問題だらけの東京五輪も「大きな意味があった」車いすユーザーの声

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 車いすユーザーや視覚障害のある人たちと街を出歩くと、いかに社会には“バリア=見えない壁”が多いかを感じます。

 電車に乗る際は駅員さんにアテンドをお願いしなければならないし、なくてもよさそうな段差があったり、車いすの通れる道幅がなかったり。

 普段自分が行動するときには意識しないことでも、いったん視点を変えてみると、なんと日本は不便な国なのだろうと思います。ところがNPO法人DPI日本会議の事務局長で、自身も車いすユーザーである佐藤聡さんはこう言います。

◆日本の駅のバリアフリー化はかなり進んでいる

「2020年度の国交省の調査ですが、日本の駅の49.1%はバリアフリー化されており、一日の乗降客3000人以上の駅でみると、91.8%がバリアフリー化されています。東京の地下鉄の95%(222/233駅)はバリアフリーです。

 一方、パリの地下鉄でバリアフリー化された駅はわずか2%(303駅中9駅)しかなく、ロンドンの地下鉄も古い路線はエレベータの整備が進んでいないそうです。日本の方がバリアフリー化はすごく進んでいると言えます」(コメントは佐藤聡さん、以下同じ)

『尊厳なきバリアフリー: 「心・やさしさ・思いやり」に異議あり! 』(川内美彦/現代書館)によると、20年ほど前は、駅にエレベータもエスカレータもなく、特急列車には車いすも入れなかったと実例を挙げています。それを考えると、急速に状況は変わっています。

◆東京オリパラはバリアフリー化に大いに貢献

 この夏に行われた東京オリンピック・パラリンピック(オリパラ)は無観客で収益も見込めずデメリットばかりが目につきましたが、バリアフリー化には大いに貢献したようです。

「東京オリパラは我々にとって大きな意味がありました。開催のためにバリアフリー法や整備基準の見直しがあったのです。それまでは駅にはバリアフリールートがひとつあればよかったのですが、駅の規模によって複数整備することが求められるようになりました

 新宿駅はもともと南口にしかエレベータがついておらず、行きたい場所がどこだろうが南口を通るしかありませんでした。ですが、オリパラによって東西自由通路ができ、そこにもエレベータが設置されたので、バリアフリールートが2つになりました。エレベータも24人乗りで広く快適です。

 青山一丁目駅は2ルート目を作るのに、エレベータを地上に出す場所がなかったので、ビルを一棟買って、そこにエレベータをつけたと聞いています。JR御茶ノ水駅も、お堀の上に駅があるなどの事情から場所がなく、これまでエレベータがなかったのですが、大規模な改修工事を経て生まれ変わりました。そのくらい、今は各社意識を持ってやって下さっています」

◆少しずつ電車移動もしやすくなっている

 車いすユーザーや視覚障害者は電車を利用する際、たいていの場合まず改札で駅員さんにアテンドをお願いします。ところが会社によっては長時間待たされることが多い。そのため、到着時刻が見えにくいのです。なぜアテンドを頼まなければいけないのでしょうか。

「電車に乗るときに、車いすユーザーが駅員さんを呼ばなければいけないのは、ホームと車両の間に段差と隙間があるからです。降りる駅でも手を借りるため、乗車時に降車駅の職員を配置するまで乗れません。だから、駅に着いてから20分くらい待たされることもあります。乗車してから『急に予定が変わって、違うルートに切り替えたい』ということってあるじゃないですか。それでも降りられないから、利便性はとても悪いです。

 でも、隙間や段差を最初からなくしておけば、自分で乗り降りができるんです。段差3センチ、隙間7センチなら車いすユーザーの90%くらいは自分で乗り降りができます。都営大江戸線は全駅ホームにスロープが設置されていますし、今では山手線の駅はだいたい1人で乗り降りできるようになりました

◆車いすユーザーと健常者の間にある壁

 筆者は合同会社ブラインドライターズという会社を経営しています。主に視覚障害のある方に文字起こしをしてもらうサービスを提供していますが、年配の方ほど、「音声を点字にするの?」と聞かれます。視覚障害者がパソコンを使いこなし、社会の一員として働いているイメージが湧かないのでしょう。

 80歳になろうとする私の両親は「障害者はかわいそう」「自分たちが老いて車いすになっても自分たちは障害者ではない」などと平気で差別的発言をします。周囲の無理解に驚くことが多いです。

◆日本でもインクルーシブ教育が必要

「日本ではインクルーシブ教育をやっていないから、障害者に会ったときにどうしたらいいのかわからないのだと思います」
  インクルーシブ教育とは、障害がある人を特別学級などで分離せずに、障害のない人と共に学ぶという考え方・システムのことです。

「日本では、同じ学校の同じクラスに普通に障害者がいて、一緒に学ぶ機会はほとんどない。どこの国でも、だいたい10%くらいは障害者がいるのですが、学校で出会わないので、あたかもいないことになっています。世の中は健常者しかいないと思って育ってきて、とつぜん障害者に出会うと、もうどうしたらいいのかわからないのでしょう。知らないことはみんな怖がりますから、拒否をしてしまう。

 例えば、私がお店で店員さんに話しかけても、店員さんは私の隣の健常者に答えるんです。私が聞いているのだから、私に返事をしてほしいのですが、障害者と話したことがないから、『話を理解できるのか』とか『何か失礼なことを言っちゃ悪いな』と思って、慣れている健常者に答えるのだと思います。

アメリカに行ったときは、みんな躊躇せずに私に話しかけてきました。アメリカは州によって違いますが、インクルーシブ教育をやっているから、小さいときから学校に当たり前に障害者がいるので、慣れているのでしょう」

 障害当事者と話さない、というのは視覚障害者からもよく耳にします。何かものを尋ねても、隣のヘルパーさんに返事をする人が多いとか。

◆障害者を無視したり避けたりする人に知ってほしい

 筆者の住む街は、大きな施設があるらしく車いすや視覚障害のかたをよく見かけます。先日、駅から白杖をついて歩いている男性がいました。交差点まで来て、信号待ちをしているときに、声をかけようか私が躊躇していると、若い男性が後ろからやってきて、「お手伝いしましょうか」と声をかけて、アテンドしていました。その様子がすごくスマートで、いいなと思いました。

 街のバリアフリー化が進み、車いすや視覚障害の方たちをよく見かけるようになりました。またケガや病気で、誰もが障害を負う可能性があります。明日、自分や家族、友人が障害を負うかもしれません。決して他人事ではないのです。

 周囲に障害のあるかたがいない場合、ミライロ主催のユニバーサル検定がお勧めです。2時間の講座を受講するだけで3級が取れます。基本的な知識があれば、少なくとも障害者を無視したり、避けるようなことはなくなるかもしれません。私も受講しましたが、車いすのアテンドの仕方など、とても参考になりました。

<取材・文/和久井香菜子  文字起こし/ブラインドライターズ>

【和久井香菜子】
ライター・編集、少女マンガ研究家。『少女マンガで読み解く 乙女心のツボ』(カンゼン)が好評発売中。英語テキストやテニス雑誌、ビジネス本まで幅広いジャンルで書き散らす。視覚障害者によるテープ起こし事業「合同会社ブラインドライターズ」代表

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