うるさい母・姑・上司を、うまくかわす無敵のセリフ

大人になっても、母親との関係に難儀している人は多いですよね。 「早く結婚しなさい」「子供はまだなの?」などとあれこれ言ってきて、心配してくれるのはいいけど「もう放っておいてよ〜」と言いたくなることも。ましてや、義母(夫の母)となると、もっとややこしい。

そんな母親との付き合い方について、人工知能研究者の黒川伊保子さんが、著書『母のトリセツ』で考察しています。黒川さんと言えば、ベストセラーになった『妻のトリセツ』『息子のトリセツ』など、トリセツシリーズで知られています。

自身が母・娘・姑である黒川さんが考える、母との付き合い方。実は、上司など他人にも使えそうなのです。(以下、『母のトリセツ』より抜粋・再編集)

◆反論せずに、とりあえず「ありがとう」

母親を真っ向から否定するのは得策じゃない。母親の言うことを否定でもしたら、とんでもない跳ねっ返しがくる。「私はそうは思わない」と言ったら、どこまでも反論してくるし、「うるさいなぁ」「母さんには関係ないでしょ」なんて言ったら逆上される。

というわけで、反論しないで、母親を交わす手をお教えしよう。気持ちだけ受け止めるのである。

「お母さんの言うとおりね。参考にするわ、ありがとう」

「母さんの言うとおりだね。参考にするよ、ありがとう」

◆姑や上司からの「余計なお世話」にも使える

これは、他人にも使える。

逆らえない上司や、年配の顧客に、「余計なお世話」なことを言われたとき、「参考になります(勉強になります)。ありがとうございます」と、爽やかに受け止めてしまうのである。「参考になった」「勉強になった」は、自分が間違っているとも言ってないし、相手の言ったとおりにするとも約束してもいない。そのアドバイスを採択するかどうかの権利は、こちらにあるのである。

「早く結婚を」と言われたら、「ほんとねぇ。母さんのように幸せにならなきゃね」と柳のように受け流せばいい。「うるさいなぁ」なんて言うから、母親の口数が増えるのである。要は、母親の口数を減らしたいんでしょう? 「うるさい」だの「関係ないだろう」「放っといてよ」で、黙る母親なんて、世界中に一人もいない。絶対に。

そうそう、姑のざらつく発言にも、これは使える。

上昇志向の強い姑に、「○○さんとこでは、塾に行かせてるって。うちはいいの?」なんて言われても、「あら、参考になります。検討してみますね」と言えばいい。この言い方なら、結果、塾に行かせなくても罪にならない。すかさず感謝してしまえば、決定権はこちらにある。

◆母親は、案外、結果にこだわらない

「母さんの言う通りだね。いつも気にしてくれてありがとう」と言いながら、言うことを聞かない子どもに、母親は、なすすべがない。からむチャンスがないものね。

それに、調子がいいなぁと思いながらも、母親は案外、見逃してくれる。「気持ち」さえ受け止めてもらえば、「事実」は案外、見逃してしまうのである。

実は、子育て中の女性の脳は、本能的にプロセス重視の神経回路を重点的に使っていて、結果重視の回路は二の次になっている。このため、思ったより結果にこだわらない脳なのだ。

ヒトの脳は、とっさに二手に分かれる。何かことが起こったとき、「ことのいきさつ (プロセス)」を反すうして、根本原因に触れようとする人と、「今できること」に集中して、結論を急ごうとする人に。誰でも、どちらの機能も使えるが、とっさのときに使う「優先側」というのがある。子育て中の女性は、「ことのいきさつ」派が圧倒的に多い。

◆成果よりも気持ちが大事なワケ

子育てなんか、一朝一夕で結果の出る営みじゃない。「結果を急ぐ」回路を使っていた ら、毎日毎日おむつを替えて、夜泣きの子を抱いて当惑しながら、やっと立って歩くまでの一年をどうやって過ごしたらいいのだろう。それに、子どもの体調変化を見逃さないためには、「ことのいきさつ」を反すうする癖がないと難しい。「そういえば、今朝から、なんとなく…」という気づきが、子どもを守っているのである。

「ことのいきさつ」派は、結果ではなく、いきさつに意識が行く。なので、成果よりも、気持ちが大事なのである。気持ちがあれば、結果なんて案外許してくれる。

◆ 「ありがとう」と「ごめんなさい」のサンドイッチは無敵である

それでも「どうしてやらないの?」と問い詰められたときは、「心配かけてごめんね」 と謝ればいい。

母親と真っ向から勝負して、言われたことに反論したり、やらない理由を論理的に述べたとしても、母親には勝てやしない。母親は、結果ではなく、心で会話をしてくるからだ。

心だけ受け止め(「母さんの言う通りだね、ありがとう」)、心にだけ謝る(「心配かけて ごめんね」)。こっちの気持ちや事情はあえて言わない。勝てない相手をかわすには、これ が一番いい。

実際、誰かを責めたとき、責められた相手に「ありがとう」と「ごめんね」でサンドイッチされてしまうと、責める側は手も足も出ない。

たとえば、部下に小言を言ったとき、「勉強になります。ありがとうございます」と返され、「どうせ、また繰り返すんだよね」と追随しても、「ほんっと、心配かけてすみません」と頭を下げられたら、それ以上、何が言えるだろう。

◆「心にだけ謝る」で世間も撃退できる

ちなみに、「心にだけ謝る」をマスターすると、人生はかなり楽になる。

理不尽な怒りをぶつけられたときも、「お気に障りましたか? すみません」と謝ってしまえばいい。

いつだったか、行列に並んでいて、「あなたが大きくて、前が見えないわ」と、ちっちゃなおばあちゃんにいちゃもんをつけられたときも、「お気に障りましたか? すみません」と言ってあげた。私が165センチの身長に、8センチのヒールを履いているからと言って、責められる筋合いはない。私に罪があるとしたら、彼女が145センチなのも悪いのでは?

だから、単に「すみません(大きくて、すみません)」と謝る気はない。そんなふうに謝ったら、なんとなく、自分が図体のでかいみっともない女になったような気がして、モチベーションが下がる。心ない人のいちゃもん(本人にとっては無邪気な発言だろうけど)に、すべてそんな謝り方をしていたら、自尊心が傷つけられて、人生が重たくなってしまうだろう。

そこで、事実には謝らず、心にだけ謝る「お気に障りましたか? すみません」の登場である。

「気に障りましたか? すみません」って笑顔で言っちゃうと、相手も、「あらやだわ。あなたが悪いわけじゃないけどさ」なんて、言ってくれたりして、雰囲気が和む。

◆子どもが騒いで、周りにとがめられたら

幼い子どもが少し騒いだくらいで、目くじら立てる年配の人にも、「子どもがお気に障りましたか? ごめんなさい」と声をかければいい。「うるさくして、すみません」と謝ったら、子どもを叱らなくちゃならなくなる。いくら叱っても、いっこうに心に響かない子なら、世間体で叱るのもありだろうけど、普段おとなしい子が、嬉しくて少しはしゃいだくらい、おおらかに見守ってあげたいときもあるでしょう。

◆「心にだけ謝る」で人生がめちゃ楽になる

私は、会うたびに「太った?」と聞いてくる親戚のおばさんにも、あるとき、「気に障ります?ごめんなさいね」と謝ってあげた。「いえいえ、そんなつもりじゃないのよ」 と、どぎまぎした彼女は、次からは言わなくなった。

子どもが一人しかいないので、一時期、「一人っ子にしちゃう気? さっさと次をつくらないとたいへんよ」と言われ続けたこともあって、そのときも「ご心配かけて、すみません」とにっこりすれば、その話題は、そこで終わる。

相手の心にだけ謝る。人生がめちゃ楽になる。覚えておいたほうがいい。

<文/黒川伊保子>

【黒川伊保子】

(株)感性リサーチ代表取締役社長。1959年生まれ、奈良女子大学理学部物理学科卒業。コンピューターメーカーでAI(人工知能)開発に従事、2003年現職。『妻のトリセツ』『夫のトリセツ』がベストセラーに。近著に『息子のトリセツ』『母のトリセツ』

2021/11/11 15:46

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