将棋の藤井聡太、超早指し棋戦でもブレない“規格外の終盤力”

◆トップ棋士のみが参加する早指し棋戦

 将棋の公式戦タイトルホルダー(竜王/名人/王位/王座/棋王/叡王/王将/棋聖)と賞金ランキング上位者を合わせたトップ棋士12名が出場できる「将棋日本シリーズJTプロ公式戦(以下、JTプロ公式戦)」。

 今期のJTプロ公式戦では、シード権のあるタイトルホルダー、豊島将之JT杯覇者(竜王)、渡辺明名人(名人・棋王・王将)、藤井聡太三冠(王位・叡王・棋聖)、永瀬拓矢王座(王座)という、現代棋界の“ビッグ4”が揃って準決勝に進出。準決勝第1局では、豊島将之JT杯覇者が渡辺明名人との215手という大激戦を制し、すでに決勝進出を決めている。

 そして準決勝第2局の東海大会。藤井聡太三冠と永瀬拓矢王座の対局が、11月3日、藤井三冠の地元・愛知県のポートメッセなごやにて開催された(以下、一部敬称略)。対局時の藤井の今年度成績は36勝7敗(勝率8割3分7厘)、永瀬の今年度成績は19勝12敗(勝率6割1分3厘)。対局前の両者のコメントは以下のとおり。

◆研究仲間であり、ライバルでもある

 藤井聡太三冠「永瀬王座には『炎の七番勝負』の後に研究会に誘っていただきました。その努力する姿勢は見習いたいと思って います。今回東海大会が開催されて大変うれしいです。地元の将棋ファンの方にも見ていただけますから、熱戦を楽しんでもらえるよう頑張りたいと思います」

 永瀬拓矢王座「『JTプロ公式戦』で藤井三冠と対戦できることをうれしく思います。彼からは『将棋を強くなりたい』という純粋な気持ちが伝わってきます。今回初めての公開対局ですので、手探りになりますが集中してベストを尽くしたいと思います」

 実際にVS(ブイエス:1対1で行う研究会)など、研究会仲間でもある両者。対局前、解説の中村修九段が「ビッグ4でタイトル戦が争われることも増えましたが、ビッグ4だけがより一層強くなっている印象も受けます。彼らだけで最先端の研究会をしているようなものですから」と語っていたが、強者同士で切磋琢磨していることで、緻密な現代将棋が作り上げられていることを改めて感じた。

◆永瀬の仕掛けに“最強の手”で応じる藤井

 持ち時間10分、考慮時間1分×5回と、超早指しで行われる本棋戦。将棋は角換わり腰掛け銀という、両者が得意としている戦形に。近年のタイトル戦でも頻繁に登場し、序盤から微妙な損得や駆け引きが繰り広げられる現代将棋において“花形”といった存在だ。先手番の藤井が9筋を突き越したのに対して、後手番の永瀬が反発して開戦。永瀬の積極的な攻めに対して、解説の中村修九段曰く“最強の手”で積極的に受けた藤井が、最後は切れ味鋭く寄せ切り、勝利した。すでに準決勝第1局で、渡辺明名人との対決を制した豊島将之JT杯覇者との決勝戦へと駒を進めた。局面図を見ながら、簡単に本局を振り返ってみたい。

◆▲藤井—△永瀬 53手目▲6六歩の局面

 8筋の歩を交換した後、飛車で横歩を取った永瀬の積極策に対して、持ち時間を使い切った藤井は、飛車の捕獲を視野に入れて6七の歩を強く6六へと突き出す。この手を見た解説の中村修九段は「最強の指し方です」と唸った。この歩を同飛と取れば、△6七に銀を上がって飛車を取れるが、相手の攻めを呼び込んでいるともいえるので、深い読みに基づいた、受けの勝負手という印象を受けた。この後、10手ほど進んだ局面の感想戦で、この手で空いた6七の地点に銀を打ち込んで攻める手も検討されていたことから、大きな岐路であったことは間違いない。

◆▲藤井—△永瀬 95手目▲2四飛の局面

 その後、お互いに持ち時間がなく秒読みに追われるなか、迫力ある応酬が続いて最終盤。5一にあった攻め駒の銀を金で取ったあと、当然、同銀と金を取る手を選択するのかと思われたが、藤井が選択したのは、2四飛と走って、王手をする手だった。△2三歩と防ぐと、▲3三銀成から▲3四飛という手順で詰むという。思えば、藤井がその規格外の能力を特に世に知らしめたのは、8歳のときからプロ棋士と同じ土俵で出場し続けた詰将棋解答選手権。12歳8か月で優勝、最年少記録を達成してから現在まで5連覇(20年度、21年度は未開催)。その終盤の読みの速度や精度の高さを、秒読み将棋の中でも間違えることなく指し続ける凄みは本局でも見せてくれた。局面図以下、永瀬が△2三銀と応じたのに対して、飛車を逃げることも、5一の金を取ることもなく、▲3一角! 以下、△同金▲3一銀不成と進んだところで永瀬の投了となった。

◆超早指し棋戦ならではの迫力の応酬、スピード感

 大勢の観客が見つめるなかの公開対局。超早指しの本棋戦で、持ち前のスピード感あふれる寄せを披露した藤井将棋は、現場を訪れた地元ファンを魅了した。

 藤井三冠は一局を振り返り「角換わり腰掛け銀の先手番で、9筋の位を取る形になりました。44手目△9二香は先手が角を手放したら、△9四歩▲同歩 △9一飛を狙った手です。そこで▲6九玉としたのですが、その瞬間自陣が不安定で後手の攻めを誘発してしまったかなと。後手からは△8四角や△7五角の筋など、いろいろ手があります。ただ飛車を取れば▲9一飛がありますから、飛車を狙うことで手応えはありました。決勝の東京大会は多くの方に見ていただけますので、集中して思い切りよく指したいです。豊島JT杯覇者には 早指し戦では勝っていませんので、いい状態で臨まないといけませんね」と語った。

◆決勝戦は11月21日の東京大会

 注目の豊島将之JT杯覇者と藤井聡太三冠の決勝戦は11月21日に行われる。現在進行中(11月8日現在)の竜王戦七番勝負はもちろん、数々のタイトル戦で番勝負を戦っている二人が、この超早指しの棋戦でどんな戦いを繰り広げるのか。興味はつきない。

文/日刊SPA!取材班

2021/11/10 8:53

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