【対談】星翔太×星龍太。兄弟で出場したフットサルW杯と日本フットサルの未来

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 フットサル日本代表が2012年以来、2大会ぶりに出場したFIFAフットサルワールドカップ リトアニア2021が10月3日に閉幕した。この大会に日本フットサル史上初の兄弟での出場を果たした選手たちがいる。ともにFリーグ・名古屋オーシャンズでプレーする星翔太、龍太だ。W杯初戦のアンゴラ戦では兄の翔太のパスを受けた弟の龍太がゴールを決め、試合終了間際には翔太が反転シュートでダメ押しの8点目を奪った。W杯に2度出場し、プレーや発言で存在感を示してきた翔太と、絶対王者と称され負けることが許されない名古屋を長年にわたりキャプテンとして支える龍太。プレースタイルも性格も対照的な2人に、兄弟でのW杯出場や今後の日本フットサルについて話を聞いた。



■それぞれの立場で見たW杯


―――改めて、W杯を振り返っての感想を教えてください。

星翔太(以下、翔太) 歴史を作れなかったという悔しさもありますが、2大会ぶりに出場し、最低限ベスト16に進出をしなくてはいけない状況のなかで進出できたことは良かったと思います。また、世界の大国であるスペイン、ブラジルを相手にいい試合、勝ちに迫る試合ができました。龍太はどう?

星龍太(以下、龍太) 名古屋以外では国際大会を戦ったことがなかったので初めてのW杯だったけど、思ったより緊張しなかったというのが最初の印象でした。ただ、改めて振り返ってみると緊張はなかったけどプレッシャーを感じていたんだな、と。終わったあとの疲労の抜け方がまったく違うし、頭の回転も遅くなっていて、日の丸を背負うってこういうことなんだと実感しましたね。

翔太 それは試合が終わるたびに考えたの?

龍太 いや、全部終わってから。自分たちの試合を見て冷静に振り返ると、「もっと動けたよな」、「こんなに疲れたっけ?」という感じがあった。連戦ではあったけど、食事も睡眠も気をつけていたのに、それでも本能でプレッシャーを感じていたのかな、って。

―――日本代表は世界の強豪を追う側の立場ですが、その強豪であるスペインにもブラジルにも、一時はリードを奪いました。そういったとき、相手はどのような状態でしたか?

翔太 相手も余裕はなかったと思います。表情やベンチでの振る舞い、あと僕はある程度言葉も分かるので、どういったコミュニケーションを取っているか。聞いている感じだと相当ぎくしゃくしていると感じましたね。彼らですら焦るし、日本人と一緒だ、同じ人間だ、って。

―――そういった状況が見えることで自信につながりましたか?

翔太 僕はやるべきことを変えずに冷静に見ることができましたが、チーム全体でそれを読み取って、「自分たちがもっとどんどん攻めよう」となるほど余裕があるかといえばどうだったんでしょう。僕は2回目のW杯だったけど、龍太はまた感じ方が違ったんじゃないかな。

龍太 そうですね。チームとして今までやってきたこと、やるべきことにフォーカスをしていました。どんな得点状況であっても、これまで積み重ねてきたことを出すという意識でした。相手の余裕がないかどうかまでは見えていなかったし。でも、もちろん試合ごとに違いますが、チーム全体としてはやはりプレッシャーを感じていたのでは、と感じる部分があります。

―――ブルーノ・ガルシア前監督は、2016年のW杯予選敗退や、コロナ禍でAFCフットサル選手権が中止となったことにより、国際試合の経験からしばらく離れてしまっていた影響が大きかった、と話していました。選手の立場からしてもその影響は大きかったですか?

翔太 そうですね。2016年にW杯に出場していたら、今回の代表には僕と同世代の選手はほぼ選ばれなかったんじゃないかと思います。僕も含め、(皆本)晃(立川・府中アスレティックFC)やパッシャン(西谷良介/名古屋オーシャンズ)くらいまでは呼ばれなくてもおかしくなかった、と。そうするとまた違うチームづくりで2大会目の選手もあと4、5人いたはずですし、今回の初戦でみんなが感じたプレッシャーはもっと少なく、冷静に試合に入ることができたのではないかと思います。経験があると、自分の力を出し切るだけでなくプラスアルファで「俺はもっとこういうことができる」、「この時間は任せてくれ」など、コミュニケーションの質が変わってくるんですよね。たられば論ではありますが、僕が2回目で感じているものをより多くの選手が感じられていたら、だいぶ余裕が出た可能性はあります。

―――9年ぶりのW杯で世界を体感して、レベルの変化はどう感じましたか?

翔太 世界が後退したとは思わないんですが……。スピードや強度は上がったけど、戦術や個の力はもしかしたら以前のほうが強かったのではないか、と感じました。一方で、日本は強度やスピードは上がったけど、戦術面で進んではいるもののそれをピッチで出せない印象を受けました。どれが正解という決まりはもちろんありませんが、ピッチの中でFPの4人の解決策が瞬間的に一致するかしないか、という差はあったと思います。ディフェンスの強度は間違いなく世界に追いついたと思いますが、攻撃の構築やフィニッシュにかける枚数などは、当時と距離感が変わっていないと感じています。

龍太 僕は今大会しか体感していないから比べるものがないけど、本大会直前の親善試合と比べると相手のギア、スイッチの入れ方が変わったと感じました。親善試合はメンバーが全員出てくるわけではないし、セットの構成も変わります。100パーセントの力で戦うこともありません。親善試合では負けが続いたなかでも少しずつ自分たちのやりたいこと、やるべきことが見えてきていましたが、本戦に入ると自分たちもさらにもうひとつ上のギアを入れないといけないと感じましたね。上げないと強度の部分で負けてしまうし、逆に言えば上げればある程度はついていけるようになったので、アジアでもハードワークをすれば戦えるところまでは進めたのかな、と。昔を知らない分、僕たちが上がったのか相手の進みが遅いのかは分からないけど、スコアの差で見ると少しずつ縮まっているのではないかな、と思います。ただ、少しだとしてもまだ差はあると感じています。

■兄弟でのW杯出場、そしてゴール。互いが互いに感じるものとは



―――アンゴラ戦での兄弟でのゴールについて、ブルーノ前監督は「星家にとって代々語り継がれる一日となった」と話していましたが、その一日を振り返ってどんな気持ちでしたか?

翔太 親善試合でも一緒のセットで出ていたので、ピッチに立った瞬間もそこまで特別感はありませんでした。どちらかというとそこに向かうまでに僕と龍太がペアのようになっていたので、準備ができていたかな、と。兄弟でどうやってチームに貢献するか、話はしやすい環境だったと思います。とは言え、試合は一戦一戦が違うので、僕は緊張はしないけど、僕が組んだセットの龍太も含めた3人には不安な気持ちがあるんじゃないかと思っていて、「大丈夫かな」、「うまく試合に入れるかな」と感じてはいました。

龍太 セットでこうしていこうと話はしたけど、そこまで2人で「W杯に立ててよかったね!」って話をするわけじゃないからね(笑)。もちろん2人で立ててよかったけど、W杯が終わったあとに改めて俯瞰して実感できたと思います。戦っている間はそういったことは考えずに、ただ勝ちたいという気持ちでした。もちろん同じ試合で2人ともゴールをしたことや翔太のパスを受けてゴールをしたことはすごくうれしかったし、「持ってるな」というか(笑)。

翔太 はははは(笑)

龍太 2人で代表に入ってゴールを決められたというエピソードは周りにも話しやすいので「持ってる」と思いますよ。翔太が大会中の取材で「俺がピヴォなんだから俺にくれよ」って言っていて、それもごもっともだな、とは思いましたけどね(笑)。

―――お2人はお互いのことをどういったパーソナリティを持ち、どのようなタイプの選手だと思っていますか?

翔太 龍太は元々寡黙ですが、小さいときは輪の中心にいたんですよね。大きくなるにつれて、僕がいるが故にやりづらいこともあったんじゃないかとは感じています。僕はどちらかというとコミュニケーションが強めだけど、龍太は包容力があるというか相手を尊重するようなタイプで人に対しての温かさを感じます。あとはゲームが大好きです(笑)。もしかしたらゲーム配信でも始めるんじゃないかって、ちょっと心配になるくらいのゲーム好き。それからお互いに犬が好きで、龍太は犬好きが高じてブランドを立ち上げたり、飼い犬とのコミュニケーションのなかでケガをしたり(笑)。まじめで温かいんですが、おっちょこちょいな面もあって、どんな状況になろうとやっぱりかわいい弟ではありますね。ただ、選手として学ぶ面もあるので、尊敬できる存在です。

―――お隣で聞いていていかがですか?

龍太 分析されるのって嫌だな、と思いました(笑)。でも、当たっていますね。僕は小さいころは兄にくっついていて、2歳差だから中学、高校でも常に一緒にいた分、翔太がどういった性格だと考えたことはありませんでした。ただ、自分たちが成長してからは、翔太のコミュニケーション能力が高いことを感じました。行動力もあるし、攻撃的なプレースタイルから「狂犬」とも呼ばれたのかな、と。僕の持論ですが、ピヴォって性格も尖っているような人がやるポジションだと思うんです。後ろの選手は穏やかというか、保守的なタイプ。ピヴォは特殊な選手がやるべきなんだな、って。

翔太 え? 俺って特殊?

龍太 うん、特殊。だけど、翔太がスペインでプレーしてから帰ってきたときにプレースタイルが変わっていて、攻撃的なだけじゃなく効率化や戦術理解がすごく良くなったと感じました。あとは翔太が名古屋に来てから感じたのは、後輩をご飯に連れていくなど面倒見がいいんだな、ということです。年齢が10歳以上離れている後輩とも積極的にコミュニケーションを取っていて、こういうタイプの選手がいるとチームも円滑に回るんですよね。そういった面は同じチームになってみないと分からないので、頼りになると思っています。

―――翔太選手は2021ー22シーズンを持って現役引退を表明されています。龍太選手は翔太選手から引退後の具体的なプランを聞くことはありますか?

龍太 翔太がインタビューなどで話していることをざっくりと聞いているから分かっていますが、具体的には聞いていないですね。

翔太 僕、次の仕事先が決まっているから引退すると思われているようなんですね。でも、一切決まっていません(笑)。ただ、フットサル界の発展に貢献したいという思いだけは明確です。強化ももちろんですが、選手の価値向上やフットサルでどのように稼いでいくか。必ずしもプロ化することが正解ではないとは思いますが、では「選手としてプロじゃないのか」と言われれば全員がプロです。今、日本が置かれている状況や取り組まなければいけないことはきちんと見ていかなければいけないという気持ちがあったので、じゃあ引退するって決めてしまおう、と。ただ、引退を決めたからといって中途半端に取り組んで、W杯の予選で敗退するなんてことは絶対に避けたかったので、今までは代表にフォーカスした活動をしてきました。前に進む覚悟を見せるために、まずはピッチの中での表現に取り組んできましたが、これからの半年間はピッチの中だけでなく外でも着実に進んでいくために仲間を集めていかなくてはいけないと思っています。だからこそ帰国後の隔離期間は、今後どうしていくか頭を悩ませていましたね。これからは行動に移していきたいと思います。

■浮き彫りになった課題――2人が描く日本フットサルの未来は


―――今回W杯で得た経験をどのように生かしていきたいですか?

龍太 僕が思うのは、名古屋から多くの選手が日本代表に選出されましたし、外国籍選手もレベルが高いので、他のチームから「名古屋に勝てば、名古屋のようなチームを目指せば、より日本代表に近づく」ということがさらに明確化されたということです。なので、僕たちはこれからも勝たなくてはいけないし、勝つことで競争意識が増して日本全体のレベルが上がっていくようにしていきたい。やること自体は今までと変わらないかもしれませんが、より1試合の重みを感じて戦うことでそれを示していきたいです。

翔太 僕は選手としてはあと半年ですし、日本代表も今回のW杯が最後でした。プレーで伝えるのももちろんですが、今回の大会を見た選手たちが今後どういった意識を持ってフットサルに向き合うかを再開後の試合では注目してほしいな、と思います。今回は代表には入っていないけど強い気持ちを持っている選手も多くいるので、そういったところを感じてもらえるようにプレーをしていきたいし、プレーをしてほしいと思います。えらそうなことを言いたいわけではなく、W杯で大会を通して1勝3敗という結果しか残せていないことは覆らない事実であり、代表選手が天狗になる時間は一瞬たりともありません。ただ、日本代表には日本のフットサルをより良くしていこうという選手しかいないので、きっとそういった選手たちがリーグを引っ張っていってくれると思います。名古屋に関しては龍太も言ったように代表に多くの選手が入ったことでいい物差しになりますよね。他のチームは死に物狂いで向かってきてくれると思いますし、僕たちはここで得た経験プラスいつもの強さをしっかりとピッチで発揮したいです。そういった姿勢がまたメディアや中継を通して多くの人に伝わっていけばいいな、と思っています。フットサルの魅力は、うまくやることだけではない。ブラジル戦で上手なプレーを見せたから多くの方から「感動した」と言ってもらえたわけではなく、どれだけ真剣に取り組んでいるか、魂を込めて戦っている姿勢が伝わったからだと思っています。そういった試合をリーグ戦の1試合、1試合で出して、よりいいリーグにしていきたいですね。

―――ブラジル戦の直後、翔太選手からは「若手がもっと行動してほしい」という発言もありました。タイミングとしてはだいぶ早い段階で触れる内容だったと思いますが、そういった思いはずっと心にあり、最後の試合となったら言いたいという思いだったのでしょうか?

翔太 あの発言はあの場で自然に出てきましたね。「これで代表引退となりますが、どういった気持ちですか?」という質問だったと思いますが、僕にとっては僕個人が最後の試合かどうかより、日本代表のエンブレムをつけて戦うことがどういったものかを多くの人に知ってもらうことが大事だと思っています。本当にこれから歴史を変えていきたいと思っているけど、それは次の世代に託すしかありません。もちろん、他の選手にそういった覚悟がないとか、自分はもう何もやらないとか言うつもりはなく、「俺は本当に歴史を作りたい」という気持ちから出たものでした。

―――では、今後の日本フットサルの発展や、フットサルを文化として定着させていくためにはどういったことが必要になると思いますか?

翔太 壮大なテーマですが、シンプルな面もあって、他の娯楽とどれだけで戦えるか、だと思うんです。僕たちはスポーツ同士で野球界はどう、サッカー界はどう、と時間を奪い合いがち。でも、他の娯楽、テーマパークや映画、遊ぶ場所に使っている時間をいかにスポーツに使ってもらうかだと思うので、たとえば同じアリーナ競技で協力して、他の娯楽からスポーツへ時間を使ってもらえるような働きかけが最優先なのかな、と。自国がW杯で敗退しても、その後の大会を見続けるってそこまで多くの人がする行動ではないと思うんです。選手や指導者は好きだから見るけど、それは僕らの中の文化であって海外と同じように一般の方たちにもそれが浸透するのはきっと簡単なことではありません。だからこそ、僕らが今できること、やらなくてはならないことはスポーツ界で力を合わせて新しい価値を見出していくこと。今回、特に強い思いを持っている指導者や選手が多くいることが見えたので、そういう人たちが若い世代に伝えていくことが助けになるんじゃないかと思います。それぞれピッチ内外でやることは違いますが、できることから始めていけばいつか「文化になった」と言える時代がくるのでは、と思っています。

龍太 全部翔太に言われたわ(笑)。でも本当に翔太の言うとおり、一気に変えることはできないし、根本的なことを変えるってすごく難しいと思うんですよね。方法は色々ある中で、まずは今できることをやっていかないといけないと思います。

翔太 言い訳を探したらいけないと思うんです。お金がないから、時間がないから、ではなく、そのなかでもできることをやる。少なからず注目を浴びているなかで、盛り上げていけるようにお互い頑張っていきたいですね。

龍太 そうですね。頑張っていきましょう。

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