37歳で脱サラして漫画家に。麻生太郎氏も絶賛『紛争でしたら八田まで』作者・田素弘

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「最近だと『紛争でしたら八田まで』っていうマンガが出始めたけども、読んでる人、一人もいないの?」

 今年9月、マンガ界の巨匠さいとう・たかを氏が亡くなった。『ゴルゴ13』の愛読者として知られる麻生太郎副総理(当時)は「惜しい人を亡くした」とコメント。続けて、記者を煽るようないつもの麻生節で、マンガ界の新星について言及したのだ。それが、眼鏡のミニスカ美女・八田百合が“チセイ”を駆使して世界中の紛争を解決して飛び回る痛快インテリジェンス・マンガ『紛争でしたら八田まで』。

’19年に『モーニング』(講談社)での連載を開始して以来、目の肥えたマンガ好きはもとより、インテリ層の間でもハマる人が続出。「地政学」とリアルな国際情勢、宗教観、スラング、ジャンクフード、サブカルチャー、プロレス熱、ヒューマンドラマ、お笑い……などなどを絶妙にブレンドした作風でファンを獲得してきたのだ。

 その生みの親である田素弘氏は37歳で脱サラして漫画家になった遅咲きの新人。八田以上のインテリ感がにじみ出るたたずまいだが、明かされた半生は意外なものだった……。

◆麻生さんからお礼状が届いた

――連載開始から2年、政界随一のマンガ通として知られる麻生氏も絶賛していますが、今の心境は?

田:実は今年9月までに計3度ほど麻生さんには、会見で“紛争八田”を褒めていただいたようです。非常に嬉しいことですが、僕は少し前まで実家でニートのような生活を送っていた人間。あまりにも次元の違う方に読んでもらっていたため、他人事みたいなところがありますね。

――褒められた実感がない?

田:5月くらいに「麻生さんに褒めていただいた」と知り、僭越ながら紛争八田を一式送らせてもらいました。そしたら実家に麻生さんからお礼状が届きまして……もう、家族は大パニック。放蕩息子が、なぜ麻生さんにお礼されるんだ!?って(笑)。

◆人生で初めて親に買ってもらったマンガはゴルゴ13

――その麻生氏はゴルゴ13の愛読者。M16と超絶美技で紛争を解決するデューク東郷に対して、八田は“チセイ”を武器に解決する。リアルな国際情勢を反映した作風など多くの共通点が見られますが、その影響は?

田:実は、両親が全然マンガを読まず、実家にもまったくマンガがなかったので、麻生さんに比べると僕の読み込み具合は劣るかと。ただ、人生で初めて親に買ってもらったマンガはゴルゴ13でした。どこかに遠出するときだけ、親がマンガを買ってくれたんです。小学校低学年のときだったと思うんですけど、「なにが読みたい?」と聞かれて、僕が指をさしたのがゴルゴ13でした。

――かなりの早熟ですね。

田:そのときは背表紙のどくろマークが気に入って選んだだけでした。でも、読んで衝撃を受けましたね。女の人の裸がバンバン出てくるし、女の人をグーで殴ったりもする。金銭的にも内容的にも小学生には買いにくいマンガでしたが、それ以来、喫茶店などで置かれているゴルゴ13を見かけたら読むようになりました。

――亡くなったさいとう氏への思いはありますか?

田:同じ漫画家で、同じ種類のマンガというように並べて語ってもらえるのは嬉しいのですが、さいとう先生は神様としか言いようがない人。そんな先生に紛争八田の3巻のオビコメントをいただき、一時期、対談をさせてもらおうという話も持ち上がっていたんです。コロナで実現には至りませんでしたが、「もしかしたら、そのうち会えるかも」なんて思い始めていた。そんなときに亡くなられたことは残念でなりません。

◆当初は八田がバンバン人を殺していく設定だった

――個人的な感想を言わせてもらえば、紛争八田は「人が死なないゴルゴ13」という印象です。

田:実は、当初は八田がバンバン人を殺していく設定でした。銃撃アクションてんこ盛りで……。

――完全に女性版ゴルゴですね。

田:でも、ネームを進めていくうちに、八田は人を殺せるコじゃないと感じたんです。知性豊かだけど、少し抜けたところのある美人・地政学リスクコンサルタントというキャラクターに、殺しは合わないなと。

――そういえば、デビュー作はライフル射撃を題材にした作品でしたね。

田:’15年に新人賞を獲得した『定時退社でライフルシュート』ですね。アラサーOLがライフル射撃にハマるという読み切りマンガでした。

――主人公が八田に似てますね。

田:僕はキャラクター作りに自信を持っていないところがあって、一つのキャラクターを作ったら、それを改良して継いでいこうというスタンスでして……。だから、人生で初めて描いた吸血鬼のマンガの主人公もビジュアルは八田に似ています。

――主人公は女性で一貫している。

田:僕の性格的に、作るキャラクターは無口で冷血な感じになりがちなんです。だから、見た目だけでも華やかにしたいと思って、派手めな女性を主人公にしています。

◆日の目を見なかった幻の女版ゴルゴ13

――その『定時退社で~』から紛争八田の連載開始まで4年の空白期間があります。その間はどうしてた?

田:やっぱり、新しい企画を考えて、ネームを作ってボツになって……の繰り返しです。それでも紛争八田の前に、「これなら連載いけそうだ」っていう作品がありました。それは、クールな美人スナイパーの話で。

――それ、ほぼゴルゴでは……?

田:今でも3話分のネームが残っていますけど、その2話目では「M16も操るスナイパー」という話が……。

――よくいえばオマージュ??

田:最終的にそれがダメになってしまったんですけど、おそらくその作品のおかげで編集部内で「こいつ、世界情勢に詳しいな」と思われたんじゃないかと。僕が勝手に想像している心の声ですが……。それで「世界を舞台にした別の企画を考えてほしい」と言われて、ひねり出したのが地政学リスクコンサルタントを主人公にした紛争八田だったんです。

※11/2発売の週刊SPA!のインタビュー連載『エッジな人々』から一部抜粋したものです

【Motohiro Den】
’76年生まれ。東京都出身。渡英して帰国した後、アパレル、デザイン会社などを転々。37歳で脱サラし、漫画家を志すことに。’15年『定時退社でライフルシュート』でデビュー。’19年から『紛争でしたら八田まで』を『モーニング』(講談社)で連載開始

取材・文/栗田シメイ 構成/池垣 完(本誌) 撮影/尾藤能暢 撮影協力/ミロンガ・ヌオーバ


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  • 11/8 15:52
  • 日刊SPA!

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