アニメ『鬼滅の刃』無限列車編から「キメツ学園」まで!炎柱・煉獄杏寿郎の魅力に迫る

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 興行収入400億円突破という、日本映画史上初の大記録をうちたてた『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』。現在、放映中のアニメ2期は、この劇場版にテレビオリジナル映像を加え、再編集されたものだが、炎柱・煉獄杏寿郎の新しいショットはファンを喜ばせた。ここでそのオリジナルショットに加え、アニメ1期・2期、劇場版特典として配布された『煉獄零巻』、「キメツ学園」などで見せる、煉獄杏寿郎の「表情」に注目し、彼の人気の秘密について考えていきたい。神戸大学の研究員であり、11月18日には民間伝承・比較民俗学の視点からセリフに潜む本心をキャラクターごとに分析した『鬼滅夜話』(きめつやわ)が発売される植朗子氏に分析してもらった。

【ご注意下さい!】この記事には、漫画『鬼滅の刃』8巻までの内容と、『鬼滅の刃・無限列車編』ならびに、劇場版の来場特典として配布された『煉獄零巻』のネタバレが含まれます。
※『煉獄零巻』は販売されていませんが、『鬼滅の刃 公式ファンブック 鬼殺隊見聞録・弍』(集英社)に「煉獄零話」として収録されていて、読むことが可能です。


◆アニメ2期「無限列車編」のオープニングの“不穏さ”

 アニメ「無限列車編」が放送開始になると、オープニングとエンディングが話題になった。中でもとくに注目が集まったのは、炎柱・煉獄杏寿郎(れんごく・きょうじゅろう)と、主人公・竈門炭治郎(かまど・たんじろう)とのツーショットの場面だろう。このオープニングは、“目を閉じた”煉獄と炭治郎のアップから始まる。やがて2人は目を開くと、彼らの立ち位置を左右で入れ替えて、互いの身体を交差させる。

「無限列車編」で彼らは“同じ敵”に立ち向かうはずなのに、なぜ彼らは「別々の方向」へと足を進めたのか。この「交差」の場面は、彼らの道が「やがて、わかたれる」ことを視聴者に予感させる。

 オープニングの曲は、アニメ1期と劇場版に続き、歌手のLiSA氏が歌っているが、「明け星」のメロディは、明るさよりも“揺らぎ”や“不穏さ”が表現されており、歌詞もまた、これから死闘で傷ついていく煉獄杏寿郎の苦難を想起させるものだった。

◆「無限列車編」での煉獄杏寿郎

 アニメ「無限列車編」には、煉獄の表情や仕草がよくわかる場面が描かれている。焦点がややわかりづらい目が特徴的で、口角はキュッと上げていることが多く、鬼殺隊屈指の実力者として自信に満ちた静かな表情を浮かべている。

「炎柱(えんばしら)」のトレードマークである、炎の意匠をあしらった白いマントをたなびかせ、冷静にかつ素早く状況を判断し、鬼からの被害をおさめていくその姿は、まさに「英雄(ヒーロー)」そのものだ。劇場版とアニメでは乗客を抱きかかえて救出する場面が追加され、頼りがいのある彼の様子が印象的だった。

 しかし、炭治郎と頭を寄せ合い眠り始めた場面では、煉獄は軽く口を開け、あどけない顔をしていた。煉獄杏寿郎はまだ20歳なのだ。

◆母を亡くした悲しみ、父とわかり合えない寂しさ

 やがて、下弦の壱の鬼・魘夢(えんむ)の血鬼術(けっきじゅつ=鬼の特殊能力)によって、煉獄は自分の家族をめぐる「悲しい過去の夢」を見てしまう。寝入り始めの時とはちがい、眉間にシワを寄せ、表情をかたくした。

 戦闘中には「強く優しい子の母になれて幸せでした」と涙を流した母の顔を思い出し、この亡き母との約束をはたすために、「立派な炎柱」であろうとした。だが、父の言葉は母とはちがい、「柱」であることを喜ばないものだった。煉獄の苦悩が深まっていく。

 しかし煉獄は「寂しさ」にとらわれても、取り乱すことはなかった。目を見開き、耐え、悲しみの言葉を飲み込むのだった。

◆劇場版来場特典『煉獄零巻』

 煉獄の「目を見開く」表情は少年期から見られる。病床の母に死期を伝えられた時も、煉獄は何も言わずに目を大きく開いていた。さらに、「劇場版・無限列車編」が公開された時、来場特典として『煉獄零巻』という小冊子が配布されたが、ここに描かれている煉獄は、父との“すれ違い”や惑いのたびに同じ表情をしている。見開かれた目には悲しみがたたえられていた。

『煉獄零巻』表紙の煉獄は、月夜にひとり物憂げな表情でうつむきながら日輪刀に手をかけている。幼さが残る顔つきと成長途中の体つきは、頼りがいのある「20歳の煉獄さん」とは違って痛々しさすらあった。しかし、「柱」にのぼりつめていく中で、あの強く優しい煉獄杏寿郎へと、彼は成長していくのだ。寂しい心のままに、父の背中を追い、弟の未来を思い、母との約束を胸に「炎柱らしい」表情へと変わっていった。

◆「煉獄ロス」をなぐさめたのは?

 魘夢との戦闘後、今度は上弦の参・猗窩座(あかざ)との死闘が始まる。煉獄の険しい表情が増えていく。そして、すでにわれわれが知っている通り、この戦いは悲劇で幕を閉じる。「劇場版・無限列車編」が公開された直後には、映画を見たファンの口からは「煉獄ロス」がつぶやかれた。

 しかし、2021年2月14日にこの「煉獄ロス」をなぐさめる出来事があった。「キメツ学園・バレンタイン編」の放送である。この作品では現代の「中高一貫校」を舞台に、煉獄杏寿郎は「煉獄先生」として登場する。現代を生きる「煉獄先生」のビジュアルは、ファンを改めて魅了したが、何よりも特徴的だったのは“眉毛の角度”だった。

◆“下がり眉”の煉獄先生

「キメツ学園・バレンタイン編」では、どうしてもバレンタインにチョコレートをもらいたい、生徒の我妻善逸(あがつま・ぜんいつ)が、煉獄先生にアドバイスを求めに行く場面が描かれている。善逸のおバカな質問に煉獄先生はどんなふうに答えてあげるのだろうかと、ファンの期待は高まった。

 そして、呼び止められて、「モテるために気をつけていること?」と、不思議そうに問い直した煉獄先生は、これまでにないほど柔らかい表情をしていた。鬼との戦いでは、見たこともないような煉獄杏寿郎の“下がり眉”。

 善逸のためにアゴに手をあてて、自分がチョコレートをもらった理由を真剣に考える煉獄先生は、あの時の「炎柱・煉獄杏寿郎」とは違い、眉間にシワを寄せることもなく「下がり眉」のキョトンとした表情のままだった。この「キメツ学園」での彼の愛らしい表情は、より新鮮な驚きと喜びをファンに与えた。

◆あふれる煉獄杏寿郎の魅力

 幼少期・少年時代の煉獄も、劇場版で炎柱としての責務を全うした煉獄も、どれも物悲しさを感じさせるものが多かったため、「キメツ学園」の煉獄先生の表情の“可愛らしさ”はファンの心をほっとさせた。

 しかし、アニメ「無限列車編」では、この後も厳しい戦いが続く。われわれは彼の戦いを見届けなくてはならない。アニメのエンディングでは炭治郎たちの先頭を歩くいつもの明るい煉獄の姿、幸せだった頃の煉獄家が映し出される。そして、なにより本編で、戦い切った煉獄杏寿郎のあの最後の笑顔を、アニメ「無限列車編」ではしっかりと目に焼き付けたい。

(文/植朗子)

【植 朗子】
1977年和歌山県新宮市生まれ。神戸大学国際文化学研究推進センター協力研究員。大阪市立大学文学部国語・国文学科卒。大阪市立大学大学院文学研究科前期博士課程修了。神戸大学大学院国際文化学研究科後期博士課程修了。博士(学術)。専門は伝承文学、神話学、ドイツ民俗学。著書に『「ドイツ伝説集」のコスモロジー -配列・エレメント・モティーフ-』(鳥影社)、共著に『はじまりが見える世界の神話』(創元社)、『「神話」を近現代に問う』(勉誠出版)など

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  • 日刊SPA!

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