マヂラブも心酔する芸人・囲碁将棋が体現する「ポストM-1時代」のブレイクとは

「芸人で囲碁将棋つまんないっていう人は1人もいないんで」「重要無形文化財」「わからないならわかるまで繰り返し見た方がいい」。

 昨年のM-1チャンピオン・マヂカルラブリーは、囲碁将棋をそう表現する。2004年結成、M-1決勝出場経験なし。同じ高校の囲碁将棋部に所属していた同級生2人はいつしか「東京吉本の若手で(囲碁将棋に)影響受けてない芸人はいない」と言われる存在になった。囲碁将棋の静かなブレイクは「ポストM-1時代」の手本となるのか。「売れる」「売れない」に心まで持っていかれない、囲碁将棋的芸人ライフ。

ーー今多くの芸人さんやお笑いファンの方々がネクストブレイクに囲碁将棋さんの名前を挙げていて、非常に盛り上がっている感覚があるのですが、お二人もその辺りの空気を感じてらっしゃいますか?

文田:多分……言いやすいんですよね。

根建:いじりも半分入ってると思います。

ーー若い芸人さんから真剣に「囲碁将棋さん早く取材した方が良いですよ!」と言われたこともあります。

文田・根建:ええ!?

ーーお二人のラジオ『情熱スリーポイント』を聴いてないのはやばいぞみたいな風潮もありますし。

文田:正直今、例年よりは新しい仕事が増えたなっていうのはありますけど、体感的にはそこまで変わってないんですよ。それこそ若い時の方が劇場出たら出待ちのお客さんとかいましたけど……

根建:ワーキャーでやってたんでね……。

文田:やってねぇよ、いつやってたんだよ!! ……って思うと、仕事は色々誘ってもらえることが何個か増えてます。ただそういう空気に水を刺さないよう気を遣われているのか、テレビの名前で仕事が入ってはくるんですけど、それがやたらとバラシになる……。マネージャーがモチベーションを上げようと必死なのかもしれません。

根建:ニンジンをぶらさげてはくれるんですけど食べさせてはくれないんです。

文田:ちゃんと企画書まで見せてくれたうえで、バラシになる(笑)。「まさかこれはなくならないだろー」みたいなものもちゃんとなくなりますね。

ーーなるほど(笑)。

文田:でも企画書を出してくれる人がいるだけでありたいですけどね。僕らYouTubeで「絶景漫才」という絶景をバックに漫才をやるという企画をやってまして。そもそも登録者は1万人を超えてないし、けして人気のチャンネルじゃないんですけど、北海道のテレビ局の人が「北海道で撮影する番組やりませんか?」と声をかけてくれたりはあるんです。そういう企画書を出してくれる人は実在してくれている。

文田:確かに……あれももう音沙汰ないよな。

文田:「(企画を)出したら通ったんですけど、どうですか?」って連絡がマネージャーに来てたんですけど、その後音沙汰がなくなって……。

ーー企画って謎の失踪しますよね……。しかし確実に風向きは変わってきている。

文田:今までずっと仕事は基本断ってなくて、入るままにスケジュール通りに生きてきたんですけど、それこそ2年前くらいから仕事を選ばせてもらうようになったんですよ。YouTubeやったりとか自己プロデュースの部分とか「こういうイベントは出たくない」「やるならこうしたい」とか言うようになったり。それがわりと良い方向に行ってるのかもしれないですね。

ーーどういう方向性で自己プロデュースされているんですか?

文田:地味な自己プロデュースといいますか。ちょっとおしゃれっぽいみたいな雰囲気があればいいかな、と(笑)。YouTubeも10年後に見ても恥ずかしくない、デジタルタトゥーにならないように……とは思ってますね。

ーーモーニングルーティーンとか鞄の中身とか、いわゆる“YouTubeあるある”はやらないということですか?

文田:モーニングルーティンもおしゃれに撮ってたらいいと思うんですけど。例えば自撮りしながら上半身裸でゴールデン街を駆け抜けるとか、そういうのは嫌だなって。

根建:元々ないだろ(笑)。

文田:「駆け抜ける」系もしっかり絵コンテとか作ってやってたらいいんですけど。毎日なんか上げなきゃって徐々に雑になるくらいならやりたくないと思ってます。

ーーお二人はこれまで「焦る」ことはなかったですか?

文田:正直ちょっとはあったよね。

根建:でも元々二人とも実家に住んでた時期があって、危機感っていうのはなかったんですよ。正直貧乏もあんまりしたことなくて。でも実際本当に食えないみたいな人ってあんまりいないじゃないですか。そういう経験したら違うのかもしれないですけど、ずっとなんとなく食えてるっていうか……表現難しいんですけど。食えてるか食えてないかでいってしまえば食えてきちゃったんですよ。でもそれって売れてる・売れてないとは違う次元の話で。

文田:それでも20代はやっぱり貧乏だったかな……。

根建:ああまあそうね。一緒に住んでたし。

文田:今でも「月に20万以上いらないな」って価値観で生きています。20万あればいいなって。

根建:20万は嬉しいですね。

ーー以前タイタンのキュウさんにインタビューした時に同じこと言ってました。「ずっと20万円ほしい」って。

根建:20万ってやっぱすごいですよね。

文田:でも普通に言ったら足りないですよね。20代での価値観がそれで、今も継続しちゃってる。

ーー20万あれば食うには困らないが何もかもに困る、みたいな。

根建:めちゃくちゃ働けば20万もらえるんですよ、吉本も。死ぬほど働けばですけど。それでずっとやってきたので。少額だけど出れるライブがたくさんあって、そういうライブに死ぬほど出て、それを40歳近くになった今選ぶようになった感じですね。一時期は何でもかんでもライブに出てました。

文田:今のギャラはいえないですけど、十数年前とかは月ライブ60本くらい出て5万3000円だったりとかしましたよ。交通費なしで、結局交通費とか考えたらマイナスみたいな。職業フリーターですよね。フリーターでちょっとたまに舞台出ちゃう人みたいな。それに比べたら今はもうありがたいくらいです。あの時の労力の半分以下だと思うし。あの頃はライブ60本出て、単独ライブあったら深夜ずっと稽古してそのままバイト行って……みたいな生活を送っていたので。

根建: 井上尚弥みたいに年間一試合で済む人もいれば、4回戦ボクサーは1か月に何試合もしなきゃいけないじゃないですか。そういうことだと思います。

文田:井上尚弥とかホタテ漁師とかそういうもんだと思います。ホタテ漁師も一回収穫してそれで終わりじゃないですか。

ーー(笑)。先ほど「おしゃれでありたい」というお話がありましたが、囲碁将棋さんってめちゃめちゃ今っぽいなと思っていて。先輩に引っ張ってもらってトーク番組に出るというよりは、後輩に慕われ上げられている感じというか。

文田:上の人があまりいなくなっちゃったっていうのもありますね。僕らもPOISON GIRL BANDさんとかが活動している時は「ポイズンさん面白い!」っていうのはずっといってましたし。そこが僕らになっちゃったのかな……っていうのは思いますね。

ーーお二人はパワハラとかなさそう。

文田:そうっすね。ハラスメントは気を付けてます。パワハラはもちろんそうだけど、女性に髪切った?とかもね。

根建:あ、それ言えない。 

文田:厳しいですよね、何が炎上するかわからないから

ーー結構考えてらっしゃるんですか? そういうのは気を付けよう、みたいな。

文田:「そういう自分でいるのがダサいな」っていう感覚ですね。それは「セクハラで訴えられたら嫌だな」とかじゃなくて、「こういうのをセクハラになっちゃうのもわかってないの?」という自分がかっこ悪いから気を付けているだけで。人のためにというわけではないですね。それこそ張本(勲)さんとかを見ても「おじいちゃんだからな」とかは思うけど、決してかっこいいものではないじゃないですか。

ーー確かに。

文田:その感覚があるんだったら自分も気を付けたいし、ああなりたくないなって思います。

ーー芸人さんの世界は先輩後輩の関係性がすごい厳しいイメージがありますし、それこそセクハラ的なものもネタの一つと捉える方もいらっしゃると思いますが。

文田:そうですね、そういうダサいことはしたくないですね。

根建:老害になりたくはないですよね。この前ルミネで後輩とひと勝負する、っていうライブがあったんですけど、そうやって後輩とちゃんと戦っていける感じがいいなって。

ーー偉そうにしない、同じ土俵に立つ、ということですか?

根建:そうですね。その日のライブも後輩呼び出して「お前ら全員ぶっ倒すからな」なんて言って。オープニングでも「俺らが負けるわけねえだろ、絶対一位だよ」って、でもエンディングで本当に一位取っちゃったからすげえ変な感じになっちゃった(笑)。だってそれで5位とかの方が面白いじゃないですか。それもパワハラっちゃパワハラかもしれないです。

ーー以前日刊サイゾーでも取材させてもらったラジオ『情熱スリーポイント』、お二人の掛け合いが完全に漫才になっていて本当にすごいなと思うんですけど、ネタ合わせしてるわけではないんですよね。

文田:特にはしないですね。本当は編集して流した方が良いのかもしれないですけど。50~60分録って30分番組にしてくれていいよ、っていう感じで最初やってたんですが、今ほぼそのまま流されていますね(笑)。

ーー息があってるし何より楽しそうだし。先ほど撮影の時も、二人で楽しそうにお話されていて。コンビで珍しいなぁと思いながら見てました。

文田:ちょうど根建が昨日『水曜日のダウンタウン』に出て、ちょっとだけ炎上してたのが面白くて。

根建:視聴者に「生意気だ」っていわれたんで、文田に慰めてもらいました(笑)。

文田:だって40超えたおじさん同士が一歳年上か年下で「タメ口なのどうなの?」とかないじゃないですか。ツイッターのリプに「あれよくないと思います」みたいなコメントが直接寄せられてきてたのが面白かったです(笑)。

根建:慰めてもらいました。しょうがねえよなって。

ーー今何でも炎上しますね……。

文田:これで炎上するんだって。直接批判くるんだって思いましたね~。

ーー売れるとそういうのはたくさん来てしまうものなのでしょうか。

根建:それはそうですよね。

ーー今までお二人は……売れることを避けてきたわけではないですよね?

根建:それは全然避けてないです(笑)。もちろん。

文田:でも売れなくてもいいとは思ってるかもしれない。絶対に売れたいというのもないです。

でもこういう時に「売れたいって言わないのは変だろ」っていうのはあります。「本当に売れたいんですか?」って詰められたら一応「売れたいです」とは言いますけど……。

根建:「本当に売れたいですか?」「そのためにどういうことしてますか?」って言われると「そこまでではない……」みたいな。

ーー先日ライスさんのYouTubeで囲碁将棋のお二人が「M-1にコンビ結成年数の関係で出られないってなったときにほっとした」とおっしゃっていて、それが印象的だったんですよね。

文田:はい。出なくていいんだ!って思いました。

ーー今は「M-1で売れる」という強い図式があるじゃないですか。その手段を手放した後に、今こうして囲碁将棋さんが盛り上がってるって、すごく夢があるなって。

文田:これって「(決勝に)出てないから」だと思うんですよ。出てたら結果として色々あると思うんですけど。強い馬が出てきても「やっぱりナリタブライアンの方がすごかった」という意見もあるし、今でも「大谷より江川の方がすごかった」みたいに言われたりするじゃないですか。僕ら出てないからこそみんなの想像力が面白くしてくれてる部分も大きいのかなと思います。

根建:M-1では決勝出ることができても、一回でも順位が決まればそれで終わりですもんね。

僕らは出てないので、みんなが想像してくれてるだけだと思うんですよ。

文田:「囲碁将棋のあの年のあの時のネタでいってたら優勝してたよな」みたいな

ーードラゴンアッシュ(のネタ)でいってたら本当にやばかった……。みなさんの頭の中に「理想の囲碁将棋」みたいなものがあるのかもしれないですよね。イマジナリー囲碁将棋がいる。

文田:(笑)。M-1の芸歴制限がなくなるんじゃないか、みたいな噂を聞くんですけど、やめてほしいです。スーパーマラドーナさんは肩を鳴らしてるらしいんですけど、スパマラさんしか喜んでないです。

根建:でもやっぱりM-1でブレイクするのが一番かっこいいよなっていうのはマヂカルラブリーを見てても思いますけどね。

文田:めっちゃかっこいいです、王道で。そんな羨ましいとは思わないですけど「よかったね」っていう気持ちが大きい。自分にもそういう世界線があったのかなとか想像することはあります。

でもマヂカルラブリーってやりたいことやれてる感じじゃないですか。ああいう感じだったらいいなとは思いますね。

ーー二人の中の未来予想図ってどういう感じなんでしょうか。

文田:僕は人気のあるコンテンツを一つだけ持っていたいですね。それはラジオでもテレビでもYouTubeやTikTokのチャンネルでも、なんでもいいんですけど。囲碁将棋といえばコレ!というもの。バズるという言い方もあれですけど、そういうコンテンツがほしいですね。

ーー名刺代わりになるような。

文田:囲碁将棋ってアレの人でしょ?と言ってもらえるものですね。そういうコンテンツをひとつだけほしいです。テレビ神奈川でもいい、キー局じゃなくてもいいので、何かこれっていうコンテンツが欲しいです。YouTubeチャンネルがいい感じになればそれでもいいし。あと僕たちグッズたまに作ってるんですけど、そのグッズがコンテンツになってもいいし。別に喋ることじゃなくても、歌出してヒットしてもいいですし。何かしらあればいいなと思ってます。

ーー歌(笑)。単独ライブもそういう気持ちで作ってらっしゃいますか?

文田:そうですね。今回ルミネの客席は減らしてますけど、先行で売り切れることはあまりなかったのでそれは嬉しかったです。それこそ単独が即完売したのは10年前くらいになるのかな……。単独ライブは2年ぶりくらいなんですけど、完売してよかった……。ここ数年、当日になったらほぼ満席に見える状態ではやらせてもらってたんですけど、「チケットなかなか売れないな」「こうしなきゃな」というのは常にあった中で、今回先行だけでわかりやすく売れたのはね、嬉しかったです。

ーーやっぱり囲碁将棋の時代がきてる……。

文田:いやいやいや。今回のライブでは、なんとなくこの2年間やってきたことというか、YouTubeやったことで映像を一緒に作ってくれるスタッフや色々話せる人が増えたので、今までとまた違ったことができればと。中身はずっと同じ漫才をやってるので変わらないんですけど、入れ物というか、外側を見てる人が嬉しいようにやっていければなと思っています。実はそういう挑戦を結構してて、理想としてはディズニーランドみたいにしたいなと思ってるんですよ。

ーーディズニー!!

文田:例えばお客さんにスーツ着てきてもらうイベントとか、そういう来てくれる人もなんか楽しくなるような、チケットを買った時から楽しくなるようなイベントを作りたいなと思ってます。

 本当はその情熱を全部漫才やネタに注いだ方が良いと思うんですけど、ネタ考えるよりも「こういう風にしたらお客さん喜んでくれるんじゃないかな」って考える方が楽しいっていう。なんせ今まで考えてこなかったことだから。

ーーそういうことを考えだしたというのも、お二人の中では変化なんですか?

根建:そうですねぇ。今は何よりお客さんに喜んでもらいたいです。だって異様じゃないですか。40歳越えた芸人のイベントに毎回来てくれるとか。だから何かしら返してあげたいんですよね。

 その中には「10年間きちゃったからやめられない」みたいに束縛されちゃってる人もいると思うんですよ。そういう「何で好きなのか理由もわからなくなってる人」に何かお返ししたいなと。来て楽しいと思えるものを作りたいですね。

(プロフィール)

囲碁将棋(いごしょうぎ)

文田大介(1980年生まれ、神奈川県出身)と根建太一(1981年生まれ、神奈川県出身)のコンビ。高校の同級生同士で2004年に結成。現在は大宮ラクーンよしもと劇場で大宮セブンメンバーとして活躍中。共に185センチの高身長で、漫才時のセンターマイクの高さを周囲の芸人たちからよくネタにされている。

YouTube「囲碁将棋 Official YouTube Channel」

https://www.youtube.com/channel/UCAv_–GiVVh6W3p_hP2UAxQ

Instagram https://www.instagram.com/igo.sho

11/12(金)の囲碁将棋単独ライブ『WITH AMAZING VIEWS 2021』配信チケットが発売中!

◆配信日時

11/12(金)配信開始18:30 配信終了20:00(18:00よりOPEN)

※見逃し視聴は11/14(日)18:30まで

※チケットの販売は見逃し視聴終了日の昼12:00まで

購入はこちらから → https://bit.ly/3kbEiZX

2021/11/7 17:00

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