「私を監視するため…?」モラハラを受け続け、疲弊する妻が見つけた夫の秘密

夫は、こんな人だった―?

周りに相談しても、誰も信じてくれない。子どもと一緒に夫の機嫌を伺う日々…。

最近、こんなモラハラ夫に悩む妻が増えている。

有能で高収入な男性ほど、他人を支配しようとする傾向が強い。

優衣(32)も、経営者の夫が突然マンションを買った日から、徐々に自由を失っていく。

広告代理店ウーマンから、高級マンションという“籠”で飼い殺される専業主婦へ。

彼女が夫から逃げ出せる日はくるのだろうか―?

◆これまでのあらすじ

コロナ禍でも毎日仕事に出かける夫に不信感を抱き始めた優衣。そんなとき、街で夫の会社の社員、東山に声をかけられた。

▶前回:横暴な夫の態度に悩む32歳の社長夫人に手を差し伸べた、意外な人物とは


2020年4月。

朝7時。

食事の準備をしながらも、優衣の頭の片隅には、この間東山が言っていた言葉があった。

「何か僕にできることがあったら、遠慮なく連絡をください」

確かにあの日、夫の件で困っている、と言ったのは優衣だ。だが、彼が何も知らないのに、普通初めて会った優衣に対して「できることがあったら」なんて言うだろうか?

― 私が困っていると知っているみたいだった。もしかして会社でも雄二は社員に無理難題を押し付けているんじゃ?

優衣は東山と会って以降、会社での夫の様子を知りたいと思うようになった。

最近の雄二についていえば、義母が注意をしてくれてから、確かに一時期的だが穏やかに、優しくなった。

子どもを公園に連れて行ってくれたり、家族で食事をしたり。

しかし、しばらくするといい夫を演じることにも飽きたようだった。

バーミキュラの炊飯器から炊き上がりの合図がして、優衣はハッと我に返った。

悶々と夫について考えながら、ダイニングテーブルに朝食をセットする。

白米に焼き魚、大根おろしを添えただし巻き卵にケールのサラダ、お味噌汁は赤出汁。

着替えてリビングにやってきた雄二は、テーブルを一瞥したあと言った。

「納豆は?」

「ごめんね、納豆切らしちゃって」

優衣は謝りながら、ちらりと雄二を見た。

テーブルの下で小刻みに揺れる右足の貧乏ゆすりに、不安がよぎる。

「納豆ぐらい買い置きしてよ。コンビニでだって売ってるんだから。悪いと思うなら今買ってくりゃいいじゃん」

いら立つ夫の様子に、優衣は身を強張らせた。

コンビニで買ってくるから待ってて、と言うこともできる。だが、きっと買って帰ってきた頃には、夫はすっかり朝食を食べ終えていて、無駄足に終わることが容易に想像できた。

「ごめんなさい、今度は本当に気をつけるから」

雄二は、謝る優衣に顔を向けることもなく、窓辺の水槽をじっと見ている。

優衣の中に緊張が走る。

大きく息を吸い、雄二に気づかれないようにゆっくりと息を吐いた。

夫にあたられることが当たり前の生活に、女は次第に疲弊していく…

だが、雄二はそれ以上何も言わず、つまらなそうに食事を終えると、優衣に声をかけることもなく、仕事に出かけて行ってしまった。

玄関のドアがパタンと閉まる音を確認してから、もう一度優衣は大きく深呼吸する。

気持ちを落ちつかせる儀式のように、こうした呼吸を優衣は日に何度も繰り返すようになっていた。

夫の放つ一言に血の気が引き、夫の足音に怯え、目の動く先にも注意を払う毎日。

そして、今朝のように小言を言われることが、最近増えてきたように思うのだ。もう一度義母に相談してみようとも考えた。だが、雄二が反省して改善が見られたとしても、たかだか数日。根本的な解決にはならない。

そこで、先日思いきって自分の母に相談してみた。

だが、雄二の外面しか知らない母はこう言ったのだ。

「そんなのどこの家でも同じよ。きっとコロナで仕事も思うようにいかないし、家であたり散らすことぐらいあるわよ」

優衣の父は「男子厨房に入らず」を地で行っているような人で、家事や育児の一切合切を担っていた母。

母の言葉に自分の我慢が足りないのだと思ったが、一方で実の親にも理解を得られなかったことに落胆した。

相談できる人がいない。それが今の優衣の状況だった。

― 連絡していいって言われたけど、もし雄二にバレたら…。

東山からもらった名刺の名前をじっと見る。

東山奏多という名前の下には携帯番号が印字されていた。

今すぐ連絡をとるつもりはないけれど、アドレス帳に名前と電話番号を登録する。そのついでに、Facebook、Instagramで名前を検索してみた。

すると、それらの両方に東山本人であろうアカウントを見つけることができた。自然の風景や植物の写真の中でおおらかに笑う人物は紛れもなく彼だ。

― 雄二の会社の仕事を知る上でも、繋がっておいたほうがいいかも。

雄二はFacebookのアカウントをほとんど利用していない。だからSNSで繋がるなら、夫に気づかれないFacebookのほうが東山にも迷惑がかからないだろう。

優衣は東山のFacebookに友達申請をしてみた。するとほどなくして、リクエストが承認され、優衣は東山と繋がることができたのだった。




14時。

雄斗がお昼寝をするこの時間が、最近の優衣のちょっとした楽しみだ。

4月に入ってから、買い物以外はほとんど外に出ないまま、もうすぐ月末。夫とのコミュニケーションも思うようにいかず、優衣は鬱々としていた。

そんなとき、ママ友の恵がオンラインでお茶を飲もう、と提案してくれたのだ。

ソファで眠ってしまった雄斗を起こさないように、優衣はカップを片手に書斎に移動した。

ここは、いずれ雄斗の子ども部屋になる予定だが、コロナ禍になってから優衣が気を利かせ、夫のためのワークスペースを作ったのだ。

約束の時間より少し遅れて、恵が送ってくれた会議IDにアクセスする。恵のほかに、京子の顔が画面に映し出された。

「ごめんね、遅くなっちゃって」

優衣が会話に入ると、2人ともなぜか神妙な面持ちだ。

「どうしたの?なんかあった?」

優衣が聞くと、恵が「実はね…」と切り出した。

「私、夫に疑われていたの」と語る友人が手にしていたものは…

「京子さん、ご自宅にカメラが仕込まれていたんですって」

春のうららかな昼下がりには似つかわしくない話だ。

「えっ?それで誰が?」

優衣が聞き返すと、京子自身がため息混じりに言った。

「それが…うちの旦那の仕業だったのよ」

京子いわく、コロナの自粛中、四六時中夫が家にいることにイライラしてしまったそうだ。だが、夫は妻の不機嫌を「浮気相手に会えなくなったためでは?」と勘ぐり、カメラを仕込んだらしい。

「わざわざ私を泳がすために、実家に両親の様子を見に行くとかなんとか言って出かけてるのよ。でも、私、そもそもそんな悪事は働いてないのよね」

呆れた様子でそう話す。

「ある時、セラーの中で何か光ったような気がして見てみたらカメラだったの。夫に問いただしたら、白状したわ」

京子は2センチ四方の四角い箱のようなものを、指でつまみ画面に寄せて見せた。

「えっ?カメラってこんなに小さいの?」

優衣は驚きのあまり、画面に顔を近づけ、目を凝らした。一見何かの部品か?と見まがうほどの小ささだ。近くで見ればようやくレンズ部分が認識できる。

「そうなの。充電式のコードレスなんだって。疑って悪かったと夫に平謝りされたわ」

そんなふうに笑って京子は言う。

「だいたい自粛生活のストレスなんて誰だって抱えてるよねぇ?」

そういう恵も夫婦喧嘩が絶えないらしい。

そんな2人の話を聞きながら、優衣は一抹の不安を拭えないでいた。

― もしかしたら、私の家にもカメラが仕込まれているかも?

思い返せば、以前恵たちが家に遊びに来ていた時、雄二がいきなり帰宅したことがあった。それも普段なら絶対に帰ってこないような昼間に、前触れもなく。

あの時。

友人や子どもたちが、雄二の大切にしている水槽や植物を触っただろうと、ものすごい剣幕で怒っていた。

だが、それもカメラでチェックしていたからなのでは…?じゃあ、どこで?

優衣は、心のざわつきを抑えながら、「そろそろ雄斗が起きるから」とオンラインから抜けた。

そして、リビングに行くと、慎重にあたりを確認した。ドライシートを片手に、あたかも掃除をしているふうを装いながら。

水槽の裏側や、テレビの周辺を念入りに見て回るが、それらしきものは何もない。

ダイニングテーブルの椅子を引き、テーブルの下を覗く。 すると、テーブルの天板と脚の境目に、京子が持っていたものとほぼ同じ形のカメラが、両面テープで貼り付けられていた。

― やっぱり、あった…。

心臓の鼓動が早くなっていく。 カメラがあったのは、いつも夫が座っている席に近いテーブルの脚。 ちょうど水槽や窓際が見える位置だ。

だが、京子のように浮気を疑われたわけではないだろう。

― このカメラは、きっと私の日常を観察するため…。

そう思うと優衣の背中に一瞬の悪寒が走った。


優衣はゆっくりと大きく息を吸い、そして静かに吐いた。いつもの平静を取り戻すための深呼吸だ。

そして、フローリングワイパーで部屋の隅から順に掃除を始めた。ダイニングテーブルのまわりに差し掛かった時、ダイニングチェアに買い物に行くときに使うバッグを置き、ちょうどカメラを遮るように、椅子の位置をずらしてみた。

すると、しばらくしてLINEの通知が届いた。

「今日は何してるの?家にいるの?」

視界を遮られ何も見えないカメラを心配して、連絡してきたのだろう。

「いるよ。どうかした?」

優衣は即座に返信した。その返信はすぐに既読になったが、雄二から何か返ってくることはなかった。

カメラを隠すために置いたダイニングチェアを元の位置に動かし腰を下ろすと、優衣はテーブルに顔を伏せ、声を押し殺して泣いた。

― こんな生活が続くなんてもう耐えられない…。

かつては「死が2人を分かつまで」と、愛を誓ったはずの相手に生活を監視され、時には根も葉もない理由で罵倒される生活がこの先ずっと続くのだ。

一歩外に出れば、意識が高く、才能に溢れ、穏やかな理想の夫。でも実際は…。

― コロナが収束したら離婚を考えよう。でも…。

雄二の人格が変わっていった理由を、そして今、自分が夫に支配されなければならない理由を知りたかった。

東山に連絡を取り、夫について知っていることを教えてもらおう。この先どうするかは、彼に会ってからだ。


▶前回:「困ってるんです」と32歳専業妻がすがったのは、街で声をかけてきた見知らぬ男。

▶NEXT:11月18日 木曜更新予定
東山にメッセージを送った優衣。離婚に向けての一歩を踏み出せるのか?

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