夫婦で300万以上の住民税を納めても、認可外保育園しか入れない現実

年収が上がるのに比例して、私たちはシアワセになれるのだろうか―?

ある調査によると、幸福度が最も高い年収・800万円(世帯年収1,600万円)までは満足度が上がっていくが、その後はゆるやかに逓減するという。

では実際のところ、どうなのか?

世帯年収3,600万の夫婦、外資系IT企業で働くケンタ(41)と日系金融機関で働く奈美(39)のリアルな生活を覗いてみよう。

◆これまでのあらすじ

念願かなって、2年前に代々木上原の億ションを購入したケンタと奈美。だがリモートワーク中にケンタはマンションの狭さに不満を持ち、引っ越しを提案してきて…。

▶前回:東京で億ションに住んでも、幸せからはほど遠い理由

vol.2 高所得サラリーマンが、1番見たくない通知


「奈美、何しているの?映画に遅れるよ!」

朝9時のリビングに、ケンタの不機嫌な声が響く。

今日は有休を取って、久しぶりに夫婦2人で映画デートの予定だ。だが出発間際に会社からの着信履歴に気づき、奈美は慌てていた。

「ちょっと待って。会社から着信があって折り返すから」

ケンタに返事をし、慌ててかけ直す。

「お疲れさまです。すみません、お電話いただきまして……では、失礼します」

急ぎの用件ではあったものの大事ではなく、奈美はホッと胸をなでおろした。

「あー、ビックリした。お待たせ、行こういこう!」

「有休なのに何で会社から電話がくるわけ?“ワークライフバランス”って言葉知らないの?これだからドメは!」

そう言ったケンタは、先ほどからにらめっこしていた封筒をばさりとテーブルに置いた。何かよくない知らせなのか、やけに不機嫌である。

― いやいや、ケンタのほうが本社と時差があるから、休日・昼夜問わず仕事してるでしょ。その言葉、そのままお返しするわ!

そう思いながらも、今のケンタに反論するのは得策ではないと考え、奈美は話題を変えることにした。

「それより、楽しみだね!2人で映画見るなんていつぶりだろう?」

「最後に行ったのは翔平が生まれる前だから、3年ぶりじゃないの?」

― ケンタが落ち着いてから、何の通知か聞いてみよう。

奈美はそう思いながら、自宅マンション近くの駐車場へとケンタを促した。

ケンタが不機嫌な理由とは・・・?高所得サラリーマンには辛い現実

「出発するよ」

ケンタが愛車にエンジンをかける。メルセデス・ベンツのCクラスだ。

井の頭通りに出て、『アステリスク』、『蕎麦 山都』、『ビヤンネートル』を通過して、代々木公園方面へと走る。どこも好きなお店ばかりで、ケンタから引っ越しを提案されているものの、やはり代々木上原から離れたくないなと思ってしまう。

富ヶ谷の交差点の信号待ちでは、ベンツのGクラスが停車しているのが目に入った。

「最近Gクラス、よく見るよね?」

「ホントだよな。消耗品の車にあれだけお金をかけられるっていうのが、“真の富裕層”だよな」

その言葉を聞いた奈美の頭には、先日のケンタの言葉がよぎる。

― サラリーマンがどんなに頑張っても、ここでは下っ端の暮らししかできない。

思わずため息が出る。やっぱり代々木上原から引っ越したほうがいいのかな、と奈美の心は揺れっぱなしだ。

表参道を通り過ぎ、根津美術館前・西麻布の交差点を経由するお決まりのルートを走ると、目的地の六本木ヒルズに到着した。




「奈美、号泣し過ぎだから!」

映画終わり、ヒルズ内にある『鮨 みつ川』のカウンターで、ケンタは爆笑した。

金沢に本店があるこの店の、のどぐろの手巻き寿司がケンタの好物。2人でよく訪れる店の1つだ。

「ケンタはよく泣かずにいられたよね?」

「原作読んでたしね。そもそも奈美は、少年漫画に免疫が無さすぎるんだよ」

「どういうこと?」

「“師”や“親”はたいてい死ぬの。大切な人の死を乗り越えて少年は大人へと成長していくものなんだよ」

密かにマンガとアニメを愛するケンタは、ご機嫌に語る。

2人のあいだに流れる、久しぶりに穏やかな時間。今ならきちんと話せるかもしれないと思った奈美は、今朝のことを聞いてみることにした。

「ところでケンタ、今朝は何であんなに不機嫌だったの?」

「えっ?ああ、納税の通知書が届いて。頑張って働いても、税金プラス社会保険料諸々で1,000万円以上持っていかれたらまるで手元に残らないなって、馬鹿馬鹿しくなって。もっと収入が高ければ、節税の方法もあるんだろうけど、俺くらいの層って一番損してるよな…」

ケンタはさらに続けた。

「翔平の保育園だって、今年もまた認可園に入れなかったんだろ?去年なんて夫婦で年間300万円以上の住民税を納めたのに、自分たちの子どもは恩恵を受けられないなんて。他人の子どものために働いてるわけ?って思っちゃうよな」

近所にはモンテッソーリ教育に力を入れている園、広い園庭やプールがある園など、魅力的な保育園が多数あるが、すべて認可園のため、申し込んだものの結果は全滅だった。

運良く入れた認可外園は、フロアの1室で園庭なし、優しい先生方には感謝しかないが、魅力的な環境とは言い難い。

「翔平の教育のためにも今の生活を見直すべきなんじゃないの?この先どうするのが良いか真剣に考えてみるから、奈美も考えてみて」

「…わかった」

食後に熱い加賀棒茶を飲み干して、店を後にした。

だがこのあと追い打ちをかけるように、奈美たちは“真の富裕層”を目撃することになるのだ。

ケンタと奈美が目撃した“真の富裕層”とは!?

駐車場へと向かうエレベーターは、平日で客足がまばらなことからケンタと奈美の2人きりだ。

すると、途中の階でエレベーターは停まり、背の高い男性が乗り込んできた。

― どこかで見たことがある…あっ、あの人!

それは、最近バラエティ番組でよく目にする、海外育ちの、イクメンとも名高い男性芸能人だった。

― こういうとき“気付いたor気付いてない”どっちのスタンスで接するのが正解なんだろ…?

奈美が考えたのも束の間、エレベーターは駐車場階に到着する。ボタンの前に立つ奈美は、「お先にどうぞ」と緊張した面持ちで声をかけた。すると彼は軽くおじきをしてお礼を言い、降りて行った。

「どんな車に乗っているんだろう…?」

ケンタと興奮しながら、乗り込む車をそっと目で追うと、彼の愛車はベンツのGクラスだった。

「売れっ子芸能人って良い車に乗ってるんだね!」

「ほんとだな。てか、ここ俺らが停めたP1じゃない、“機械式”じゃないから」

大型の高級外車が並ぶ、日頃利用しないP2の光景は壮観だ。

「“真の富裕層”の車は機械式に入らないから、P1は使わないんだな。あんな車に乗れるくらい稼げるようになったら、俺たちも幸せになれるのかな…?」

そう言ってケンタは、苦笑いを浮かべた。



「戻りました!」

17時を知らせる“夕やけこやけ”が鳴り終わると同時に、保育園に到着した。

「あら、珍しい!翔くんママ、今日はリフレッシュできましたか?」

「おかげさまで、ありがとうございます」

有休でも快く預かってくれる先生たち。こういう時、認可外園はありがたい。

「今日はママがお迎えだったの!」

「そうだよ。お靴履いて、帰ってご飯食べよう」

満面の笑みを浮かべて駆け寄る翔平を、奈美は抱き締めた。

仕事がある平日の夕方は、基本ベビーシッターを頼み、保育園のお迎えと夕食の介助を任せている。

ケンタが激務の中、産後4ヶ月でフルタイムの復帰をし、ワンオペ育児をこなすことに限界を迎えた奈美にとって、シッターの利用はやむを得ない選択肢ではあった。でも奈美には、常に“罪悪感”がつきまとっているのだ。


「翔平、ちゃんと前見て。危ないでしょ!」

手をつないでゆっくりと歩いていた帰り道には、自転車のスピードを上げてお迎えに急ぐ、多数の母親が行き交っている。

その姿を見た奈美は、昼間のケンタの言葉を思い返した。

― 翔平の教育のために、か…。

とにかく今は働いて将来の学費を貯めることが、翔平の幸せのための最適解だと思っていたが、間違いなのだろうか…?

左手から伝わる息子の手の温もりを感じながら、奈美は思いを巡らせる。

だがこうして悩んでいるあいだに、ケンタはあることを画策していたのだった。


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奈美が絶句した、ケンタの挙げた引っ越し先とは!?

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