泣ける…「時給はいつも最低賃金」な50代女性ライターが見た現実/和田靜香×松尾潔

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政治の素人が著した異色の政治本に多くの共感が寄せられ、好セールスを記録している。総選挙直前、政治に大きな関心が集まるなか、著者・和田靜香氏と著書に共鳴した音楽プロデューサー・松尾潔氏が急遽、対談を行った。

◆公助に後ろ向きな日本では到底暮らしていけない……

『時給はいつも最低賃金、これって私のせいですか? 国会議員に聞いてみた。』(左右社)が、“政治本”としては異例のベストセラーとなっている。著者の和田靜香氏は50代単身、フリーランスの音楽・相撲ライター。かつては多くの音楽誌に寄稿し、週刊SPA!でも連載を持つなど業界の第一線で活躍していたが、近年は原稿の仕事は減る一方。

 生活を維持するためのおにぎり屋のバイト(時給は最低賃金)は、コロナ禍でクビになった。「私の不安は日本の不安」と考えた彼女は、小川淳也衆院議員(立憲民主党)のもとを訪れ、失業、高齢化、社会保障、そして“失われた30年”でまったく伸びない賃金……日本が抱える多くの問題に、無垢だが、本質を突いた疑問をぶつける。

 そんな激しくも温かい対話を収めた本書は、政治問答書なのに「泣ける」と評判だ。日本を代表する音楽プロデューサーの松尾潔氏もそんな一人だという。「ヒット請負人」の異名を持つ彼は、若き日に気鋭の音楽ライターとして活躍。奇しくも過去に週刊SPA!で健筆を振るっていた二人は、現在の日本に強い問題意識を抱く。対談で浮かび上がったこの国の問題点とは?

◆政治問答書なのに「泣ける」理由とは?

和田:なぜ「泣ける」のか、初めはわからなかったけれど、「この本を読んで自分はこんなに不安だったんだって気づいたら、ワーワー泣いた」という読者のツイートで腑に落ちました。自分が不安だということを自覚する余裕さえない人が、この本を読んで「同じだ!」と気づくんですね。

お金がなく生活も苦しい私は、嫉妬から他人様の家のきれいな花壇を踏みつけそうになったと書きました。追い込まれている人は、自分は一人ぼっちだって感じて、乱暴な気持ちになってしまう……。今は、多くの人がそんな心境なのでしょう。

松尾:花壇の話には僕も涙しました。政治についての本は小難しくて敬遠されがちですが、和田さんの本は平易な文章で、市井の人々の小さな声から、メディアで「可愛い本」と推薦した小泉今日子さんのような大きな声まで、共感が集まった。小泉さんとは’90年代にお仕事したことがありますが、当時は政治の話なんて全然しなかったなあ。

◆今の日本では、夢を見ることさえできない

和田:私自身そうでしたが、原稿を書くとき、まるで音楽だけが実社会から宙に浮いているかのように、このアルバムのプロデューサーが誰とか、音楽についてのみ書くことが当たり前になってた。音楽の現場も本来は政治と地続きなのに。

松尾:音楽業界全体が、業界を浮島のように生き延びさせてきた感があるし、それは今も続いている気がします。

和田:私が音楽について書かなくなったのも、ライターの仕事が減って生活が苦しくなっていき、そんな違和感が大きくなったからかもしれない。食べるためにバイトを始めたら、見える風景が全然違った。音楽より、そもそも働くってどういうこと?と考えることのほうが大切になりました。

松尾:正直、僕は生活に困った経験がない。でも、今の和田さんの姿を知り、ご著書を読んで強く感じるのは「自分だったかもしれない」ということ。音楽評論から実作にシフトし、幸いにもサクセスできました。でも、違うんですよ。その時代にたまさか生まれた結果にすぎない。

「あのまま音楽ライターだったら大変だったね」とよく言われますが、“炭鉱のカナリア”的に何かを予見して書く仕事から離れたわけではなく、単に制作に興味が向いただけです。当時は、そんな思いつきで道を変える人がたくさんいた時代。言い換えれば、社会にそれだけ余裕があった。ところが、今は夢を見ることさえ難しい……。

◆「名作」よりも「駄作でないもの」

和田:今の音楽業界も、シンガーは決まっているものの、多くの作曲家から楽曲を集めたなかから1曲を選ぶコンペ方式が主流。歌い手と作曲家の偶然の出会いなんて、もう期待できないんですか?

松尾:今は偶然の出会いから生まれる「名作」より、むしろ偶発性を排除して「駄作でないもの」を効率的につくることに業界全体が腐心しているように見えます。

和田:その意味では、この本ができたのは偶発的(笑)。企画書さえないし……というか、政治のド素人の私には書けなかったんです。

◆自己責任論が通用しないこれだけの理由

松尾:喫緊の課題は、路上生活者や生活困窮者への支援でしょう。昨年11月、渋谷区のバス停でホームレスの女性が「目障りだから」という理由で殺された事件は、とてもショックでした。

和田:住宅問題には、私もこの10年ほとほと困っています。中高年、単身、フリーランス、お金なしの四重苦で、賃貸物件の圧倒的弱者。そもそも、50年前は収入に占める住居費は5%ほどだったのに、今では25~30%にもなっている。到底、暮らしていけません。

松尾:住宅は国が担う政策なのに、日本ではそうなっていない。

和田:住宅政策や失業対策など、現役世代向けの政府支出は、英国やスウェーデンの半分以下で、社会保障もまったく足りていない。
昔は誰もが正社員になれて、終身雇用が約束され、給料は右肩上がりだから自己責任でも何とかなっていた。でも、今は経済成長は見込めず、非正規雇用は全体の約4割に達し、賃金も上がらない。自己責任ではどうにもなりません。

諸外国では、住宅や教育、介護などの行政サービスを無償か、安価に国民に提供しているけれど、日本は公助に後ろ向きで、減税でお金を還付するから国民は自前で何とかしろというやり方。税金が高くて払うのがイヤな私は減税を喜んでいたけれど、実は自助に追い込まれていたんです。

30年続くデフレにしても、物価が安くて助かるって思っていましたが、物価が上がらなければ賃金も上がらない。

◆勝ち組の人は、下の人のことなんて目にも入らない

松尾:僕は、弱い人が弱いことを隠さずとも、風通しよく生きていける社会の実現を望んでいます。ただ、民主主義は弱き者、持たざる者にも光を与える考え方であると同時に、強き者、持てる者にもメリットがなければ十全ではないと思う。

でも、例えば、小学校でみんながお弁当を広げているとき、食事にありつけない子がいるのに、「やった! 今日のおかずはハンバーグだ!」と喜ぶ子がいたら嫌ですよね。幸福を最大化する唯一の方法は、他者とシェアすることなのでは。

和田:でも、勝ち組の人は、下の人のことなんて目にも入らない……。困窮者支援の活動をしていても、立ち止まる人なんていません。

松尾:「伝え聞く悪事」という言葉をつくり、考えてみました。中国の習近平体制は人権を蔑ろにしていると聞いても、自分は被害者や当事者ではないからと、多くの日本人は日々の営みのほうを気にする。遠い国の独裁や地球の裏側の飢饉など、「伝え聞く悪事」に共感できるか……SNSが発達した今、対岸の火事と矮小化しない共感力を持つ人も増える時代でもあればいいのですが。

◆“自分事”と捉える共感力の大切さ

和田:日本は多くの問題を抱え、傷みきっている。もし自分の体が傷みきっていたら、誰もがいいお医者さんを探すでしょう。自分の痛みとして捉え、共感できれば、政治への関心も自ずと高まり、社会は変わる。それにしても、そんな考えを持つ松尾さんは、共感力が高いですね。

松尾:和田さんのほうが、著しい共感力ですよ! 香川県の有権者でもないし、頼まれたわけでもないのに小川さんの選挙区に応援に行ったくらいですから(笑)。

『時給はいつも最低賃金、これって私のせいですか?』(左右社・1870円)
著者は生活苦や将来不安から、息が詰まる日々を送っていた。自分の境遇を課題山積の日本に重ね合わせた彼女は、小川淳也衆院議員のもとを訪れ取材が始まるが、何をどう質問したらいいのかさえわからず、小川議員から質問内容を聞き出す徒手空拳を繰り出す。政治の素人の鋭い問いに小川議員はときに答えに窮するが、8か月に及んだ対話は熱を帯びていく

【音楽・相撲ライター・和田靜香氏】
’65年、千葉県生まれ。音楽評論家・作詞家の湯川れい子氏のアシスタントを経て、フリーライターに。著書に『世界のおすもうさん』『コロナ禍の東京を駆ける――緊急事態宣言下の困窮者支援日記』(ともに共著、岩波書店)、『東京ロック・バー物語』(シンコーミュージック)など

【音楽プロデューサー・松尾 潔氏】
'68年、福岡県生まれ。SPEED、MISIA、宇多田ヒカルのデビューにブレーンとして参加。その後、久保田利伸、平井堅、CHEMISTRY、SMAP、JUJUなどに提供した楽曲の累計セールスは3000万枚超。日本レコード大賞大賞(EXILE「Ti Amo」)など受賞歴多数。2月、初の小説『永遠の仮眠』(新潮社)を上梓

<取材・文/齊藤武宏 撮影/浅野将司>


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この記事のみんなのコメント

4
  • 何時までたっても最低賃金なら、会社か務めてる人のどちらかが悪い。いつも最低賃金なら、その人が悪い。

  • トリトン

    11/6 23:33

    時給が安いとか生活苦しいと言うわりには外食したりコンビニで買った贅沢してるね自分なん仕事してたときは自分で弁当作ったり菓子パン1つに飲み物のみ、時給千円で長いことやってい別に最低賃金だとか思わないな、働けるだけ幸せだしてね、でも派遣の研修する人の時給自分よりかなり高いのに安いと文句言ってる人には役に立たないのに腹立たしいな。蹴りを入れたくなるね無能の人こそ勘してるからね。そして不平言うなよな。

  • 『時給はいつも最低賃金、これって私のせいですか?』⬅多くはその人個人の責任だと思う。

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