進学校から二流大学に進んだ女。コンプレックスをかき立てる、自分より「上」の女友達からのメールとは

高い偏差値を取って、いい大学へ進学する。

それは、この東京で成功するための最も安定したルートだ。

…あなたが、男である限り。

結婚や出産などさまざまな要因で人生を左右される女の人生では、高偏差値や高学歴は武器になることもあれば、枷になることもある。

幸福と苦悩。成功と失敗。正解と不正解。そして、勝利と敗北。

”偏差値”という呪いに囚われた女たちは、学生時代を終えて大人になった今も…もがき続けているのだ。

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File6. 紗矢(31) 途中まで高偏差値だったオンナ


「ママ見てー!あっち、キラキラしていてキレイだねー!」

紗矢は、保育園のお迎えからの帰り道を娘と一緒に歩いていた。

11月も半ば、朝晩も冷え込むようになり、そろそろ厚手のコートを引っ張り出す頃だ。

ハロウィンも終わり、街はすっかりクリスマスモード。

紗矢が暮らす街では、毎年この時期になると一部の街路樹にイルミネーションが施され、娘はそれを見ては毎日のようにはしゃぐのだった。

3歳になったばかりの娘はまだまだ手がかかり、毎日子育てに追われている。

しかし、このようにあちこち歩いては発見したことを教えてくれる娘の姿は、たまらなく愛おしいものだ。

― 私の人生、イマイチだった時もあったけど…。今ではちゃんと仕事もしているし、結婚もしたし、子供も産んだ。誰にも何も文句を言われる筋合いはないわ。誰にも引けを取らないくらい、私は幸せ。

大学卒業後、志望していたアパレル会社にデザイナーとして就職。27歳の時に同僚と結婚し、翌年には娘を出産。

ささやかながら充実した日々を送っている。紗矢は、やっと自分の人生に自信が持てるようになってきた気がしていた。

なぜ、紗矢が自分の人生に自信が持てなかったのか…。

それには、ある理由があった。

毒親からの容赦ない言葉に、紗矢の心は…

たまたま進学校に入ったけれど


「紗矢!せっかく進学校に進んだのに、大学行かないなんて恥ずかしいわよ。一体何のために高校に通わせていると思っているの!」

高校3年間、うんざりするくらい何度も母親に言われた言葉だ。

中学時代に成績上位だった紗矢は、担任教師の勧めもあり、偏差値65程度の「ほどよい進学校」に進んだ。

しかし、もともと紗矢はデザインや美術への興味が深かったのだ。高校入学以降は、主要科目の勉強を頑張る理由を失ってしまった。

― デザインや美術の道に進みたい以上、早くそっちの道に進んだ方がいいし、大学は別に行かなくてもいいか。

そう考え、専門学校に通うことを心に決めていたのだ。

しかし…。

「紗矢!進学率100%の高校から専門学校だなんて、お母さん恥ずかしいわよ!大学くらい行きなさい!」

案の定、母親からの大反対に遭ってしまう。

母親からの脅迫に近いプレッシャーと、自分の希望とのギャップが埋められず、受験勉強に全くと言っていいほど身が入らないまま迎えた高校3年の冬。

渋々受験した結果、ようやく引っかかったのはある2流大学だった。


大学に入学し、新入生の自己紹介時に交わされる「出身校はどこ?」という会話。

紗矢が自分の出身高校を答えると、決まってこう言われた。

「え!?紗矢ちゃん頭いいんだね!…って、何でうちの大学なの?」

― やっぱり、そうよね…。みんなそう思うんだわ…。

進学した大学には、自分と同じ高校の出身者などいない。

そして両親からは、毎日のようにこう言われたのだった。

「あの高校からこんな大学だなんて、お母さん恥ずかしくて誰にも言えないわ。ちゃんと勉強すればもっと偏差値の高い大学に行けたはずなのに、あなたの人生ホント大失敗ね」

世間体を気にする母親から浴びせられた言葉の数々は、まるで鋭利なナイフのように何度も紗矢の心を傷つけていった。

その結果…。

紗矢は、周りとの些細なやりとりや言動にも「学歴コンプレックス」を敏感に感じるようになり、自己肯定感がどんどん低くなっていったのだった。



そんな「自己否定の塊」だった紗矢が、大学入学以降の自己否定からほんの少しだけ脱却できた出来事。

それは、就職活動だった。

かねてからの希望通り、紗矢はデザイン会社やアパレルへの就職を考えていた。

しかし、デザイン会社やアパレルは、募集人員が非常に少ないにもかかわらず、美大生をはじめ多くの学生からの応募が殺到する狭き門だ。

それでも、紗矢は諦めなかった。

― 在学中からデザインの勉強をすれば、内定を取れるかもしれない。自分のやりたい勉強を頑張ろう!

大学3年の春から、大学とデザイン学校とのダブルスクール生活となった。こんな夢は母親には否定されることが目に見えていたため、学費も自分で賄った。

その努力の甲斐あり、見事にアパレルメーカーへの内定を獲得したのだった。

希望の業界に就職し、就職と同時に実家を出て一人暮らしを始めた。

そして結婚、出産。

― これでいいんだ、私はちゃんと頑張っているんだから。

親の呪縛からも解かれ、少しずつありのままの自分の人生を肯定できるようになっていた…そう思っていた矢先。取引先との会議に出席した紗矢の前に、ある人物が現れた。

紗矢のコンプレックスを刺激する、ある人物との再会

取引先との会議という、日常の場に現れたある人物。

その人物とは、紗矢の高校の同級生で、大手総合商社に勤務する貴子だった。

「紗矢!久しぶりー!こんなところで会うなんて偶然だね!」

高校時代に戻ったかのように、貴子は屈託のない笑顔で明るく紗矢に声をかけてきた。

「あっ…、久しぶり!よろしくね」

通り一遍の挨拶をする紗矢。

しかし、紗矢は作り笑いを浮かべながらも、内心動揺が止まらない。

貴子は高校卒業後、一橋大学に現役合格した才媛。

勉強ができるだけではなく、目鼻立ちがはっきりした華やかな美人で、スポーツもできて性格もよく、何もかもが輝いている学校の中心的存在だった。

紗矢にとって貴子は、高校時代からの学歴コンプレックスを呼び起こす象徴とも言える存在だったのだ。

会議は順調に進み、予定通り1時間で終了。

しかし、会議中の紗矢はというと、頭の中は学生時代の嫌な思い出で一杯になってしまい、仕事の段取りなど二の次になってしまっていたのだ。

― 仕事で同級生に会っただけでこんなにも動揺するなんて、結局私は何も変われていなかったんだわ…。

「進学校出身なのに2流大学」という学歴コンプレックスを何ら克服していなかった自分に、紗矢は絶望したのだった。


貴子は、紗矢の仕事の担当となった。

紗矢の会社からすると、貴子が勤務する商社はクライアント先だ。

1ヶ月後に予定されている次の会議では、紗矢から新商品の説明を行い、貴子をはじめとした商社のメンバーがレビューを行うことになっている。

「あぁ、また貴子に1ヶ月後に会わないといけないのか…」

貴子は何ら悪いことはしていないのに、1人で勝手に鬱屈としてしまう。自己嫌悪のループにはまってしまった紗矢は、企画の準備もままならない状態が続いていた。



「〇〇商社との次の会議に向けて、企画の進捗状況を確認したい。今週中に僕とミーティングを設定してくれ」

こう上司から指示されて設定したミーティング当日。

「心ここにあらず」の状態が続き、企画作りに集中できないでいた紗矢の企画は、企画とは呼べないほどひどいものだった。

骨子すら定まっていない企画内容に、案の定、上司からの指摘が多く入る。

「どうしたんだ?君らしくない。他の企画と同じように進めればいいだろう」

こう問われた紗矢は、思わず押し黙ってしまう。

上司は続けて言った。

「そういえば、先方の商社の内田貴子さん、高校の同級生って言ってたな。なんか昔あったのか?」

「いえ、そんなことは…」

上司と紗矢の間に流れる、重苦しい空気。

とその瞬間、上司から厳しい言葉が投げかけられた。

「内田さんが原因かどうかは置いておいて、昔何かあったんだな?だが、何があったかは知らないが、仕事はきちんとやってもらわないと困る。

君の感情など仕事には何も関係ない。とにかく、自分の仕事をまっとうしろ。それが今君できることだし、君ならできるはずだ」

「……」

上司の言っていることは、何1つ間違っていない。

― だめだ、私は何をやっていたんだろう。ここで貴子という存在に怯えて仕事をきちんとしなかったら、過去の自分にだけでなく、今の自分にすら誇りが持てなくなってしまうわ…。

全く関係のない感情に囚われて仕事をないがしろにしていたことに、紗矢は自分を恥じたのだった。

この上司の一言で目が覚めた紗矢は、これまでとは別人のように無我夢中になって貴子との企画の準備を進めた。

そして、会議当日。

「今年の流行アイテムの傾向から、来年は△△のニーズが増えると予想されます。カラーは今年色であるグリーンのアイテムと合わせやすいアースカラーで展開することをご提案します。素材はポリウレタンの比率を増やすことで商品価格も抑えられ、本企画のROIも向上させることが可能と考えます…」

貴子を含む大手商社メンバーへのプレゼンを、紗矢は堂々と一人でやり遂げることができた。

プレゼンを終えて「ご質問は?」と問いかける紗矢に、貴子の上司である本部長から、こんな言葉がかけられたのだ。

「素晴らしい企画をありがとうございます。ぜひこちらで進めましょう。今後もますます期待してますよ」

貴子の上司の即断で、紗矢の企画の採用が決定した瞬間だった。

― 無事に終わったけれど、スムーズにOKが出て怖いくらいだなぁ。

プレゼン終了後、紗矢がコーヒーを飲みながらPCを開くと、貴子から個別でメールが届いていた。

『紗矢、先ほどはどうもありがとう~!私の上司がね、企画も素晴らしいけど、何より紗矢の説明がわかりやすかったって言ってたの。

“さすが、内田さんの同級生だね”なんて言われて、私も誇らしくなっちゃった。これから、どうぞよろしくね!』

貴子からのメールに、思わず涙ぐんでしまう紗矢。

― あぁ、あの時ネガティブな感情に流されずに、きちんと仕事してよかった…。そして、こんなにも素晴らしい同級生を持って、私はなんて恵まれているんだろう…。

おそらく、高校卒業以来はじめてと言っていいくらいに「高校時代」を肯定した瞬間であった。

「進学校出身なのに2流大学」

いつも心の中で聞こえていた母親の声が、汚れた地面に白い雪が降り積もっていくように、ゆっくりと消えてゆく。

娘のクリスマスプレゼントは、何にしようか?

コンプレックスをほんの少しだけ克服できた気がした紗矢は、久しぶりに、心穏やかな幸福をかみ締めるのだった。


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