『鬼滅の刃』を分析する神戸大学研究員が注目。「無限列車編・魘夢戦」の重要なセリフ6選

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 現在テレビアニメも好評放送中の『鬼滅の刃』。本作には多くの「心にのこる名ゼリフ」がある。神戸大学の研究員である植朗子氏が11月18日発売の著書『鬼滅夜話』(きめつやわ)で民間伝承・比較民俗学の視点からセリフに潜む本心をキャラクターごとに分析している。だが、同書で解説する名ゼリフ以外にも、ストーリーの転換にかかわる「大切なセリフ」がたくさんある。ここで「無限列車編」の中で、とくに「魘夢戦」に注目して「重要なセリフ」をふりかえっていこう。

 【ご注意下さい!】この記事には、漫画『鬼滅の刃』8巻までの内容と、アニメ『鬼滅の刃・無限列車編』のネタバレが含まれます。

 何人もの失踪者を出しているという「無限列車」。主人公・竈門炭治郎(かまど・たんじろう)とその妹・禰豆子(ねずこ)、炭治郎の同期である我妻善逸(あがつま・ぜんいつ)、嘴平伊之助(はしびら・いのすけ)たちは、この事件を解決するために、鬼殺の任務を与えられた。

 被害者には鬼殺隊の隊士も含まれ、その被害規模の大きさから、炎柱・煉獄杏寿郎(れんごくきょうじゅろう)も、炭治郎らとともに無限列車へ向かうことになる。ここには「下弦の壱」と呼ばれる鬼の実力者・魘夢(えんむ)が潜んでいたのだった。

◆煉獄さんの「寂しい心」を浮きぼりにする魘夢

◆魘夢「お眠り 家族に会える良い夢を」(7巻・第55話「無限夢列車」)

 魘夢による血鬼術(※けっきじゅつ=鬼の特殊能力)によって、炭治郎たちは気づかないうちに「夢」の中へ引きずり込まれていく。魘夢は自らの身の安全のために、直接的に鬼殺隊と接触しようとはしない。ふつうの人間を手先に使い、「人間が人間をだます」ように仕向ける。魘夢のこのセリフは、「死んだ妻子と再会したい」と願った、手下の車掌に対して放った言葉だ。

 実はこのセリフは「無限列車編」を象徴する言葉である。「家族に会える夢=良い夢」として、それを利用する魘夢の思考が明らかになり、さらには「良い夢」に翻弄される人間と、それに耐える人間との対比が描かれている。炭治郎や煉獄たちも、夢の中で「家族との絆」を試されることになる。

◆炎柱・煉獄杏寿郎「頑張ろう!頑張って生きて行こう!寂しくとも!」(7巻・第55話「無限夢列車」)

 魘夢によって眠らされた煉獄杏寿郎は、他の人たちが「幸せな夢」を見ている中で、ただ1人「幸せな夢」を見ない。煉獄には父と弟がいるが、元炎柱までのぼりつめた剣豪の父は、柱をやめ酒浸りの日々をすごしている。息子たちに冷たくあたる父と、悲しむ弟の姿。「煉獄家の日常」が、煉獄自身の胸の痛みとともに、「夢」の中で再現される。このセリフによって、あの明るく、強く、快活な炎柱・煉獄杏寿郎が本当は「寂しい」のだということを、われわれは改めて知ることになる。

 さらに煉獄は、猗窩座との激闘の最中に、病で死期が近い母親から託された言葉を思い出す。抱きしめられた幼い頃の自分。あの時の気持ち。これらの思い出は、煉獄が「失ったもの」だ。煉獄の母の”悲しみをおさえた表情”と、目からあふれて頬を伝う涙が、見ているわれわれの心もしめつける。煉獄登場のラストのシーンでは、彼の寂しさは払拭されるのか。アニメでもぜひ確認してもらいたい。

◆煉獄と炭治郎の「夢」のエピソードは「家族への思い」の表出

◆竈門炭治郎「でももう俺は失った!!戻ることはできない!!」(7巻・第57話「刃を持て」)

 煉獄に続き、炭治郎の「夢」もまた「大切な家族」との思い出の場面だった。「夢の中に居続けたい」と涙を流す炭治郎を、つらく厳しい「鬼殺の道」―現世へと戻したのは、「妹を“人間”に戻してやりたい」と願う、長男としての決意だった。

 幼い弟・六太の「お兄ちゃん 置いていかないで」と泣き叫ぶ声に、炭治郎の胸はつぶれそうになるが、それでも彼は禰豆子の「生」を守らなくてはならなかった。炭治郎の心は、死んだ家族とともにある。今、炭治郎が「家族」を残していくのは、彼らはきっと禰豆子を助けることを望んでくれるはずだと、炭治郎自身が信じているからだ。家族への信頼が炭治郎の力になる。

◆下弦の壱の鬼・魘夢「どんなに強い鬼狩りだって関係ない 人間の原動力は心だ 精神だ」(7巻・第55話「無限夢列車」)

 煉獄と炭治郎の「夢」のエピソードは、彼らの悲痛な「家族への思い」の表出だった。鬼殺隊の隊士たちがどれほどの辛苦に耐えながら、日々の任務に取り組んでいるのかがわかる。

 魘夢は「人間の心なんてみんな同じ 硝子細工(がらすざいく)みたいに脆くて弱い」と言ったが、「弱い心」を奮い立たせて、鬼殺隊は「守るべきか弱き者」のために戦う。奇しくも魘夢の言葉通り、彼らの弱い心・悲嘆の心が、戦うための原動力になった。

◆善逸の禰豆子への愛情と伊之助の心の変化

◆我妻善逸「禰豆子ちゃんは 俺が守る」(7巻・第60話「二百人を守る」)

 孤児の善逸は、炭治郎や煉獄のように家族の夢を見ることはない。しかし、大好きな禰豆子とともに、美味しい桃がたくさん実り、きれいなシロツメグサがある場所を目指して駆けている。おそらく善逸たちがいる場所は、善逸が師匠や兄弟子とともに剣術の訓練を行っていた場所だ。その大切な場所へ禰豆子を連れていくのが、善逸の「幸せな夢」だった。

 炭治郎が魘夢との戦闘のため、禰豆子を守ることが手薄になった時、善逸は魘夢の術によって眠ったままであるが、必殺技「雷の呼吸 壱ノ型・霹靂一閃」を放つ。ふだんはなかなか「真剣な表情」では愛情を伝えられない善逸だが、眠りながらも、心から禰豆子への愛情を示した。

 無限列車編では、魘夢戦後すぐに「上弦の鬼」との連闘になるため、炭治郎は禰豆子の元に駆けつけられないが、善逸は他の乗客を守りながら、ひとり禰豆子をかばい続けた。

◆嘴平伊之助「腹は大丈夫か 刺された腹は」(8巻・第62話「悪夢に終わる」)
 かつて「鼓の鬼」との対決の時には、鬼である禰豆子を殺そうとし、それを守ろうとした善逸に暴力をふるい、炭治郎とも拳を交わすことになってしまった伊之助。「那田蜘蛛山編」あたりから、炭治郎と善逸を仲間として認め、仲間への気づかいを少しずつ見せるようになり、禰豆子とも仲良くなっていく。

 さらに「無限列車編」では、自分を助けるために刺された炭治郎の傷を見て、心配を口に出せるようになった。親がおらず山中で猪に育てられた伊之助は、年頃の友人もいないまま孤独に育った。しかし、鬼殺隊の任務の中で、お互いを信頼し、他者を思いやりながら生きることを学んでいくことになる。

「無限列車編」の戦いは、炭治郎、善逸、伊之助の成長が明確になったエピソードだった。しかし、彼ら「かまぼこ隊」の成長には、「大きな喪失」がともなう。“心を燃やして戦う”彼らは、これからさらに厳しい戦況の渦に突入していかねばならないのだ。アニメの続編で、彼らの戦いを見届けたい。
(文/植朗子)

【植 朗子】
1977年和歌山県新宮市生まれ。神戸大学国際文化学研究推進センター協力研究員。大阪市立大学文学部国語・国文学科卒。大阪市立大学大学院文学研究科前期博士課程修了。神戸大学大学院国際文化学研究科後期博士課程修了。博士(学術)。専門は伝承文学、神話学、ドイツ民俗学。著書に『「ドイツ伝説集」のコスモロジー -配列・エレメント・モティーフ-』(鳥影社)、共著に『はじまりが見える世界の神話』(創元社)、『「神話」を近現代に問う』(勉誠出版)など

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