コロナ貧困「なんでも電話相談会」に1万件超え。ネット時代にあえて“電話”のワケ

 コロナの影響で貧困に喘ぐ人たちを対象にした電話相談会がある。2か月に一度行われ、相談件数1万件を超えたが、いまだその電話は鳴りやむ様子はない。生命の危機にある人たちの訴えとは――。

◆助けを求める電話は鳴り続けた

「所持金があと300円しかありません」

「私はこのまま、死ぬしかないんでしょうか……」

 これは昨年4月に開催された「コロナ災害を乗り越えるいのちとくらしを守るなんでも電話相談会」にて、実行委員の一人である社会福祉士・藤田孝典氏が埼玉会場の電話口で聞いた訴えだ。同相談会は、これまで貧困者を救済するために活動していた司法書士、弁護士、社会福祉士たちが団体の垣根を越え「生存のためのコロナ対策ネットワーク」を結成、開催に至ったという。藤田氏は語る。

「第1回は25都道府県・31会場で行い、私が担当した埼玉会場は8回線を引き、一つの電話に弁護士と福祉関係者の2人体制で臨みました。2日間の相談件数は5009件。NTTの電話履歴では42万件を超える着信があり、受話器を置くとすぐに電話が鳴るため人員が足りず、急遽別の事務所から弁護士の応援要請をするほどでした。きっと、困った人たちが繋がるまで何度も電話したのでしょう」

◆あえて“電話”で受け付け

 このインターネットが普及した時代に、あえて“電話”というツールを使ったのも理由がある。

「SNSなどで情報を収集できない人たち、携帯電話を持つお金がない人たち、そして高齢者や女性など“隠れた貧困者”をフォローしたかった。電話でしっかり困りごとを聞き、対応することが目的でした。やはり第1回は60~70代の相談が一番多い結果になり、本来ならば年金をもらえる年代が『コロナで職を失ってしまったが自分は厚労省の制度を受けられるのか?』『国からの貸し付けは受けられるのか?』など制度について真剣に尋ねられました」

◆昨年売上1500万円のミュージシャンも

 丁寧に相談者たちのヒアリングをしたことで、新たに貧困に陥ってしまった層もわかったという。

「こういうときに真っ先に“犠牲”なるのは派遣労働者はじめ非正規労働者。休業補塡を受けられなかったり、欠勤扱いを受けて収入が激減するなど、労働環境の不備が目立ちました。そしてコロナの特徴ともいえるのは“芸能関係者”。『昨年は1500万円も売り上げがあったのに、今年はコロナで公演が中止になって収入がゼロになった。今後どうすればいいのか』と途方に暮れるミュージシャンもいました」

◆電話口の苦しい訴えは飢餓レベルそのもの

 そして、今年8月に全国31都道府県・42会場で開催された第9回の相談件数は、874件。ワクチン普及とともに件数こそ落ち着いてきた印象があるが、藤田氏は電話口の相談内容はより“深刻さ”が増したという。

「われわれ相談員が国の補助金、自治体の支援があることを伝えても、『すでに制度は使い果たしました』というギリギリを生きる人たちの相談が増えました。『私は生きていていいんでしょうか?』といった内容もあり、国に対する不信感、さらに人間不信がうかがえた。周りに相談できる人がいない“孤独な人”が、限界に達してようやく電話をかけてくる。『相談するのが恥ずかしい』という思いもあるのだと思います。

 緊急性が高い困窮者には、無料で飲食を提供するフードバンクや宅食に繋げたり、私も活動する反貧困ネットワークによる『緊急ささえあい基金』という寄付金から、一回あたり2万~3万円を援助しに行くこともありました。一人で抱えていても、貧困は解決しません。電話一本するだけで、自分の命も助かり、社会復帰の道が見えることもある。ぜひ早めに相談してほしいです」

 同相談会は全9回行われ、相談件数は1万件を超えた。今後も2か月に一度のペースで開催予定だという。誰もが貧困に陥る可能性がある時代だ。あなたの周りで苦しんでいる人がいたら、ぜひ同相談会の存在を伝えてみてほしい。命が、繋がる。

【社会福祉士・NPOほっとプラス理事 藤田孝典氏】

生存のためのコロナ対策ネットワーク共同代表。ソーシャルワーカーや、生活困窮者支援のあり方の提言を行う。著書に『コロナ貧困 絶望的社会の襲来』(毎日新聞出版)

<取材・文/週刊SPA!編集部 画/北村永吾>

―[貧困パンデミック]―

2021/11/9 8:54

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