マスクで息苦しい人は、きほんの呼吸ができてない。不調を治す呼吸の基礎
コロナ禍でマスクを着けている時間が増えて、「呼吸がしづらい」「息苦しい」「口でハアハア呼吸をしてしまう」という人は多いでしょう。
でも、「ふだんからしっかり息が吐けている人は、マスクをしていてもさほど呼吸が苦しくなることはありません」と語るのは、これまでNBAや大リーグなどのトップアスリートを数多く指導してきた、アスレティック・トレーナーの大貫崇(おおぬき・たかし)さんです。
大貫さんは、先ごろ刊行した『疲れない体と心をつくる きほんの呼吸』の中で、人間が本来していたはずの自然な呼吸=「きほんの呼吸」を取り戻すメカニズムと、そのための方法をイラスト付きで紹介しています。
◆多くの人が「息を吸いすぎ、しっかり吐けてない」
実は現代人の多くが「呼吸数が多い」「息を吸う時間が長い」などの理由で、「息を吸いすぎていて、しっかり吐ききれていない」という共通の問題を抱えている…と、大貫さんは言います。
「しっかり息を吐けていない人は、マスクをして二酸化炭素がたまる状態を息苦しく感じて、呼吸数が増えたり、口呼吸になったりして交感神経が優位になります。
すると、心身を休ませる副交感神経は抑制され、いつも緊張している状態に。それにより、不眠やイライラ、うつ、頭痛、便秘、冷えなど、さまざまな心身の不調を引き起こしてしまうのです」(大貫さん・以下同)
◆NGの呼吸…吐いたらすぐ吸いたくなる「NGの呼吸」
・口呼吸をしている
・肩で呼吸をしている
・助骨が浮いている(吸いすぎ)
・お腹だけへこんでいて、吸うとお腹が前方だけに膨らむ
◆OKの呼吸…軽く息を吸ってゆっくり吐ける
・鼻呼吸ができている
・助骨からお腹にかけてのラインが平らである
・肩や首に負担をかけていない(横隔膜をしっかり使えている)
・吸うと胸郭とお腹が全体的に膨らむ
◆口呼吸は免疫力を低下させる
さらに、口呼吸はそれ自体が体の免疫力を低下させる悪影響を及ぼすそうです。
「本来、鼻にはほこりやウイルスなどの侵入を防御するフィルター作用がありますが、口呼吸ではその作用が働かず、風邪や病気にかかりやすくなってしまいます。
また、鼻腔からは一酸化窒素が分泌されており、血管拡張作用や、分泌系・免疫系・生殖機能の向上などたくさんの役割を果たしています。ところが、口呼吸ではこの一酸化窒素が吸入できず、血管拡張作業が働かないせいで心臓病や脳卒中のリスクも高まると考えられているのです」
◆正しい呼吸は、横隔膜が上下に動く
では、どうすればしっかり息を吐ききる呼吸ができるようになるのでしょうか。
ポイントとなるのは、「横隔膜を正しく動かす」ことです。
「肺には筋肉がないため、横隔膜などの呼吸筋の力を借りて動いています。息を吸うと横隔膜が収縮して下がり、肺に空気が流れ込む。逆に息を吐くと横隔膜が上がり、肺が押されて空気が出ていく。つまり、横隔膜が上下に動くのが正常な呼吸です。
ところが、現代のストレス社会では、緊張状態から息を吸って横隔膜が下がったままの人が大勢います。そのままでは呼吸ができないので、胸を反らす、肩や鎖骨を上げる、口を開けっぱなしにするなど、別の手段で肺に空気を入れることになる。すると、反り腰や鳩胸、いかり肩、首が前に出るといった無理な姿勢となって体に負担をかけ、腰痛や肩こりなどの痛みにもつながるのです」
つまり、「きほんの呼吸」を取り戻すことは、自律神経を整えて心身の不調を改善するだけでなく、呼吸時の姿勢や体の動きが変わることで、腰痛や肩こり、ひざ痛といった症状も解消できるのです。
そこで、この「きほんの呼吸」を身につけるために、大貫崇さんの近著『疲れない体と心をつくる きほんの呼吸』から解説してみましょう。
◆きほんの呼吸、最初のステップ「吸って、吐く」
1. ひざを立てて寝た状態で、胸とおへその位置に手を当て、鼻の奥から軽く息を吸う。
2.肋骨が上がっている状態から、 胸とお腹の手が同じだけ下がる ように鼻から息を吐く
3.次に、胸とお腹に置いた手が同時に同じ高さまで上がってくるように息を吸う。今度は長めに(8~10秒程度)吐いて、3秒ほど息を止める。
苦しくなってきたら、ゆっくりと優しく息を吸って。すると自然に胸とお腹が同時に膨らむ。
(背中が反っていないか注意)
4.1〜3を繰り返す。息を吐いたときに胸郭全体がしぼんだ感じがしたり、胸骨が平らになってきたら、ちゃんと腹横筋と内腹斜筋を使って吐けている証拠。これを意識すると、吸うときに胸とお腹が同時に膨らみ、吐くときは同時にしぼむようになる。
◆もっといい呼吸をするためには
上で紹介したのは、きほんの呼吸のステップ1。「吸って、吐く」だけでも、こんなノウハウがあるなんて!
『疲れない体と心をつくる きほんの呼吸』の中では、ステップ2、ステップ3、さらに呼吸に必要な筋肉のストレッチや、呼吸と運動を連動させるためのエクササイズ、イライラやあがり症などのシーン別呼吸メソッドも紹介されています。
何気なくやっている「呼吸」は、こんなに奥が深いんですね。いつも体や心が疲れている人は、呼吸から見直してみたらどうでしょうか。
<大貫崇 文/垣内 栄 イラスト/はらゆうこ>
【大貫崇】
1980年、神奈川県生まれ。BP&CO.代表、元PRI Japan代表社員、Improve KYOTO アスレティックトレーナー。フロリダ大学大学院で応用運動生理学を修了後、「アスレティックトレーナー(ATC)」としてテキサス・レンジャース、NBA(D‐League)、アリゾナ・ダイヤモンドバックスを経て、2013年に帰国。2016年にPRT(Postural Restoration Trained)認定を受ける。現在、企業との呼吸に関する新規事業開発や呼吸コンサルティングを行うほか、大阪大学大学院医学系研究科健康スポーツ科学講座スポーツ医学教室特任研究員も務める。