綾野剛の“笑っていない笑み”が胸を突く『アバランチ』が描こうとしているもの

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なんだろう。この不穏な違和感は。この世に潜む悪を着々と成敗していく「アバランチ」。だけど、そこに爽快感はまるでない。むしろ彼らが悪を追いつめれば追いつめるほど、逆にどんどん追いつめられていっているような切迫感が画面全体に漂っている。はたして、このダークヒーローたちが巻き起こす「雪崩」が飲み込むものはなんだろうか。


※以下第4話、一部ネタバレあり

『アバランチ』(カンテレ・フジテレビ系)第4話でターゲットとなったのは、4期連続で関東医師連合の会長を務める神崎(中丸新将)。全国何万もの医師の組織票を牛耳る神崎に政治家たちはすり寄り、不正の温床となっていた。その事実を暴くのが、今回の「アバランチ」のミッションだ。打本(田中要次)は身分を偽り、神崎が理事を務める病院に潜入。神崎の指示のもと、得意先の軽症患者を優先したがために、本来先に処置されるべきだった重病患者が命を落とした事実を突き止める。

ただ、今回気になったのは、こうした本筋のエピソードではなく、その周辺で描かれる「アバランチ」の起こした熱病だ。アバランチのシンボルマークをかたどったキーホルダーを若者たちはカバンに下げ、アップされる動画に嬉々として食いつく。まるで大衆全体が熱に浮かされているみたいだ。



前回、優美(堀田茜)がアバランチのことを「言いたいことを代弁してくれる感じ」と述べていた。確かにそんなふうに普段口にしたくでもできないことを代わりに言ってくれる人が現れたら気持ちいいだろう。自力では尻尾すらつかめない悪を代わりに裁いてくれたら、自分までヒーローになった気持ちになれるだろう。でも、それはなんだか陰謀論に取り憑かれる人々に似ていて。アバランチの動画に興奮している人たちの光景は、どこか不気味でさえある。


藤井道人が描きたいのは、この社会にはびこる不正や悪に見て見ぬふりをしている人々への警告なのか。それとも正体のわからないものに簡単に煽動され、たちまちに本質を見失う民衆への風刺なのか。まだそこが見えてこない。その足元の不安定さが不吉な高揚感となって、観る人を中毒にさせる。『アバランチ』は、そんなドラマだ。


だが、大衆は手のひら返しが何より得意な生き物だ。


「一度配信されたら、もう誰にも止められない」

打本は、ネット上で醜態をさらした神崎にそう告げた。けれど、この言葉がいつか「アバランチ」に返ってくる気がしてならない。いつか「アバランチ」の正体が明らかになったとき、しかもそれが正義の味方ではなく、テロリストというキャッチーな言葉とともに流布されたとき、壮絶なネットリンチを食らうのは、間違いなく「アバランチ」の方だ。


「あとの判断は、この動画を観ているすべての人間に委ねる。それが、俺たちアバランチ。アバランチだー!」


演説する打本は、自身の正義に酔っていた。純粋な悪意も恐ろしいけれど、純粋な正義感もまた危うい。むしろ昨今のネット上での誹謗中傷の多くは、行きすぎた正義感によって生まれている。


そんな打本をケタケタと笑う羽生(綾野剛)や牧原(千葉雄大)も、「でも、仲間っていいもんだな」としみじみ噛みしめる打本も、どこか薄氷の上にいるようだった。車に乗って、3人で帰途に着く姿は、その光景だけを見ればまるで大人の青春劇のようで、羽生の言葉を借りるなら「エモい」。だけど、すでにリナ(高橋メアリージュン)の身元が割れているように、もう大山の追求の手はそこまで迫っている。どうかこの得体の知れない恐怖心が、ただの心配のしすぎであることを願いたい。


また、今回の演技面でのハイライトといえば、やっぱりラストの屋上のシーンだろう。西城(福士蒼汰)に「この計画が達成したら、どうするんですか」と問われた羽生は、文字通り口から紫煙を吐いて煙に巻いた。綾野剛の軽薄そうな笑みは、どこか人を不安にさせる。いつ火が噴くかわからない。不発弾みたいな男だ、羽生は。

そうやっていかにも愉快そうに笑いながら、「全部終わったら、俺は笑ってんのかな」と西城に尋ねる。その言葉は、つまり今の羽生は本当の意味では笑えていないことを示している。口元だけはニタニタと緩ませながら、でも目の奥は凍てついている。その表現の奥深さに、泣けるシーンじゃないなのに、なぜか泣いてしまいそうになった。綾野剛の表現は、そんなふうに喜怒哀楽をわけもわからずかきむしる力がある。

さらに、今回から印象的な新顔も加わった。それが、週刊誌記者の遠山(田島亮)だ。演じる田島にとっては、久々の地上波ドラマ出演。詳細は割愛するが、田島自身、ある自らの不注意によって制裁を受け、一時は俳優活動そのものから遠ざかっていた。


それが、映画『新聞記者』で藤井とともに脚本を手がけた詩森ろば率いる風琴工房(のちにserial numberに改名)の舞台作品で復帰を遂げ、その後もserial numberの一員として真摯に芝居と向き合い続けてきた。藤井とは、2010年に上映された『東京モラトリアム』でタッグを組んで以来の仲だ。いわば、戦友の映像復帰に藤井自らが手を貸したかたちとなる。


この事実からも、藤井道人がやり直しのきかない不寛容な社会を肯定しているとは思えない。ネット私刑が続く『アバランチ』がその先に何を描こうとしているか。引き続きじっくりと見守りたい。



文:横川良明


第5話あらすじ

「もう戻れないぞ」。西城(福士蒼汰)を前に、羽生が語るアバランチ発足の理由と真の目的とは――?


3年前、日本で開催される国際会議を前に、国際テロリスト集団からの爆破予告に対し、官邸は対応に追われていた。大山(渡部篤郎)が警備局長としてトップに立つ公安部はいち早くテロリストの潜伏先を確認するものの、情報提供者が拘束されてしまう。情報提供者の救出作戦にあたった公安部外事三課の羽生(綾野剛)は先輩の藤田高志(駿河太郎)の静止を振り切って現場に突入するものの、それは仕組まれたワナで…。


テロリストによる爆発から奇跡的に命を取り留め、病院で目を覚ました羽生を待ち受けていたのは過酷な現実だった。失意の中、警察を辞めた羽生は、和泉卓司(森下能幸)が営む小さな町工場で働き始める。娘のあかり(北香那)は不条理な手段で工場を切り盛りせざるを得ない父親に反発し、羽生の前で怒りをあらわにするが、もはや正義の力など信じられない羽生は心ここにあらずだった。そんな矢先、羽生の居場所を追っていた山守(木村佳乃)が工場を訪れて……。



『アバランチ』

毎週月曜夜10時~10時54分

カンテレ・フジテレビ系全国ネット

【出演】

綾野剛 福士蒼汰 千葉雄大 高橋メアリージュン 田中要次 利重剛 堀田茜 ・ 渡部篤郎(特別出演) 木村佳乃

【主題歌】

UVERworld(ソニー・ミュージックレーベルズ)

【監督】

藤井道人、三宅喜重(カンテレ)、山口健人

©カンテレ

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