“顔面力が強すぎる”仏像のインパクト。思わず二度見、三度見してしまう

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 現在、上野の東京国立博物館で開催されている特別展「最澄と天台宗のすべて」(11月21日まで開催)。同展覧会には、宗教や仏教美術に興味がない人でも衝撃をうけて「一度見たら忘れられない」仏像がいくつか出展されている。展覧会の概要とともに、その衝撃的な姿をご紹介する。

◆何があった!?顔面ボッコボコの十二神将

「仏像」というと、多くの人がイメージするのは半眼微笑で厳かだったり穏やかだったりする姿。しかしそれは、仏像の一部でしかない。この展覧会にも、そうした仏像はたくさん出展されているが、今回注目したいのはそれ以外の像。

 まずは、愛知県の瀧山寺に祀られる「十二神将像(十二軀のうち四躯が出展)」。なかでも、2号と仮称されているものは、一目見た瞬間に思わず「何これ!?」と声に出して笑顔になってしまいそうな、個性たっぷりの見た目が特徴的だ。

 顔面がボッコボコの筋肉の表現がほどこされ、表情も喜怒哀楽のどれにも当てはまらず、こちらの理解の範疇を軽く超えてくる。筆者はこの像を前にして、無意識のうちに「これヤベェ」と独り言がこぼれてしまった。

 十二神将とは、薬師如来の周囲を警護する存在で、力強い武将の姿で表現されるのが通例だ。そんな中で、ほぼ唯一の像例と言っていいコミカルな印象さえ与える姿は、文字通り「目が離せない」。正面からの表情はもちろんだが、横から見ると髪型もかなりドラゴンボールが入っていてアニメから飛び出してきたようだ。

 頭上に乗っているのは十二支の生き物で、十二神将は大陸の仏教の中で生まれた存在だが、日本に伝来してから十二支になぞらえて造られるようになった。

◆圧倒的迫力!恐ろしささえ感じる慈恵大師像

 展示後半の主役とも言うべき、鎌倉時代に作られた「慈恵大師(良源)坐像」。実在した僧侶を模して造られる肖像彫刻は、生身の人間を模すので、等身大に造られるのが当然だ。しかしこの像は、2mにも迫る巨大なサイズで目の前に立つと、恐怖心さえ湧いてくるほどの迫力。

 さらに、真っ黒な顔と大ぶりに象られた目鼻立ちからアフリカ由来のような異国感も漂っている。巨大でありながら実在の人物を模しているためにやけに生命感がほとばしっていて、じっと見ていると動き出すのではないかという錯覚にさえ襲われる。

 東京の深大寺に祀られており、50年に一度しかその姿を拝むことができないが、今回は特別に上野で見ることができる貴重な機会だ。

 平安時代に生きた慈恵大師は強い霊力を持っており、祈祷している姿を描いたお札を配ったところ、都で流行していた疫病がたちどころに収まったという逸話が残っている。そのためここ数年は「コロナ退散」を祈願する人々からも信仰を集めている存在でもある。

 また、今やお寺だけではなく神社で、誰しもが引いたことのあるであろう「おみくじ」も、この慈恵大師が始めたものだと言われている。

◆子供にも老人にもみえる不思議な仏像

 慈恵大師に比べると、小ぶりではあるが「何にも属さない生物」のような容貌が一度見たら忘れられない「護法童子立像」。童子というくらいなので、子供の姿として作られていて、二の腕の丸みなどは確かに子供のようだが、顔を見れば見るほど陰険な老人のようにも見えてくる。

 また、皮膚の色が赤いことも手伝って、何者かのようで何者でもない不思議な存在感で立っている。それでも、この像が架空の存在ではない感じがするのは、描写の的確さと彫刻の緻密な技術の賜物だ。

 じっと見つめるほど、これは木で作られた像ではなく、生命体であるように感じられて仕方がない。像と視線が合う位置に顔を持ってくると、生命感は倍増する。

 これは、眼球部分をくり抜いて、そこに目を描いた和紙を裏側から貼った水晶をはめ込む「玉眼」という技法の為せる技。仏像好きは、仏像が「ある」ではなく「いる」と表現するが、この像を見ていると、仏像好きでなくともそう言いたくなるほどの生々しさを感じることだろう。

◆多くの宗派の原点となった天台宗の全景が見える展示

 今年2021年が、最澄が亡くなってちょうど1200年という大きな節目に当たることから、同展覧会が開催されることとなった。平安時代に比叡山で最澄が開いた天台宗は、日本仏教の一宗派だ。しかし、それだけでは語りきれない部分がある。

 なぜなら、鎌倉時代に隆盛し現在にまで伝わる宗派の祖たちも比叡山での修行を経てそれぞれの道へ進んでいるからだ。法然・親鸞・一遍・栄西・道元・日蓮など、比叡山が輩出した高僧には枚挙にいとまがないことから「日本仏教の母山」とも呼ばれるほど、天台宗は日本の歴史においても重要な存在なのだ。

 今回の展示では、すでに紹介した奇抜な仏像ばかりではなく、いわゆる心落ち着く仏像や、歴史上に重要な書画の数々も出展されている。また、展示方法も、最澄に至るまでに仏教が辿ってきたインドや中国などの歴史から、天台宗の流れを持つ宗教が、時系列的に見やすく展示されているので、仏教に触れたことのない方の学びの一歩目としても重宝することだろう。

 「とっつきにくい」「近寄りがたい」と思われがちな仏像の中にも、造形としての面白みがこれほどまでに詰まっている。日本の仏教という存在を、「お勉強」からではなくこうした像への「興味」から知っていくのも悪くないのではないだろうか。

※写真は報道内覧会にて、特別な許可を得て撮影

文・写真/Mr.tsubaking

【Mr.tsubaking】
Boogie the マッハモータースのドラマーとして、NHK「大!天才てれびくん」の主題歌を担当し、サエキけんぞうや野宮真貴らのバックバンドも務める。またBS朝日「世界の名画」をはじめ、放送作家としても活動し、Webサイト「世界の美術館」での美術コラムやニュースサイト「TABLO」での珍スポット連載を執筆。そのほか、旅行会社などで仏像解説も。

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  • 11/11 15:52
  • 日刊SPA!

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