュー最終回では、ネガティブな感情を笑いに転換する、吉川トリコさん流・楽しく生きるコツも伝授してもらいます!

【吉川トリコ】
1977年生まれ。2004年「ねむりひめ」で女による女のためのR-18文学賞大賞・読者賞受賞。2021年「流産あるあるすごく言いたい」(『おんなのじかん』収録)で第1回PEPジャーナリズム大賞オピニオン部門受賞。著書に『しゃぼん』(集英社刊)『グッモーエビアン!』『マリー・アントワネットの日記』(Rose/Bleu)『おんなのじかん』(ともに新潮社刊)などがある。

<取材・文/日向琴子>

【日向琴子】
漫画家 / コラムニスト / ラブホテル評論家 / 僧侶 / 様々な職業を転々としたのち、2020年末に高野山別格本山「清浄心院」にて得度・出家。運送屋、便利屋のパートで学費を稼ぎながら、高野山大学大学院にて密教学勉強中

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