「マッチングアプリは25個以上やってる」婚活にのめりこんだ女が思いついた、危険な最終手段

『嫉妬こそ生きる力だ』

ある作家は、そんな名言を残した。

でも、常に上を目指して戦う東京の女たちに、そんな綺麗事は通用しない。

”嫉妬”。

果てしなくどす黒い感情は、女たちを思いもよらぬところまで突き動かす。

ときに、制御不能な域にまで…。

静かに蠢きはじめる、女の狂気。

覗き見する覚悟は、できましたか?

▶前回:女・28歳が生活を切り詰め、ビットコインを売却してまで年下男を抱く理由

偽る女


「どんな人がタイプなの?」

…思い切って聞いた私に対し、同期の智司はバッサリとこう答えた。

「タイプとかないけど、同じ慶應の子としか付き合ったことないんだよね」

質問に答えてくれていない上に、慶應出身ではない私に対し、それはあまりに冷酷すぎる回答だった。私の気持ちと学歴を知っていて、そう答えたのだろうか。

真意はわからないが、それだけならまだよかった。

あの女が、私を最高に苛立たせる。

「智司って、ほんと愛校心強いよね。私、そういうの全然ないわ」

玲奈は、私が必死になっても手にできなかった“慶應卒”という経歴をぶら下げ、涼しげな顔でワインをあおる。斜に構えたその感じが、憎たらしくてたまらない。

…でも、あるとき気がついた。

どこの大学を卒業したか、普段それを証明することなんてない。就活のときでさえ、内定がでるまで卒業証明書の提出は求められなかった。

それ以来、私はときおり自分を慶應卒と偽るようになった。

…それは、面白いほどにバレなかった。

そして、ドツボにハマった。

“慶應”に対し異様な執着を見せる女が考える、恐ろしい人生計画



久々のオフィスには案外多くの社員がいて、少しずつ活気が戻りつつある感じがした。

その活気の中に智司がいたことは、出社してすぐに気がついた。

― 三沢智司。

この大手日系企業の同期で、私が密かに想っている男だ。

「お、久々じゃん。今日一緒にサクッと夕飯食べて帰ろうぜ」

私に気がついた智司は、すぐに駆け寄ってきてそんな提案をしてくれた。

「いいね、いこいこ!」

けれど、彼は別に私に気があるから誘ってくれているわけじゃない。誰にでもフランクで、分け隔てないだけなのだ。

実際、<智司:先にここで飲んでる>と送られてきたLINEのURLの店に行くと、私が嫌いな女もそこにいた。


― 同期の玲奈。

美しく華奢で、頭の回転も速い玲奈は、智司と同じ慶應出身。学生時代から交友があるそうだ。

「玲奈も今日出社してたんだ~」
「うん、なんか久々だね」

好きな男と、嫌いな女。

なんでもない風を装いながら、その間に割って入る。そして、私は席につき、最初のドリンクをメニューから選びはじめた。

「智司、来週サークルのOB会行く?」

…それでもなお、2人にしかわからない会話は続く。メニューを選んでいる私はまだ本格的には会話に入れないから、それが許せないというわけじゃない。でも、どうしてもその話題には敏感になってしまう。

「あ~、三田祭のあとの現役生も来るやつか。どうしようかな~。てかさ!!そんなことより、もうすぐ俺ら入社4年目だぜ」

けれど、私がシャンパンのグラスをオーダーし終わるタイミングで、智司は思いついたように話題を変えた。

それは、偶然だったのか、彼の優しさだったか。

「確かにね~。私、来年はマーケティング部に配属されたいな~」

玲奈はワイングラスをくるくると回しながら、答えた。

うちの会社では、入社してから3年は営業部に配属されるが、4年目に別の部署に本配属される。来年4年目に突入する私たちは、誰がどの部署を希望しているか、どこの部署が楽しそうか、ブラックらしいか、そんな話題で持ち切りなのだ。

「俺は、新しい仕事覚えたくないし、営業のままが気楽でいいな~」
「本当に智司って、昔から変化を嫌うタイプよね」

私にもよくわかる話題に変わったものの、10代から時間を共有する2人の間には、2人だけにしかわからない空気感が漂う。

…それに、私も入社前からマーケティング部への配属を希望している。

なんとなく感じる居心地の悪さと、来年度への一抹の不安。それらを掻き消そうとしたのか、私は無意識のうちにシャンパンを口に運ぶペースを速めてしまう。

そして、つい聞いてしまったのだ。

女が“慶應”というワードに触発され、モンスターと化していく…

「智司って、どんな人がタイプなの?」

それなりに場が盛り上がって、3人とも酔いが回っていることを確認してから、聞いた。

「タイプとかないけど、同じ慶應の子としか付き合ったことないんだよね」

そのせいだったのか。智司の回答は的を得ない上に私を傷つける。

「智司って、ほんと愛校心強いよね。私、そういうの全然ないわ」

そしてその傷に、玲奈は塩を擦り込む。

「いや、結果的にそうだったっていう話だけどね」



― 慶應義塾大学。

そのワードは、私のコンプレックスを刺激する。

私は慶應に憧れ、浪人までした。ただただ響きが格好いいからという世俗的な理由だったけれど、それは私の原動力となった。けれど、商学部の補欠Cに引っ掛かったものの、あえなく不合格。結局、現役でも合格した法政大学に進学したのだ。

大学時代は慶應への憧れなんてすっかり忘れて青春を謳歌していた。

…でも、この日系大手企業に入社してから、古傷がずきずきと痛みだした。当時の憧れが嫉妬へと徐々に姿を変えたのだ。

男女問わず、会社で出会う素敵な人はだいたい慶應出身。私が志願するマーケティング部も、慶應出身が多い。

ルックス。コミュニケーション能力。頭脳。人脈。華やかさ…。それらの総合得点が、他のどの大学よりも群を抜いて高い。

私はどれをとっても、彼らに敵わないのだ。

…そして、この嫉妬は思いもよらぬ形で爆発した。



「ねえ、智司!!私、マーケティング部配属だったよ!今日、ちゃんとお祝いしてね」

来年度の配属発表がされた日、オフィスの隅っこで、智司に報告する玲奈の声が聞こえてしまったのだ。

しかも、その声は甘ったるい。その声色に…女の勘が働いた。しかも、“今日お祝いして”という可愛らしいお願い。

少し前から嫌な噂は耳に入っていたけれど、その話が一気に現実味を帯びる。どうしてもそれを信じたくなくて、ひとりトイレへと駆け込んだ。

必死に気持ちを落ち着かせようにも、玲奈の声は耳にこびりついて取れない。

私の本配属はカスタマーサービス部だった。まったく希望していなかった部署。ただでさえ落ち込んでいたところに、玲奈はまたもや追い打ちをかける。

あとから聞いた話だが、やはりマーケティング部は慶應派閥で、慶應出身者が優遇されたらしい。

ふつふつと悔しさが込み上げた。

自分の実力不足、努力不足で掴めなかったものが、8年越しに私を苦しめる。

やるせない気持ちの行き場を、必死に探して、そして…。

私は、決めた。

形勢逆転


私は婚活を始めた。

色んなことが、本気で悔しかったから。玲奈に智司を取られたことも、希望する部署にいけなかったことも。本当に悔しくてたまらなかった。

…けれど、それは自分の実力不足。

大学受験だって、もっと本気になっていれば慶應に受かったかもしれない。慶應に受かって、玲奈より早く自分からアプローチしていたら、智司のことだって結果は変わっていたかもしれない。

…だから、最後に人生を大逆転できる結婚に、私は賭けることにしたのだ。

でも、そこらへんに転がっているありきたりな男じゃダメ。

最後にオセロの四隅を陣取って、盤上の黒石を一気に純白に染め上げるような、一発逆転と呼ぶにふさわしい男じゃなきゃならない。

ひとつの黒石も、残すことを許さない。

「あ、はじめまして」

今日はアプリで出会った、慶應卒の経営者・38歳とアポだ。

「“玲奈”ちゃん?はじめまして」

私は玲奈、慶應卒の26歳。大手日系企業でマーケティングの仕事をしている。

“慶應卒”で、華やかな仕事をやりがいをもってやっている。そんな肩書とプロフィールは、ハイスペックな男性からウケがいい。

…それに、玲奈と名乗ると、なんだかイイ女になった気分になる。嫌いな女のはずなのに、自分でも不思議だ。

名前も学歴も、本当のことは付き合ってから明かせばいい。まずは、彼らの求める土俵にたたないとはじまらない。

最初は猫を被るくらい、みんなやってることでしょ?

「慶應出身でいらっしゃるんですよね?」
「うん、僕は経済学部だったよ。玲奈ちゃんも慶應だよね?いや~賢い女の子は好きだから嬉しいよ。しかも、同じ慶應って聞くと親近感わくね」
「はい、なんか安心しますよね」

歳が近いと、この可愛い嘘がバレてしまうリスクがあがるけれど、一回りも離れていれば共通の知り合いもいない。

相手が卒業後にできたサークルとゼミに属していたと言えば、疑われることもない。

それに、万が一相手が嫌な奴だったら、思いっきり嫌味を言ってその場を去ればいい。日頃のストレスをぶつけるように、思いっきり。

なにかあっても大丈夫。だって、私は“玲奈”だから。

なぜだか2回目のデートに繋がることは少ないけれど、私はめげない。絶対に人生を逆転させてみせる。

スマホには、25個以上のマッチングアプリをインストールした。年収2,000万以上。身長175cm以上。学歴早慶以上。30代後半。私が求める条件の男性の母数はそう多くないから、片っ端から探しだすと決めたのだ。

私は本気なのだ。

絶対に出会ってみせる。私の人生を逆転させてくれる男に。そして、ものにしてみせる。

智司と本物の玲奈を見返してやるのだ。

…絶対に。


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今まで独身を謳歌していたのに、母性に目覚めてしまった38歳・女。女の脳裏に恐ろしい考えがよぎり…。

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